第44話 劣等聖女の重力悪用
「ということでメイドさん候補捕まえたから、あとで教育よろしくね、メイド長」
「……相変わらず手が早いですね」
「手が早いって人聞き悪いなー」
ソラちゃんとルナちゃんをうちのメイドさんとして雇い入れる事が決まったので、それをメイド長のリンネに報告する。ま、今のところシュバルツ邸のメイドさんになってくれるのリンネだけだからメイド長の肩書も意味がないんだけど、メイドさんに関する全権はリンネに任せるつもりだ。
後輩を用意できたのはいいけど、完全に素人だから一から仕事を仕込まないといけない。そういう意味では最初は大変になるかもしれないけど、リンネは優秀だし、メイドさんのお仕事に関しては私もある程度覚えているので二人の教育はそれほどてこずらないと思う。
「で、当然ブラン様のお眼鏡にかなうくらい容姿端麗で、さぞ素敵な加護を持った女性なんでしょう?」
「よく分かってるね。二人ともすっごくかわいかったよ」
さすがメイド長。私のことはお見通しってか。
ソラちゃんもルナちゃんも整った顔ですっごいよかったし、二人ともいい加護を持ってるから引き入れられて本当によかった。
「その方々の加護とは?」
「伝心の加護と受心の加護だって。ざっくりいうと離れた相手に声を届けられる加護と心の声を読み取る加護」
「それは……ブラン様の手に渡ってはいけなさそうな加護ですね」
「なんでよ」
「悪用が捗りそうなので」
悪用って……風評被害が過ぎる。
まったく、私は正規の使い方しかしてないってのに。
「どの口が……。では伝心の加護とやらはどのように使うんですか」
「エフィに言葉責め」
「言わんこっちゃない。というかもうやったんですね」
「うん。すごく気持ちよさそうだったよ」
「そういう生々しい話は聞きたくないんですが……言っても無駄ですか。ここ最近は夜の方も激しいみたいですが……ほどほどにしておいてくださいね」
「あれ、もしかして声とか漏れてる?」
「いえ、防音の方は問題ありません。ただ……シーツやらなにやらが毎度のこととんでもない事になっていますので……」
「あー、エフィからでた液体、略してエキタイだね」
「略さないでください」
そうだねぇ……ぐっちょぐちょにしてるからね。
お掃除大変にしてごめんなさいって気持ちはほんのちょっとだけあるけど、一応聖女の加護で後処理はしてるから許してほしい。
「まったく……お嬢様のお身体が心配です。あまり無理させて壊してしまわないようにお願いしますよ?」
「……ウン、善処はするよ」
「しない人の言い方ですね」
だってさ、そんなの無理じゃない?
エフィがかわいすぎる。私の理性無くなる。私止まれない。
ほら、私悪くなくない?
「暴論です。お嬢様も本当に悪いお方に引っかかってしまったものですね」
「えへへ、それほどでも」
「褒めてないのですが……そろそろですか?」
「うん、もう一回いいかな?」
リンネがいるということは、ただいま絶賛重力の加護強化トレーニングの最中だ。
さすがというべきかなんというか、リンネは私の模倣の加護のキレるタイミングを熟知していて、ちょうど切れそうなタイミングで声をかけてきてくれる。
本当に気が利くね。リンネの手に触れてもう一度重力の加護を宿したらトレーニングを再開する。雑談しながらでも加護を扱えるようになれればいざという時に武器になる。
「ところで……ブラン様にお尋ねしたいことがあるのですが」
「なになに、何でも聞いてよ」
「重力の加護の運用アイデアについてです」
「運用?」
「はい。以前ブラン様が重力の加護を用いた疑似的な飛行をしてから私も時間がある時に練習しているのですが、そういった普通とはちょっと違った運用について何か思いついていないかと思いまして……。加護悪用の常習犯ならなにかいいアイデアありませんか?」
「えー、あれもそんな捻った使い方じゃないんだけどなー」
空に落ちる角度を調節していい感じに疑似飛行するのも私の中だと割とありふれた使い方なんだけど、リンネ基準で言うなら悪用らしい。てか、さっきから悪用悪用言い過ぎじゃない?
そんなに言うなら本気で悪用方法考えちゃうけど……あっ、閃いた。
「ちょっと失礼」
「なんですか、セクハラですか?」
「うん、そう」
私はリンネを壁際まで追いやって手首を掴んで頭の上で固定する。
リンネに触れてリンネの重力に干渉することで、手首と足首を壁に押し付けるような力を働かせる。
「これはっ……なんのつもりですか?」
「重力の加護を悪用したセクハラ。重力の枷で疑似拘束プレイ」
ある一点にかかる重力を強くして四肢を動かせなくする。重力を枷として使う擬似拘束だ。
頭の上で手首を固定され、股下に膝を差し込まれて足を少し開いた状態で壁に押し付けられているリンネの姿は控えめに言って興奮する。
散々悪用悪用言ってくれたけど、真の悪用がどういうものか身体に教えてあげよう。せっかく腕も上がってる事だし、いっちょ腋でも擽って分からせてあげる……なんて思ったのもつかの間、リンネも重力の加護を使い私の手がリンネの身体から離れていくような方向の重力をかけ始めた。
「……本当に悪用のプロですね。私が重力の加護の保持者でなければこのままされるがままになってしまっていました」
そう、この技はリンネには効かないんだよね。
私がリンネに触れているということは、リンネも私に触れている。
本家重力の加護で反対方向に打ち消すような力を働かせられるとやや劣る私の模倣ではどうにもならないし、私の手がリンネから離れてしまうとこの拘束もなくなってしまう。
リンネは私の手を押し返して私の重力の加護の干渉下から脱出。そのため重力の枷からも解放されて、固定されていた手首をさする。
自慢のジト目でこちらを見てくるけど、この運用はお気に召したかな?
「どう? 参考になった?」
「ブラン様を押さえ込むための技術として覚えておこうと思います」
「おー、いい度胸だね。こっちには聖女の加護があるんだぞ? そんなん効かないよ」
「……ちっ、このハイスペック聖女が」
ふふん、なんとでも言いなよ。
しかし、パッと思いついただけだけど中々いい使い方かもしれない。リンネには効かなかったけど、私の重力干渉から抜け出す手段がない人にはかなり効果的だと思う。
加護の模倣時間の成長から考えて、多分もう少しで重力の加護はモノにできるから、手に入ったらエフィで試してみようと思う。うへへへへ。
「エフィに拘束プレイ……楽しみ〜」
「お嬢様、すみません。悪用の可能性を広げてしまったかもしれません」
リンネから持ち掛けられた相談のおかげで思わぬ収穫があった。
さすが未来のメイド長、いい仕事をする。これはボーナスを弾んであげないとね……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます