第46話 劣等聖女と剣聖修行
重力の加護をこの身に宿すことができて変わった事が二つある。
まずは、重力の加護を模倣するためにリンネとの接触が必要なくなった事だ。これまではほぼ私の専属メイドみたいな形で近くにいてくれていたリンネだけど、加護の定着に伴い定期的な接触の催促が無くなった。だから、別にもういつも近くにいてもらう必要はそんなにないんだけど、結局私のことをなんだかんだ理解してくれているリンネにお世話されるのに慣れちゃっているので、これまでと変わらず暇とかちょっとセクハラとかで呼び出して一緒に過ごす時間を確保している。
忙しいからくだらない理由で呼び出すのは止めろと言われた事もあったけど、私がそれを聞く義理は無いし、なんだかんだ文句を言いつつも呼び出しに応じてくれるリンネなので実はそんなに嫌がっていない説を推したい。
ツンデレかよ、かわいいね。
そして、もう一つ。
いつもは目覚めた時顔を見せてくれていたのはリンネだったのが、なんとびっくり。エフィになりました。
私が重力の加護を宿したことはもうエフィも知っている。
手に入れてすぐに見せびらかしに行って、その身体で分からせたから当然だね。
で……だ。こればっかりはしょうがない事なんだけど、剣聖の加護より先に重力の加護を手に入れる事になってしまって、エフィはそれが少し、ほんのすこーしだけ不服なようだ。
そのせいかな。
普段は私が気が向いて、エフィが暇そうだったら剣聖の加護を借りて一緒に特訓とかしてたくらいだったけど、私に早く剣聖の加護を宿させたいエフィが積極的に加護を模倣するように迫ってきてるわけだ。んー、言っちゃえばマーキングみたいなものかな。ま、模倣の加護に上書きとかいう概念はないから、剣聖の加護を手に入れたところで重力の加護が消えるわけじゃないんだけどね。
◇
「おはようございます。ブランさん、起きてください」
「んぅ……あと五年……」
「ダメです。その減らず口はこうです」
「んっ……エフィも積極的になったね」
今日も今日とてエフィに起こしてもらえる幸せな朝だ。
健康的な時間に起こされて、おはようのキスをされて、そのままエフィをベッドに引き摺りこんで二度寝……はダメですか。
「さ、今日もやりますよ。ブランさんには早く私の加護を使いこなせるようになってもらわないと」
「ふわぁ……そんなに急ぐ必要ある?」
「あります! ただでさえリンネには先を越されてしまっているのですから……ブランさんには頑張ってもらわないと」
「って言ってもねぇ……加護の性質もあるし、同じようにはいかないよ」
模倣した加護を定着させるのに必要な事はシンプル。ただただ、模倣した加護を反復して使うことだ。これは使うというのが大切で、ただ加護をこの身に宿していればいいというわけではない。
たとえば、私がエフィの剣聖の加護を模倣して、それが切れるまで何もしなかったとしたら、定着度は一切変わらない。剣聖の加護の経験値を積むには、実際に剣を持ち、剣を振って、身体を動かす必要があるというわけだ。
「剣聖の加護はいつでもどこでも使える加護じゃないし、重力の加護に比べて定着が遅いのは仕方ないよ」
「むぅ……やはりリンネと隠れてべたべた触れ合っていたんですか?」
「……それは否定しないけどさ、重力の加護は極論床と天井を行き来してるだけでもいいから部屋でも特訓できるし、加護の消耗はちょっと大きいけど体力的な消耗は少ないでしょ?」
「……剣聖の加護は加護の消耗もあり、実際に身体を動かす必要があるから体力的な消耗もある。一日に何度も繰り返して使える加護ではないということですか」
「そういうこと」
剣聖の加護は一日に何回も模倣できる代物じゃないので、そこは重力の加護と比べてはいけない。ま、それでもなんだかんだ着実に模倣は進んでるから時期にモノにできるとは思うけど……わざと進捗をゆっくりにして、毎日エフィに起こされる朝を引き延ばすのもありかなと思う。
「じゃあ、限界を超えてもらうしかありませんね」
「うぇっ? なんでそうなるの?」
「消耗の事も踏まえて最大効率で加護を回転させれば……!」
「ええ……言っておくけど私の加護とエフィの加護で最低でも二重発動は確定してるからそんな体力持たないよ?」
「それはおかしな話ですね。夜の……その、あの……無尽蔵なスタミナを……ここでも発揮させて……ください」
「恥ずかしがるなら言わなきゃいいじゃん」
私のスタミナについて言及するのに、熱い夜の時間を引き合いに出すのはいいんだけど、次第に言葉の勢いがなくなって、顔もみるみるうちに赤く染めて……朝から誘ってるのかな?
ベッドに引き摺り込んで二度寝コースじゃなくて、明日の朝までコースがお望みなのかな?
「うぅ……と、とにかくっ! 私を寝かせてくれないあの尽きない体力をなんとか引き出してくださいっ!」
「えぇ……どうしよっかな?」
「……その、頑張ってくれたら、ご褒美……あげますから」
「具体的には?」
「……そんなの、言わせないでください」
エフィは本当にかわいくて愛おしいね。
そこまで言うのなら、やるしかないね。
「えっ、きゃっ」
「さっ、頑張ろっか」
「え、えっ……んっ……あっ」
エフィの挑発ですっかり目も覚めたのでここは本人の希望通りに頑張ってみようと思う。
私は立ち上がってエフィをすっぽりと腕に収めるように抱きかかえる。いきなりの事で困惑しているエフィにすかさずキスを落として、耳を噛みながら囁く。
「……激しい運動になりそうだね」
さて、これは剣聖修行と今晩のどっちの話かな?
ま、どっちでもいいよね。
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