第42話 劣等聖女と双子勧誘

 とりあえずエフィはなんか暴走してるし、ソラちゃんは私が聖女だと知ってとんでもない報酬を請求されると思って慌ててるし、ルナちゃんにはなんかいかがわしい事をしてるものだと誤解されるし……困ったね。


 エフィがなんで私に詰め寄るのか分からないけど……この状況、どういう順番で処理していこうか。とりあえず……一番簡単そうなのはエフィかな。


『ソラちゃん』


「ひっ、すみません。必ず払いますのでもう少し待ってください」


『あー、そう言うのいいから。とりあえずこの子静かにさせたいからちょっと後ろ向いて耳を塞いでてくれない?』


「は、はいっ」


 なんか歳下の女の子を脅して言う事聞かせてるみたいで嫌なんだけど、ソラちゃんの勘違いというか被害妄想のおかげですんなり言う事を聞いてくれるのは助かる。

 彼女が私達に背中を向けて耳を塞いだ。それを確認した私は、今もなお私の肩を揺らすエフィと目を合わせ、少し強引に手首を掴んで――押し倒した。


「ブッ……ブランさん……っ?」


「ちょっと黙ろうか」


「んっ……」


 エフィを黙らせるのは簡単だ。こうやって物理的に口を塞いであげればいい。舌を滑り込ませてくちゅくちゅといやらしい水音を奏でさせてあげれば、エフィはもう声もあげられない。


「んんっ……っ、あっ」


 息もさせない。長くて、深くて、強烈な蹂躙をお見舞いする。抵抗は許さない。私が覆い被さるようにしているから逃げさせもしない。


 時折腰を跳ねさせて手を動かそうとしてくるけど、その度に快楽で上書きしてその思考を刈り取る。エフィがどこをどうされれば気持ちいいのかはもう分かっているんだ。あともう少し、堕ちるまで切なげに喘ぐこともできずに息も言葉も奪われて、何も考えられないくらい私にだけ夢中になればいい。


 これだけでかなり静かになったんだけど、私は一つ試してみたいことがあった。伝心の加護を宿している今だからできる言葉での愛撫。


 エフィの口内を舌で責める際、必然的に私も言葉を奪われる。本来ならキスをしながら語りかけるということはできないのだけど、今なら声を用いずに直接脳を犯すことができる。


『エフィ』


 心の声と言っても無機質な声ではなく、きちんとその人の声に感情が乗るのはソラちゃんから受けた伝心の加護で分かっている。普段エフィの耳に囁くように甘く頭の中を撫でるように優しく名前を呼んであげると、エフィの身体がビクンっと強ばった。


『好き。愛してる』


 キスをしながらだと言えない愛の言葉で、じっくり溶かすように。内側と外側を同時に責め立ててあげると、エフィは――あっという間に快楽の沼へと沈み、堕ちていった。


「ふぅ……他所様のお家でナニヤッてるんだろうね」


 ノックアウトさせたエフィの頭を膝に乗せながら、口周りについてしまった唾液を舐めとる。うん、おいしい。

 さて……エフィには悪いけどこれで次の段階に移行できる。


『ソラちゃん、もういいよ』


 ソラちゃんに呼びかけて、エフィの長くて綺麗な髪をサラリと掬うように撫でる。夜は――こんなもんじゃ済まさないからね。


 ◆



 エフィを静かにさせて、次はソラちゃんとお話だ。

 現在の状況を整理すると、ソラちゃんに私が聖女ブランノア・シュバルツだということがバレてしまった。そのため、聖女を呼び出してルナちゃんを看させたことでソラちゃん達では払えないような莫大な報酬を要求されるものだと思われている。


 うーん、ソラちゃんの怯えるような表情がそそられる……じゃなくて、やっぱり一般の人にとっての聖女ってそういう認識なんだね。本物の聖女様は正真正銘の貴族令嬢様で次期王妃様だから、もしかしたら一つの依頼で莫大なお金が動くのかもしれないけど、私はエフィを手に入れるために成り上がったなんちゃって聖女だからそんなことしないよ。


「とりあえず……ソラちゃんが思っているような請求はしないから安心してよ」


「……本当ですか?」


「うん。その代わりと言っちゃあれなんだけど、お願いがあるんだ。あ、もちろん嫌だったら断っていいからね」


「……まずは内容を聞かせてください」


 請求はしないと聞いてソラちゃんは安堵の息を漏らしたけど、私が交換条件のような言い方をしたからか少し警戒させてしまった。もちろんこれは彼女達の意思が最も優先されるべきで、私への恩だとか引け目とかは一切考えなくてもいい。


 それを踏まえて私はソラちゃんに、私の家のメイドさんになる気はないかと尋ねた。


「どうかな?」


「どうかなって……ちょっと待ってください。それってお仕事を提供してくれるってことですよね?」


「うん、もちろんお給金はちゃんと払うよ」


「話良すぎじゃないですか? そちらになんの得があってこんな話を私達に持ちかけるんですか?」


「得ならあるよ」


 確かにソラちゃんからすれば、支払いもいらない。その上で仕事をもらえる。あわよくば住み込みで働くことだってできる。いいことばかりで逆に怪しいって思われてるみたい。


 でも、ソラちゃんとルナちゃんを引き入れたい気持ちは本当だし、私にとって大切な二つの条件を満たしている彼女達は是が非でも手に入れたい。


「もう分かっていると思うけど、私の加護は模倣の加護。ソラちゃんの加護も、ルナちゃんの加護も、それこそ聖女の加護だって模倣できる。ただ、聖女の加護みたいにいつでも使えるようになるには何度も模倣しないといけない。だから、言い方がすごく悪くなっちゃうけど、いい加護を持ってる人を近くに置いておきたいんだ」


「……なるほど。私とルナの加護が目当て。そう言ってもらえたらまだ納得できます。正直、今すぐにでも食いつきたくなるいいお話ですけど、ルナと話し合わないことには……」


「いいと思うのです」


「ルナ? 聞いてたの?」


 第三者の声が割り込んだ。いつの間にかまた扉を開けてルナちゃんがこちらを見ていた。ルナちゃんはさっきも起き上がっていたみたいだし、今はもう体調もそんなに悪くなさそうで顔色もいい。そんな彼女はソラちゃんの隣に座り、私をじっと見つめた。


「聖女様のところのメイドさんになれば、貧乏生活もおさらばなのです」


「それは……そうだけど」


「それに、聖女様の近くにいればまた聖女の加護の恩恵を受けられるのです」


「そうだね。ルナちゃんがまた体調崩しちゃっても、私がいれば安心だね」


 ルナちゃんは私の勧誘に乗り気なのか、意外にもソラちゃんの説得を手伝ってくれる。そして、まだ言っていなかったけど、彼女達にとっての最大のメリットは、私の近くにいれば私の力の恩恵を受けられるということだ。


 ルナちゃんはその加護の性質上、また今日みたいな事も度々あるだろう。そんな時に私がいれば、何も心配はいらない。聖女の加護の力は短い時間でもしっかり示せたはずだから、ソラちゃんもその恩恵がどれほど大きいかはもう分かっているだろう。


「……分かりました。そのお話……私達でよければお受けしたいと思います。ルナもいい?」


「はいなのです」


「やった。じゃあ、よろしくね、二人とも!」


 私は彼女達の前に両手を差し出した。

 ソラちゃんとルナちゃんは私の手を握り返してくれる。かわいい加護持ちの女の子、しかも二人も引き入れられるなんて最高! なんか忘れてるような気がするけど、今日はいい日だね!

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