第47話 劣等聖女の悪いお口
「はぁ……疲れた。ちょっと休憩〜」
「お疲れ様です。どうですか? 定着度は上がりましたか?」
「そんなホイホイ上がるもんじゃないよ」
「そうですか……」
エフィが期待の眼差しを向けて尋ねてくるけど、そんな簡単に定着するなら私の器用大富豪への道のりは随分平坦なものになるだろう。エフィの膝に転がりながら正直な所感を告げるとシュンとした表情を浮かべる。かわいいかよ。
しかし……朝から激しい運動だね。お互いに剣聖の加護を使用しての稽古はこれが初めてって訳じゃないんだけど、なんていうかこう……エフィの本気度みたいなのが違った。私の成長を促すためか、一振り一振りが本当に鋭くて、剣聖の加護に適応してきているはずの私でも防戦一方。咄嗟に聖女の加護を使ってしまいそうになる場面もしばしばあった。
ただ、その度にグッと堪える必要もあるのが、今回の剣聖修行の縛りでもある。最大効率で剣聖の加護の定着度を深めるために、エフィに模倣の加護以外の加護は使用禁止を言い渡されてしまっている。すべての意識を剣と剣聖の加護に集中させろとの要望に頑張って応えてはいるのだけど、咄嗟に防御や回避に聖女の加護と重力の加護を使ってしまいそうになる。困ったもんだね。
「ふぅ……ちょっと落ち着いてきた」
「少しペースを上げすぎましたかね?」
「いや、いいよ。このままガンガンいこうか」
そんな感じで結構ガチ目の稽古だったけど、私はうっすらと汗もかいて息も上がっているのに対してエフィは澄ました顔でいる。この調子で繰り返していくのは中々にきつそうだけど、エフィのご褒美につられてやると宣言してしまったからにはやるしかないでしょ。
エフィの柔らかい太ももで回復もできたし、まだ弱音を吐くには早すぎる。ここで私が投げ出したらご褒美が無くなってしまうかもしれないし、気持ちよく夜を迎えられない。そう、すべてはエフィとあんなことやこんなことをするため……!
「よっし、休憩終わりっ! 朝ごはんの時間まであと二回……いや、三回はやれそうかな」
「……意気込むのはいいですが口と行動が噛み合ってませんね」
「……さてはエフィ、魔法で私の頭を縫いとめてる? 全然起き上がれないんだけど?」
「私は何もしてません」
ううん、変だな。
休憩を終えて続きをしようと思い立ち上がろうとしたけど、エフィの膝から頭が離れない。
まるでこの楽園から離れたくないと言ってるかのようだ。もしくはエフィが私の頭をずっと乗せてなでなでしたい願望があって魔法を使っているのかもと思ったけどどうやらそれも違うらしい。
「どうですか? 起き上がれそうですか?」
「ちょっと厳しいかなー」
「そうですか、それは困りましたね」
「はっ……あと五年っ!」
私を撫でるエフィの手が止まり、立ち上がろうとする気配を察した私はつい咄嗟に重力の加護を発動させてしまった。エフィが立ち上がるのを防ぐためにエフィの太ももに上から、私の頭がエフィの膝から転げ落ちるのを防ぐためにエフィのお腹に押し付けるように横からそれぞれ重力がかかる。
人為的な力が働いた事に気が付いたエフィは大きくため息を吐き、私のほっぺをぎゅーっとつねった。
「リンネの加護ですね? 他の加護に浮気だなんて……本当にイケナイ人ですね」
「いひゃいいひゃい〜、そんにゃひっぴゃらにゃいで〜」
「まったく……他の加護は使わない約束だったではありませんか」
「うぅ……エフィには模擬戦中の使用は禁止されてたけど今は休憩中だからセーフ! 圧倒的無罪!」
「アウト、有罪です」
「そんなっ」
ポカポカとエフィが叩いてくる。咄嗟に並べた言い訳は通用しなかった。
「本当によく回る悪いお口ですね。そういうお口は……塞いであげないといけません」
顔を両手で挟まれたかと思ったら、エフィの顔がみるみる近付いてきて……ちゅっと私の唇に柔らかいものが当たった。
息を奪われて、キスをされているのだと気付いた私は思わず目を丸くした。
ただ、そんな軽いのじゃ満足できない。
触れ合うだけのキスじゃなくて、貪り、貪られるような激しいのがほしい。
そんな思いに駆られて、私はいつものように舌を忍び込ませようとするも、その瞬間エフィの唇がキュッと固く閉ざされた。
私の舌は行き場を失い、チロチロとエフィの唇を舐めるだけに留まる。やがて唇が離れていくと、エフィはしてやったりという表情で私を見下ろしていた。
「……ブランさんなら、そうくると思いました……」
「傾向と対策ってやつ?」
「そうです。何度もやられてますからそろそろ覚えました」
得意げなエフィがかわいい……じゃなくて、たった一回防いだだけでしょ。それで得意げにされても困る。
私は手を伸ばしてエフィの頭を抱えるようにして持ってくる。何度やっても無駄と言わんばかりにあっさりと唇に触れさせてくれたエフィだったけど、無警戒なんて私の事を甘く見すぎている。
確かに閉ざされた唇を舌だけでこじ開けるのは不可能だけど、今の私には……重力の加護がある。私の舌とエフィ唇それぞれになんかこう……いい感じに力の向きを加えてあげれば……ほら開いた。
「んっ……う……」
「ちゅる……っ、ん……んっ」
「ぷはっ……本当に悪いお口です」
「ごちそうさま。おかわり、ちょーだい」
「……あげません」
いつも通りに口内を蹂躙されたエフィはどこか悔しそうに頬を膨らませる。
ひとまず、一発いいのが決まったので満足っちゃ満足だけど、エフィのかわいくて、愛おしい姿を見てるともっとほしくなって、つい催促をしてしまった。
一瞬、顔を近付けて迷う素振りを見せたエフィだったけど、ハッとしたように背筋を伸ばし、私の唇に指で作ったバツ印を重ねてぷいっと顔を背けた。
「……続きは、頑張ってくれたらしてあげますから」
赤らんだ顔でぼそぼそ呟くエフィだったけど、ちゃんと私の耳には届いていた。
俄然、やる気が出てきたので、続きの剣聖修行も頑張ろうと思う。
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