第51話 聖女招集と剣聖護衛

 ノックをするとすぐに返事があり、中に入るように言われる。なんかね……エフィと一緒だとエフィをくださいって言いに来たあの時みたいでちょっと緊張する。


 前来た時と同じようにエフィと並んで座っていると、対面にルクセウスさんが腰を下ろした。


「剣聖の加護習得に励んでいるところすまないな。ブランノア嬢にある依頼が来ている」


「依頼?」


「ああ、そうだ。この書状に目を通してくれ」


「はい……よろしく」


「どうして私に渡すんですか。あなた宛のお手紙なんですから自分で読んでくださいよ」


 私は差し出された書状を間髪入れずにエフィに渡した。こういう長ったらしい文を読むのは性にあわないので……そう、これは適材適所。

 なんだかんだぶつくさ言いながらもエフィは私の代わりに読んでくれるし、多分要約もしてくれると思う。


「ふむ……なるほど。ブランさんが……」


「なんだったの?」


「ブランさん、以前お話した事もあるので騎士団はご存知ですよね?」


「キシダン……? あぁ、騎士団ね。あれでしょ、エフィが剣の稽古混ぜてもらってるやつ」


「それです。その騎士団の新人さんに経験を積ませるために魔物討伐の野外訓練を行うのですが、その支援回復要員としてブランさんを招集したい……要約するとそんな内容ですね」


 期待通りエフィは分かりやすく説明してくれた。新人騎士を育てるための実地訓練だけど、むやみに損害を出さないように私の力を借りたいだとか。


 まぁ、一応依頼って形になってるみたいだけど、書状の書き方的にはほぼ強制らしい。暇してる聖女の有効活用みたいなものだろうか。もちろんタダ働きではなくそれなりに報酬も出るし、聖女という地位も貰ってるから国のために一肌脱ぐのもやぶさかではない。


「騎士団か〜。女の子とか少なそうだな〜」


「確かに比率で言えば女性はかなり少ないですが……またすぐそういう考えに至るのは感心しませんね」


「あっ、違くてっ……。かわいい子目当てとかじゃなくて、私……ちょっと男の人苦手だから、また変ないちゃもんつけられたり、聖女の地位目当てで言い寄られたりしたらヤダなって」


 正直、お偉いさんの子息様とかにはうんざりしてる。

 口を開けば馬鹿にするか、結婚だの婚約だの鬱陶しいかのどっちかだった頃を思い出すとちょっと吐き気がする。


 まあ、おかげで私の嗜好がガッツリ女の子好きに傾いて、エフィとこうしていられるようになったと考えればほんのちょっとだけ感謝もあるけど、やっぱりマイナスに振り切れてるからなぁ。私すぐ顔に出るから行かない方がいいんじゃなかろうか?


「そうだな。ブランノア嬢に変な虫が付くのは好ましくない。エフィもそう思わないか?」


「……それは……っ、思いますけど……」


「だからお前も同行してブランノア嬢を守れ。ブランノア嬢が危険にも悪意にも晒されないように護衛として」


「書状にはその他追加人員についての記載などはありませんでしたが……私が参加してもよろしいのですか?」


「どのみちブランノア嬢は招集に応えなければならないだろう。そうなったら結局お前はブランノア嬢と離れるのが嫌で駄々をこねるはずだ」


「うっ……おっしゃる通りです」


 私への話なのにエフィも呼んであるのはこのためだったのかな?

 同行するように言われて困惑するエフィだけど、ルクセウスさんにからかうように詰められて顔を真っ赤にさせるエフィがかわいすぎて今すぐ抱きしめたい。


 私と離れるのが嫌で付いてくるとかもう大好きの極みすぎる。なんだか嬉しくて自然と頬が緩んでしまうなぁ。


「ブランノア嬢もエフィが同行するなら多少安心できるだろう。ブランノア嬢に求められているのは聖女としての力だが、万が一が起こらないとも限らない。そうなった時身近に模倣できる加護は置いておいた方がいい」


 ルクセウスさんが語る、エフィを同行させる理由はもちろんエフィ個人の感情も優先されているけど、それと同じくらい私のこともきちんと考えられている。


 国が騎士団の損害を減らしたくて私の力を必要とするように、ルクセウスさんの立場からしても聖女である私に何か不測の事態が起こるのは困るのだろう。


 そんな時に、一緒に来るエフィが護衛としての役目を果たしてくれれば何も問題なく、エフィは剣聖の加護の模倣要員としても機能する。


 いくら私が器用大富豪を自称しているとはいえ、使い慣れた加護とそうではない加護では練度然り模倣時間然り、色々と差が出てしまう。そういうことも考慮して、ルクセウスさんはエフィを私に付けてくれるんだと思う。


「まぁ、エフィ嫌だと言うのなら代わりの護衛を探すが……どうする?」


「そんな分かりきったこと聞かないでください。ブランさんは私が守ります」


「よし。ブランノア嬢に集る蝿を斬り伏せてこい」


「もちろんです。私のブランさんです、誰にも渡しません」


 ……もしかしてこっちが一番重要だったりするのかな?

 エフィが常に私の傍で騎士のような振る舞いをしてくれれば、ブランノア・シュバルツとオルストロン公爵家の関係は自ずと分かるだろう。


 私とエフィの関係を見せ付けて、私への手出しを牽制するのが一番の目的かもしれないなんて……二人の物騒な会話から自惚れたことを思ってしまってもいいのかもしれない。


 それはそうとして、エフィの『私のブランさんです』という凛々しくてかっこいい発言にドキドキしてしまった。脳内にしっかり保存して、とりあえず5億回くらいリフレインさせようと思う。

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