第52話 劣等聖女と番犬令嬢
ということで、私の護衛としてエフィが正式に採用されました。ぱちぱちぱち。
聖女の加護があるから自分の身は自分で守れると言ってしまえばそれまでなんだけど、エフィがいてくれるのなら私も安心できる。
男ばかりのむさ苦しい集団に一人放り込まれる不安もなければ、エフィがオルストロン家と私の繋がりを示すために番犬ムーブしてくれるらしいので、変な事にはならないと思う。
「エフィはさー、私に言いよる男がいたらどうする?」
「微塵切りにして魔物の餌にでもしてしまいましょう」
「おおう、物騒だね。相手が貴族の子息様だったらどうするのさ?」
「関係ありません。こちらは公爵家です。もっとも……相手が王族だろうと容赦はしませんが」
うーん、イケメンすぎる。
なんだこのかわいくてかっこいい女は。好感度マックスなのに惚れ直してしまう。
というかそうなんだよね。
私達の距離感はとっくにバグってるからすっかり忘れてたけど、この子公爵令嬢なんだよね。公爵令嬢にあんなことやこんなことをして無礼極まりないことをしても許されるのが聖女。そのろくでもない聖女の私を公爵令嬢という地位をフル活用して守ろうとしてくれるなんて、護衛として贅沢すぎる。
「お父様が気を回して私にも声をかけて下さり助かりました。おかげでブランさんと一緒にいられます」
「おー、そんなに私と離れたくなかったの?」
「当たり前ですっ」
食い気味に即答。
かわいいねぇ。私もエフィと離れたくなかったからお仕事に着いてきてくれるのは本当に嬉しい。
嬉しいからぎゅーってしてあげる。
「……ブランさんにこうされるの、好きです」
「ここはエフィの特等席だからね。いつでもおいで」
エフィの背中をぽんぽんと撫でながら耳元で囁くと、色白な肌がうっすらと赤みがかっていく。こくんと頷いたエフィは私の背中に回す腕の力を強めて、私に密着してくた。温かくて気持ちいいのでこのまま会話を続ける。
「騎士団ってどうなの? 強い人いっぱい?」
「そうですね。剣聖の加護を持つ私でも剣の腕で敵うか分からない方もいらっしゃいますが、今回は新人さんの教育なのでブランさんが思うような強い方はいらっしゃるかどうか……」
「って言ってもみんな新人ってわけじゃないでしょ?」
「それはそうですが……」
「面白い加護持ちがいたら模倣したい気持ちはあるけど……男の人かぁ」
新人教育のために教官的な立場の人もいるはず。そうじゃなくても新人騎士の中に面白そうな加護を持つ人がいれば楽しめそうだけど……いくら模倣のためとはいえ男の人に触らないといけないのはちょっと怖い……。
ひとまず技術的な何かを目で見て盗む方向でいこうかな。なんて思っていると私の胸を押して少し距離を取り、エフィがじっと私を見つめてくる。
「やはり男性が怖いのですか?」
「え?」
「少し震えてましたよ。ついでに顔にも出てます」
「……うん、怖い」
以前は蔑称だった劣等聖女という呼び名ももう受け入れているし、なんなら喜んで自称している。模倣の加護も強くなったし、以前と同じように劣化コピーすぎて罵られることはないはずだ。
それでも、私が代理聖女を務めたのは12歳。そこで向けられた言葉の刃は私の心をズタズタに傷付けるには十分だった。
ブランノア・シュバルツという個人を蔑ろにして、聖女の加護を宿す器としか見られなかったのも、平民と貴族というどうすることもできない身分の差で謂れのない非難を受けたのも、私は決して忘れていない。
聖女の力目当てで求婚してきたかと思いきや、私にその気がないと知ると手のひらを返したかのようにボロくそ言う偉い人も数知れず。
今の私に以前のような振る舞いをする者がどれだけいるかは分からない。正式に国から認められた聖女の私にあからさまな態度は取れないと思う。けど、元が平民だから血筋を重んじる貴族は私のことが気に食わないかもしれない。
今回私が参加する騎士団の面々にどんな人がいるかも分からないのに、男性が多いというだけで怖がっているのは情けなくてかっこ悪い。でも、エフィはそんな私を受け入れるかのように優しく抱きしめてくれる。
「強がらなくてもいいですよ。私がいます。必ず守ります」
「……うん」
「聖女になったから寄ってくるような打算的な人は私が追い払います。そのための護衛です。今更欲しくなってももう遅いんです。だって……ブランさんはもう私のですから」
「……うん、ありがと。エフィ……好き」
「私も大好きです」
嫌な事を思い出して、少し心細くなっていたけど、エフィが抱きしめてくれるだけでそんな不安もなくなっていく。
そうだ。どれだけ言い寄られたって私にはエフィがいる。エフィが私のモノであると同時に、私もエフィのモノなんだ。私は公爵令嬢様の所有物。その不変の事実さえあれば、私はきっと大丈夫。
「頼りにしてるよ。私だけの騎士様」
「任せてください。私の愛しいお姫様」
そんな言葉を交わして、見つめ合う私達の顔はゆっくりと近付いていき、水音とともにその距離はゼロになる。
この甘くて幸せな時間がずっと続けばいいのにな……なんて思ってしまうのは贅沢すぎる悩みなのかな。
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