第61話 劣等聖女と剣聖令嬢②

 その後、急いでエフィのところに戻ったけど、もう既に魔物は片付いていた。剣は私に預けていたとはいえ、魔法もエフィの得意分野。だから魔物程度に後れを取るだなんて心配はしてなかったけどさすがだね。話を聞くとなんでも、突然魔物が統率を失って、楽に崩せるようになり、そこからはほぼ瞬殺だったらしい。


 程なくして、騎士団の面々もぞろぞろと拠点に帰還してきた。騎士団の方でも同様の事が起こり、これまでの苦戦が嘘のように討伐が進んだみたいだ。魔物の統率が失われたのは、術者の意識が落ちたからだろうね。


 ただ、拠点は割と惨劇というか、私とエフィが暴れた痕跡があったからか、何があったのかは当然追及された。

 そこは大事にしたくない私の意図を汲んだエフィが上手いこと対応してくれて、偶然会敵した賊と戦闘があったということにしてくれた。


 だってねぇ……バカ正直に私の命を狙う暗殺者です、なんて言ったらせっかくの加護……じゃなくて、情報を引き出すために捕らえた身柄が持っていかれちゃうかもしれない。


 それに、不特定多数に私の命が狙われているという情報を拡散させない狙いもある。目と耳と口はそこら中にあるからね。


 そんな感じで賊(仮)の身柄はオルストロン家で預かるということだけど、当然自由は奪わせてもらった。手足の拘束は当然として、魔力と加護を阻害する魔導具を着けて、搬送中に取り逃がすことがないようにしておいた。


 ロープで拘束したんだけど、やけに手馴れているとエフィに突っ込まれたね。なんかじーっと見てくるから思わず目を逸らしてしまったけど、何も悪いことはしていない。強いて言うなら練習の成果を確認できてちょっと嬉しかった。なんのとは言わないけどさ。


 で……騎士団的にはもう少し訓練を続けてもよかったみたいだけど、イレギュラーな事態が発生したという事で、少し早めのお開きとなった。


 私も結構加護をフル活用したから、治療要員としての役目がこなせなくなるのも近かったと思う。だからここで終わってくれたのは正直助かった。


 一足先に退散ということで帰りの馬車に乗り込んだところで、安心したからか疲れがどっと押し寄せてきた。

 そりゃそうか。純粋な戦闘疲労だけじゃなくて、加護を同時に使った反動もある。座って、エフィの肩に頭を乗せたところで限界がきた。そこから先はあんまり覚えてないけど、幸せな感じがしたから、多分エフィが膝枕でもして、ずって撫でてくれたりしたんだと思う。


 ◆


 無事、オルストロン邸に帰宅して、ルクセウスさんに事の顛末を掻い摘んで説明し、改めてお礼を言った。エフィを私に付けてくれたのは他の目的なんだろうけど、結果として私は護られる事になった。


 エフィは暗殺者の不意打ちを許したり、私に変化した暗殺者に攻撃できずに私を危険に晒したと謝っていたけど、そんなの結果論だ。エフィが傍にいてくれたから、私は生き延びることができた。エフィが、エフィが託してくれた剣聖の加護が私を護ってくれた。


 だから、エフィには感謝こそすれ、謝られる筋合いはないんだ。不甲斐ない、情けないと自分を責めるエフィをそう言い聞かせた。


「話は分かった。ブランノア嬢は災難だったが……よく生きて帰ってきてくれた。エフィもよく彼女を護ってくれた。礼を言う、ありがとう」


「お、お父様? 頭をあげてください」


「私は気にしてないですよ。むしろいい加護が手に入ってラッキーって感じです」


「ブランさんはもっと気にしてください! 命を狙われたという自覚はおありですか?」


「あるよ。あるけどさ……もう怖くないよ。ずっとエフィが護ってくれるもんね」


「なっ……んぅ、それはっ……はい」


「はははっ、一本取られたなエフィ。この信頼……応えなければな」


「当然です。落ち込んでる暇なんてありませんね……」


 そうだよ。私を護るんだから一度や二度失敗したくらいでくよくよしてたらダメだ。

 たとえ、痩せ我慢の強がりだったとしても、今のエフィは最高にかっこいい。


「ブランノア嬢も聖女として表舞台に上がってしまったからこういうゴタゴタに巻き込まれる事もあるだろう。だが、オルストロン公爵家の名にかけて必ず護り通す。うちの娘の婚約者はどこにもやらん。そうだな、エフィ?」


