第48話 重力聖女の過剰適正

 それから加護の模倣と剣聖修行を繰り返して、いったん朝の部は終了した。いやあ……朝から本当にハードだったね。エフィのおはようのちゅーとご褒美宣言がなければ頑張れなかったかもしれない。


 というか修行中に何回か頭をよぎったけど、なんで私こんな一生懸命剣技を磨いているのかな? 我、聖女ぞ?

 でも、剣聖の加護を持つ御令嬢様にバチバチに稽古つけてもらってるこの環境……よくよく考えたら贅沢すぎるのではないだろうか。そう考えたらありがたい指導……無駄にはできない。


「おはようございます。ここのところ随分健康的な生活をなさっているようですね」


「あ、リンネ。おはよ。エフィが寝かせてくれないからね」


「……そんないかがわしい言い方しなくてもいいじゃないですか」


 軽くシャワーで汗を流して、着替え終えたところで、朝食の準備ができたことをリンネが知らせに来てくれた。

 彼女にも朝の挨拶をして、少し前までリンネに毎日起こされていたと思うとなんだか懐かしくなる。


 リンネは私の生活リズムを把握してるんじゃないかってくらいちょうどいい時間に起こしてくれていた。それに対してエフィは朝早く決まった時間にやってきて、私が眠い、あと五年とお願いしても容赦なく叩き起してくる。リンネがどれだけ甘やかしてくれていたのかが身に染みるね。


「というかブラン様はどっちかと言うと寝かせない側じゃないですか」


「およ? 分かっちゃう?」


「……愛を確かめ合うのは結構ですが、お嬢様もブラン様もまだ成長期なので、夜更かしは程々にしてくださいよ?」


「……考えとくよ」


 いやぁ、耳が痛いね。

 ブランノア・シュバルツ、御歳15歳。最近はエフィのおかげで健康的な生活を送っているけど、夜が盛り上がってしまった時はもうどうしようもない。

 うん。結論、エフィがかわいすぎるのがよくない。リンネさん、咎める相手間違ってますよ。


「……もう面倒なので止めません。好きにしてください」


「うん、好き勝手ヤラセてもらうね」


 満面の笑みでそう返すと、リンネがとても冷たい視線で見てくる。好きにしろって言ったじゃん。正直、私の理性がどれだけお仕事したところで、エフィがすべてを破壊していくのだからどうしようもないというのは嘘では無い。


 私のスイッチを入れるか入れないかエフィに委ねられていると言っても過言ではないのだ。

 だから……ね。そんな吹雪が吹き荒れているみたいな冷たい目やめなよ。凍えちゃうじゃん。


「まあ……いいですよ。これはお嬢様とブラン様の問題なので、お二人がいいのなら文句はありません」


「やたっ」


「それはいいのですが……ブラン様、私の加護で悪さ働いたりしてないですよね?」


「……ウン、シテナイヨ」


「目を逸らすな。こっちを見てもう一度」


「……ブランさん、よく分かんない」


「……私の加護でお嬢様にしたこと、全部吐いてください」


 えー、重力の加護でエフィにしたこと?

 そんな大したことしてないと思うけど……重力壁ドンとか、重力拘束とか、重力強制脱衣とか、重力えっちとか、それくらいしかやってないよ。あ、重力キスもしたっけ。

 よかった、悪いことなんにもしてないね。


「どこがですか。悪用に悪用を重ねすぎじゃないですか!」


「えー、そんなことないでしょ」


「そんなことありすぎます。だいたいなんですか、重力えっちとは……っ。私の加護をいかがわしいことに使いすぎです」


「……でも、便利だしエフィも悦んでるよ?」


 リンネさんの悪用の基準が低くて困っちゃうね。今挙げたのは重力の加護の応用でもまだ序の口。私の真の悪用はまだ見せていないというのに……このくらいで悪だなんて、面白い冗談だね。


 それに、重力の加護がいい感じに汎用性高くてえっちにも便利なのが悪い。こんな便利な力あったら普通使うもん。エフィだって文句言わないし、悪用って言ってるのリンネさんだけなんですが?


「うぬぬ……というか重力強制脱衣とは?」


「重力をなんかいい感じにあっちこっち働かせて脱がせる技だよ? おや、もしや興味あるかね?」


「あっ、ありません。だいたいそんな技覚えてなんになるって言うんですか?」


「リンネなら遠隔で重力の加護も使えるし、離れた相手を強制ストリップショーに参加させられるよ?」


「そんな説明しなくても……だいたいそんな精密な操作なんてできません。私より加護の扱いが上手なブラン様だから可能な技じゃないですか」


 そんなことないと思うけどなぁ。

 劣化コピーの私ができるんだから本家のリンネもきっとできるよ。私は応援するよ。リンネの追い剥ぎへの道。


「嫌な応援です。もしその道に進むのならブラン様を剥いてあげないといけませんね」


「おー、できたら褒めてあげる。ま、他にも重力の加護の応用は色々思いついてるから、今度またゆっくりお茶でも飲みながら話し合おうよ」


「……そういう有意義な時間なら大歓迎なんですけどね」


 おや、まるでそれ以外の時間が有意義ではないみたいな言い方だねぇ。ま、今はエフィの剣聖の加護で手一杯だけど、それが終わったらリンネの覚醒重力の加護について研究したいから、またいっぱい有意義な時間を過ごせるよ。


「……なんでしょう。とても嫌な予感がしました」


「気のせい気のせい。さ、朝ごはん朝ごはん。朝から運動するとお腹空くんだよね」


「……気のせい、だといいのですが」


 大丈夫、大丈夫。悪いようにはしないから。

 私の気の済むまで付き合ってもらうだけだから……ね。私もリンネの追い剥ぎ道を応援するから、リンネも私の器用大富豪への道を応援するってことで……末永くよろしくね。

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