第58話 劣等聖女と加護狩りの時間
不自然な魔物の統率はそういう事か。
まずいね。二対一の数的有利だと思っていたのが一気に覆された。これが騎士団の負傷する原因となった魔物だとすると、私達二人がかりでも油断はできない。
「まっ、俺が正面戦闘に向いてないのは認めてやる。だが……こいつらがいればやりようはある」
「応援を呼びたいところですが……」
「無駄だぜ。さっきまではここに戻ってくるようにダメージを与えてたが、今は騎士共を引き離すように動かしてる」
「やはりあなたの仕業でしたか……」
「そこの劣等聖女のスタミナを削るためだ。悪く思うなよ」
数の優位を得て余裕が生まれたからかべらべらと得意げに話してくれるけど……不自然に多かった負傷者の原因はこれか。騎士団にわざとちまちまダメージを与えて、それを癒すために奮闘する私を削るのが本命ってことは……結構まずいかもしれない。
部隊の再編成でここら辺の騎士も引き剥がされているし、今のところ奴の思い通りに事が進んでいる。エフィは応援を呼ぼうとしているけど、それも見越してかこの拠点から騎士を遠ざけるように魔物を操っているとか。さてさて、どうしたものかな。
「エフィ、どうしよっか」
「まずは湧いた魔物をどうにかしたいところですが……これは召喚術によるものでしょう。もしかしたらまだ数は増やせるのかもしれません」
「なるほど。それなら供給元も断っておきたいね。二手に分かれる?」
「……っ」
どうするかエフィに尋ねる。背中合わせで顔は見えないけど、息遣いから難色を示していることは分かった。エフィにとって私は護衛対象。敵の狙いも私だと判明していることだし、別行動するのは得策じゃないって思っているんだろうね。
でも、悠長にしていれば私達はガンガン削れていくだけだし、もしかすると逃がしてしまうかもしれない。魔物を倒しつつ、供給元も断って、なおかつ敵を逃がさないを同時に行おうとするには必然的に分かれないといけないと思うんだ。たとえ、それがどれだけ危険だったとしても。
「私があいつを抑えるよ。だからエフィには魔物の掃討を任せたい」
「それは……っ、せめて逆ではありませんか? ブランさんは狙われているんですよ?」
「じゃあエフィ……私に化けられても戦える?」
「ぐっ……ぅ」
そう、押し黙ってしまうそれがすべてを物語っている。
魔物を私が引き受けて、エフィがあの暗殺者と戦う場合、まず間違いなく見抜かれている弱点を再びついてくるはずだ。
エフィは私の姿をした偽物に攻撃はできない。
まったくできないというわけじゃないのかもしれないけど、攻撃は鈍るだろうし、苦しそうな表情を浮かべられたら自然と手を緩めてしまうだろう。
私に甘くて優しいのはとても嬉しい事だけど、今その優しさは弊害でしかない。
「二人で魔物を倒してから相手取るのではいけませんか?」
「ダメだね。私の聖女の加護を結界維持に費やしている間は全力戦闘ができないし、何よりあいつに自由を与えちゃう」
私を最優先にするあまり、状況を見誤ってはいけない。
確かに聖女の加護で逃がさないための結界は構築しているけど、逆に言えばその結界の維持に私のリソースが割かれている。そんな状態でエフィと息を合わせて共闘は中々厳しいかもしれない。
かといって、結界を張るのを中止して戦闘に参加すれば、あいつは逃げ出すかもしれないし、魔物を囮にして再度奇襲を仕掛けてくるかもしれない。それはエフィも分かっているからか、返答に困っているんだろう。
「……随分と冷静なんですね。命を狙われているというのに怖くないんですか?」
「怖いよ。でも……それ以上にエフィのこと信じてるから」
信じているからこっちを任せられる。
これほどの数を魔物を相手にするなら若干お荷物になりかけている私はきっと離れた方がいい。
こうなってしまった以上、私はエフィに守られるべきではない。
だから――。
「エフィも、私の事……信じて」
「……本当にずるい人」
後ろ手にエフィが手を握ってくる。そして、その手にはエフィが持っていたクラールハイトが押し付けられていた。
「こちらを片付けたらすぐに援護に向かいます。それまで……耐えてください」
「別に倒しちゃってもいいんでしょ? むしろ私の方が先に片付けてエフィの援護にくるまである」
「それならそれで構いません。私の剣と、私の加護……うまく使ってください。信じてますから……ねっ!」
そう言ってエフィは振り向きざまに大きめの魔法を放って、私の正面の魔物を蹴散らした。おかげでやつまでの道が開いた。本当に気が利くね。
さて、聖女の加護よし。重力の加護よし。剣聖の加護よし。そして――模倣の加護よし。クラールハイトも貸してもらったし、ブランノア・シュバルツフルスペックモードだ。
さぁ、加護狩りの時間だよ。
私に目をつけられたんだから……逃げられると思わないでよね……っ。
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