「私のブランさんです。絶対誰にも渡しませんし、絶対死なせません」


 なんかすごい照れる。親子でなんという会話をしとるんだ……。

 でも……嬉しい。嬉しくなってついエフィに抱きついてしまった。さりげなく撫でる手つきが気持ちよすぎる……と思ってたらついあくびをこぼしてしまった。


「……ブランさんもお疲れのようなので、詳しい話し合いはまた後日にしましょう」


「ああ、今日はずっと一緒にいてやりなさい」


「今日は? ふふ……今日も、ですよ」


 エフィはルクセウスさんのからかいを華麗に躱すと、恥ずかしげもなく私をお姫様抱っこして、執務室を後にした。多分私の顔は真っ赤だったと思う。


 ◆


 その後、エフィの部屋にお持ち帰りされて、何をするでもなく手を繋いだり、抱きしめ合ったり、ただただかるーくイチャイチャする時間が続いた。


 あくびをしてしまったけど別に眠いわけではない。馬車で仮眠も取らせてもらったので割と回復している。多分これは話が長引く前に切り上げるための口実に使われたな。まぁ、私も早くエフィとこうやってイチャイチャしたかったから好都合だね。


「そういえば……ブランさんは私の変化に気付いていましたね。どうやって見抜いたのですか?」


「匂い……かな」


「匂いですか?」


「うん。エフィからするえっちないい匂いがしなかった。行きの馬車であれだけ吸って確かめてたんだから間違えるはずないよ」


「……なるほど。散々吸われて、好き放題責め立てられた甲斐があったわけですか。えっちな匂いというのは甚だ遺憾ですが」


「いやぁ……あれだけ喘いでそれは無理あるでしょ」


 エフィ成分を補充する時に堪能したえっちな匂いとそれに僅かに混じる私の匂い。

 背中を任せようとした偽物からはそれが一切しなかったから変だと思った。そういう意味ではエフィを吸ってて本当によかったと思う。


 馬車でエフィを吸って、ちょっと意地悪してえっちな雰囲気になってなかったら、もしかしたら不意打ちで殺られてたかもしれないね。


 抱きついたままエフィの胸元に顔を埋めてスンスンと鼻を鳴らす。そう、この匂い。えっちで興奮して、お腹の奥がキュンとするこの匂いを鼻先がきちんと覚えていたから、私はエフィの偽物を見抜けた。そう考えるといっぱいエフィに護ってもらっちゃったなって改めて思う。


「ブランさん……キスして、ほしいです」


「うん……いいよ」


 エフィから要求してくるのは珍しいけど、そんな甘いおねだりを私が断るはずもない。

 軽く触れるだけのキスから徐々に激しくしていく。呼吸を挟んで、蕩け始めてるエフィと見つめ合い、再び唇を重ねて貪る。


「んぅ、はぁ……っ、ブラン……さん、お願いです。私の傍から……いなくならないでっ」


「大丈夫だよ。エフィの事……信じてるからね」


「はい、はい……っ! 今度は、ちゃんと護りますから……っ」


「いっぱい護ってもらったよ。ありがと、エフィ」


 何度も唇を重ねていくうちこぼれ始めたエフィの心の内を私は受け止める。エフィの存在が私の死を遠ざけて、生に導いてくれた。って言葉で何度伝えても、エフィは意外と頑固だから分かってくれなさそうだね。


 じゃあ……心と身体で伝えるしかないよね。流れるようにエフィをベッドに押し倒して身体を重ねながらキスをする。


「エフィ、好き。大好き。私もう……我慢できないよ。馬車での後半戦……できなかったから、続き……いいよね?」


「……そんなの聞かないでください。私はブランさんのなので好きにしてください。いっぱい……愛してください」


 相変わらずエフィは、私の理性を葬るのが上手い。こんなこと言われたらどれだけ理性を保ってても一撃必殺だよ。


 シュル、シュルと衣服を取り除く甘美な音が耳を揺らす。

 ゆっくりと、丁寧に脱がして、対面した一糸纏わぬ綺麗な姿に、私は目を奪われ、見惚れていた。


 モジモジと恥ずかしそうに。でも、私から目を逸らさずに熱っぽい視線を送り続けるエフィが心の底から愛おしい。


 あなたがすべてをさらけ出してくれるから、私は救われた。

 エフィは立派に騎士をまっとうしたよ。私を護ってくれてありがとう。そう感謝の念を抱いて、私も身体を重ねた。


「ブランさん……」


「エフィ。一緒にいっぱい……気持ちよくなろ?」


「あんっ……はい……私の愛しいお姫様」


 心配事はたくさんあるんだろうけど、私は何も心配していない。だから、エフィもそんな不安はどっかその辺に置いといて……今は私だけを見てほしい。


 大好きなあなたと愛し合う至高の時間に、余計なノイズは必要ないでしょ?

 ま……そんな事考える余裕も無くなるように、全部私で塗り潰して、上書きしてあげる。


 覚悟はいいかな?

 あまーいなきごえ、いっぱい聞かせてね♡


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 これにて二章完結となります。ここまでお読みいただきありがとうございます!

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