第3話 希望
夢を見ている。僕を抱える暖かい腕と優しい眼差しを感じる。いつか忘れてしまった僕のお母さんの温もり。
母さん……僕は……生まれて本当に良かったのかな?
「ッ!? い、痛ッ…………」
目が覚めると全身を襲う激痛に思わずしかめっ面になる。どうやらダンジョン地変で落ちたはずなのに生きているらしい。でも生きていると言えないくらい全身はボロボロだ。
ダンジョンの中は光が届いていなくても不思議と暗さがない。これはダンジョンそのものが光を放っているかららしい。なのでダンジョンの中は常にある程度の明るさが担保されている。
周囲を見回して魔物がいないことを確認する。
そもそも魔物がいたらこうして生きてられなかったと思うから当然といえば当然か。痛む体を起こしてしっかり周囲を確認する。せっかく助かった命だから生き抗ってみせないとな。
どうやらここは大きな広間になっていて、出口も入口もないようで周囲が壁に囲まれている。
そんな中、一つ際立つ存在が視界に入った。そこにあったのはボロボロの衣服を身にまとった骸骨だった。
スケルトンとは明らかに違う雰囲気。動く気配もなければ、頭部は近くに落ちていて壁に背もたれて座った状態だ。
ゆっくりと近づいてスケルトンではないことを確認して、持ち物を確認する。我ながら意外にも冷静に行動できている気がする。いつか英雄冒険者になりたいとイメージトレーニングを繰り返してきた甲斐があったのかも知れないな。
腰に掛けられた剣を抜いてみると、残念ながら錆びだらけで使い物にならない。
と、反動で骸骨さんが倒れてしまった。
倒れ込んだ骸骨からカランと金属の音を響かせて小さな宝石が二つ地面に転がり落ちた。その宝石はとても見覚えがあって、急いで落ちた宝石二つを拾い上げた。
右手のひらの拾い上げた宝石二つを見つめる。どちらも親指と人差し指で円形を作ったくらいのサイズで一つは赤い色、一つは淡い水色をしている。
これはただの宝石ではない。なぜなら宝石の中に不思議な文字が描かれているからだ。この不思議な文字をルーン文字と読んでいるが何が書かれているかは読めない。まるで僕の才能である【make progress】のようだ。まあ、僕の才能はルーン文字とはまた違う雰囲気なので全く読めないけれど。
ルーン文字が刻まれた宝石のことを【ルーン】と呼ぶ。
【ルーン】というのは神々が与えた
つまり【ルーン】というのは冒険者だけに留まらず、全世界の人々が求める大きな力である。しかも装着するのに条件は存在しない。才能を授かった後、右手に刻まれる【紋章】に【ルーン】を当てると装着できて、一人三つまで装着できると聞いている。値段は先輩達曰くピンキリらしくて、そこら辺に捨てるくらい使い道のないルーンも存在するという。それでも今の僕にとっては非常にありがたい。
ルーンを左手に持ち替えて、水色のルーンをゆっくりと紋章に当てる。
右手の甲から黒い光が周囲に広がって目の前に画面が現れる。
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名 前:自然治癒のルーン
スキル:体力自然回復力上昇
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次は赤いルーンをゆっくり当てる。
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名 前:剛力のルーン
スキル:筋力上昇
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恐らく、どちらも凄く高価なルーンだと思われる。赤色の剛力のルーンだけで自分の力が強くなったのを感じる。ステータス画面を開くと、【F-】だった筋力が【F+】に変わっている。たった二段階上昇だけど、これだけで【F-】と比べて凄い強い力を感じる。
そして、体力自然回復力上昇。
以前酔った先輩が「自然治癒のルーン欲しいー!」と言っていたのが耳に残っている。非常に高価で普通には手に入らないと言っていた。
既にボロボロだけど元は高貴な衣服に見える骸骨さんの前で手を合わせる。
「貴重なものだけど、ここから生き延びるために借ります。ありがとう」
さて、ここからどうやって出たらいいのか。
と思ったその時、僕の頭に不思議な女性の声が響いた。
《自然治癒のルーンの成長を開始。》
《剛力のルーンの成長を開始。》
《才能【make progress】の成長を開始。ルーンの成長によって成長します。》
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 成長ってどういうこと!?」
僕が投げかけた質問が虚しく広間に広がっていく。もちろん返事は返ってこない。でも間違いなく僕の頭に不思議な声が響いたのは事実だ。
ふと自分のステータス画面が気になって開いてみる。そこには――――
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名 前:アレン・ティグレンス
才 能:make progressLv.1
レベル:1
【能力値】
筋 力:F+ 耐 久:F-
速 度:F- 器 用:F-
魔 力:F- 知 力:F-
耐 性:F- 運 :F-
【ルーン】
・自然治癒のルーンLv.1
・剛力のルーンLv.1
・-
【マスタリー】
〖体力自然回復力上昇〗
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才能のmake progressの後ろに【Lv.1】という文言が追加された。それに装着している二つのルーンも【Lv.1】と表記されている。
そもそもLvってなんだ? さっきの女性の声からして【成長】という言葉を話していたはず。成長というのはこの【Lv.1】が増えていくってことか? 成長させるってことは成長させるための何かが必要だと思うのだが、一体何をどうしたら…………。
暫く現状を悩みながらどうするか考え込んだ。
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