第5話 覚悟

 右手を前に出して【フレイムバレット】を連想させると右手から親指サイズの炎の弾丸が放たれる。


 使用するのに魔素を消費するので、魔素【F-】の僕では十発が限界だった。威力も壁にぶつけた感じ、岩一つ破壊できなかったので正直実戦で使えるには程遠い。ただし、ルーンの力で使える魔法なので【フレイムバレットのルーン】のレベルが上昇したら、もしかしたら強くなるかも知れない。



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 名 前:フレイムバレットのルーン

 進化先:

【フレイムのルーン】

 ┗条件:Lv.5

【フレイムウェーブのルーン】

 ┗条件:中級進化、Lv.10

【フレアのルーン】

 ┗条件:上級進化、Lv.10

【剛力のルーン】

 ┗条件:なし

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 【フレイムバレットのルーン】の進化のリストを見ると、やはり【剛力のルーン】にはいつでも戻せるが【強剛力のルーン】にするにはもう一度段階を踏まなくてはならなそうだ。なのでこのまま【フレイムバレットのルーン】を成長させて【フレイムのルーン】に進化させるべきか、そのままレベルを上昇させて使うか悩むことにする。


 では次の本命の【自然治癒のルーン】だ。



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 名 前:自然治癒のルーン

 進化先:

【ワープのルーン】

 ┗条件:Lv.5

【回復のルーン】

 ┗条件:中級進化、Lv.10

【女神のルーン】

 ┗条件:上級進化、Lv.10

【魔素自然回復のルーン】

 ┗条件:なし

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 思いのほか、凄い進化先だ。中でも上級進化の【女神のルーン】がものすごく気になるが、今の僕には手が届かないので置いておくとして、一番上の【ワープのルーン】がものすごく気になる。


 いや、気になるというより、この奈落から逃げる方法かも知れない。可能性があるならここを目指すべきだ。


 僕は迷うことなく【ワープのルーン】へ進化ボタンを押した。


 右手の甲が輝いて右手の中にルーンの感触があり、手を開くと元々【自然治癒のルーン】の淡い水色から紫色に変わっている。紫色は魔法の神エーテリア様を表す色だ。


 急いで装着するとステータス画面に【ワープのルーンLv.1】と表記され、【魔法】の所に【フレイムバレット】と共に【ワープ】が書かれている。


 こ、これで……これでここから出られるッ!


 急いで【ワープ】を連想させる。


 …………。


 …………。


 …………。


 な、何も起こらない!? ど、どうして!!


 …………落ち着け。今の現状を冷静に分析しよう。ひとまず、魔素が切れた場合は魔法が撃てない。【フレイムバレット】を十発撃ったら連想しても出なかった。


 つまり、今は魔素が足りなくて使えないと判断するべきだ。魔素を回復させるには指南書の言葉が正確なら、最後に魔素を消費してから六時間が経過すると全回復するという。フレイムバレットを連射してからまだ一時間くらいしか経っていないはずなので、ゆっくりと時間を過ごした。




 五時間後。


 体の中に魔素が戻った感覚がある。


 よし、集中してここから出るために【ワープ】を連想させる。


 だがしかし、何も起こらない。


「わ、ワープ! ワープ!!」


 奈落に僕の声が虚しく響く。反響した声がまた自分の耳に届いて、より恐怖を掻き立てる。


「お願いだ! 僕にはワープしかないんだ! お願い……! ワープ! 発動してくれ! お願いだあああああ!」


 両手を天井に向けて上げても何も起きず、ただただ絶望に挫けそうでその場に跪いた。


 僕は……奈落から出ることはできないのか? その時、キラリと光る物が目に入った。それは最初に来た時、壁面から倒れた骸骨だ。骸骨の首元?


 吸われるかのように気づけば僕は手を伸ばして光る物を手にした。


 それは綺麗なチェーンに掛けられたロケットペンダントだった。上部に小さな仕掛けのボタンがあって、それを押し込むと、ロケットの扉が開いて中に絵が一枚描かれていた。


 中心に座る綺麗な紫髪の可愛らしい女の子と、それを左右で見守るかのように大人二人が描かれていた。恐らくお父さんとお母さんなのだろう。


 ふと自分の頬に流れる暖かいものを感じた。涙だ。


 幸せそうに笑う家族。でもここにペンダントがあるという事は……恐らくお父さんもしくはお母さんが亡くなったと思われる。場合によっては娘さんかも知れない。ただ、衣装の雰囲気から男性物に見えるから……お父さんか。


 きっと娘さんはお父さんの帰りを待っていたのだろう。お父さんも娘さんに会うためにここで絶望に染まったのだろう。その苦しさが僕の心の中に入っていく。


 せめて……せめてものペンダントを届けたい。紫の可愛らしい女の子が何歳かは分からないけど、いつか届けたい。だから僕はここから生き残らなければならない。


 ワープが使えないというなら何だというんだ。生きろ。生き延びるんだ。死ぬその一瞬まで!


 携帯食と少し食べてまたその時が来るまでじーっと待ち続けた。




 ◆




 七日後。


 検証で分かった事は、ルーンの経験値が貯まる時間が大体分かった。体感ではあるが、1から2に上昇するのに掛かる時間は恐らく十二時間。つまり半日だ。


 レベル2から3に上げるのに二十四時間。つまり丸一日だ。そこから時間が倍ずつ増え、3から4は二日、4から5は四日掛かった。


 つまり、1から5まで上昇させるのは七日必要だと知った。


 それともう一つ分かったこと。これは予想通りだったのだが、ルーンのレベル上昇で魔法の場合、色んなものが良くなった。


 【フレイムバレットのルーン】をレベル1から5まで比較した。


 一つ、レベル1上昇する度に消費魔素が軽減して、2で十五発、3で二十発、4で二十五発、5で三十発使えるようになった。


 二つ、レベルが上昇する度に威力も上昇した。最初は親指くらいのサイズだったものがレベルが上がる度に少しずつ大きくなっていく。増える倍率も消費魔素軽減と同じ率で上昇し、5で三倍の大きさとなった。速度は変わらないが、大きさが大きくなったのはメリットと捉えていいだろう。


 フレイムバレットの検証が終わったので、魔素回復のために六時間待った。


 そして回復した魔素で遂に【ワープ】を意識する。


 頭の中にいくつもの風景が浮かび上がる。恐らく選択した場所に飛ぶ・・ことができるのだろう。しかも距離関係なく消費魔素量は同じのようだ。


 僕はゆっくりと手を伸ばして、一つの景色の場所に飛んだ・・・

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