第41話 劣等聖女と精神感応の加護

 色々考えたけどなんか誤魔化すの面倒くさくなっちゃったからもう正直に話しちゃおっかな。エフィが貴族令嬢である事さえ伏せていれば大丈夫だと思いたいんだけど……そこらへんいかがでしょうか、エフィネルさん? どうぞ、心の中でお答えください。


『……ブランさんの知名度が現在どのような程度なのかが計り知れないのがなんとも言えない点ですが……どのみち模倣の加護について話すことになるなら聖女の加護についても言及するのでは?』


 それもそうかもしれない。

 まあ、その時はその時でってことで……お話しようか。


『ソラちゃん、聞こえる?』


「……これって」


『とりあえずルナちゃん寝ちゃったから場所を移そうか。聞かれた事はちゃんと答えるからさ』


『……っ、はい。分かりました』


 せっかくルナちゃんが安らかに眠りだしたばかりだ。ここで話し合いをして起こしてしまってはかわいそうだ。そういう意味も込めてあえて伝心の加護を使ってソラちゃんに語りかけると、彼女も意図を汲んでくれたのか頷いて伝心の加護で返事をしてくれる。


『……なんか目だけで会話してて、以心伝心って感じで妬いてしまいそうです』


 私とソラちゃんの伝心についてこれずにエフィは頬を膨らませている。

 そんな心の声も今は私に聞こえてるし、なんなら今の私とエフィも疑似以心伝心できるんだけど……妬いてくれているエフィもかわいいので黙っておこうと思う。


 ◇


「粗茶ですがどうぞ」


「あ、お構いなく~」


 私達は話し合いのためにルナちゃんの部屋から客間のような場所に案内される。

 私とエフィにお茶を用意して、ソラちゃんは私達の向かいに座った。


「まずは……ルナを助けてくれてありがとうございます」


「いいよいいよ。でもあれってなんだったの? 薬が効かないとか言ってたけど風邪?」


「そうですね。質の悪い風邪みたいなものです。ルナの加護……受心の加護って言って、私の伝心の加護とは真逆の加護なんですけど……体調が悪い時は制御できなくて……無差別に周りの人の心の声を読み取ってしまって、処理しきれなくてあんな風に熱が酷くなる悪循環になってしまうんです」


 受心の加護……ね。私の劣化模倣だと読もうと思った人の心か、私に向けられた心しか読めないけど、本家のルナちゃんは多分範囲も広くもっとたくさんの人の心を拾ってしまうんだろう。それを制御できない状態と言ったら考えたくもない。雑音の中に放り込まれるような感覚なのかな。とにかく抱えるストレスも大きくなりそうだし、それによってさらに体調が悪くなるのも容易に想像がつく。


「いつもは加護を抑制する腕輪を付けて、薬を飲めば落ち着くんですけど、今回は特に酷くて……体調をなんとかしないとって思った時にえっと……ノアさんの事を思い出して」


「体調が悪いと加護が制御できなくなって、加護が制御できないと周囲の声を拾いすぎてさらに体調が悪くなる、か。負のスパイラルだね」


 私が聖女の加護で体調不良の方をなんとかしたから加護の方も収まったって感じかな。加護の方をなんとかしてほしいとかじゃなくて、私でも解決できるタイプの問題で助かったね。


「だから本当にありがとうございます」


『ですがそれとこれは別の話です。ノアさんはその……私達と同系統の加護を持っているんですか?』


「いやあ、それには深いようで浅い事情が……」


「今のも伝心の加護は使ってないです。やっぱり心を読めるんですね?」


 おっと、はめられた。

 伝心の加護を受けているのか、受心の加護で読んでいるのか、どっちなのか分からないのを利用した確認方法とは……ソラちゃん、中々したたかだね。


「……そうだね。今の私はソラちゃんの伝心の加護とルナちゃんの受心の加護、どっちも使えるよ」


「やっぱり……そうですよね。お母さんの加護みたいだなって思ってたんです」


「お母さんの?」


「はい。お母さんの加護は精神感応の加護といって……私とルナの加護を合わせたような加護でした」


「じゃあ、ソラちゃんとルナちゃんは片方ずつ引き継いだってことなんだね」


 家族間で同系統の加護を宿す傾向はよく見られる。

 親の加護をそのまま引き継ぐこともあればちょっと似たような加護になることもある。もちろんエフィみたいに家系とは全く関係ない突然変異みたいな加護を授かる場合もあるし、明確なメカニズムは分かってないけどそういうものだと私は思っている。


「そういえば親御さんは?」


「……すみません、お父さんもお母さんも病気で……もう」


「……ごめん」


「謝らないでください。私達は双子なんですけど、父親譲りのこの顔と、母親が分け与えてくれたこの加護があります。だから――そんなに寂しくはないんです」


 そう言ってソラちゃんは棚に飾ってある写真立てへと目を向けた。

 そこにはソラちゃんとルナちゃんの小さい頃の姿と彼女達の父親と母親の姿、家族の写真があった。確かに二人の顔とお父さんの顔はそっくりだ。加護も伝心と受心で分け与えられていて、二人合わせて精神感応の加護なんてなんだか素敵だと思う。


「双子かぁ。二人は今何歳なの?」


「13歳です」


「そっか。私と二歳差か。まだ若いけど生活は大丈夫?」


「……実を言うと少し苦しくて。両親の残してくれたお金もあったのですが、ルナの加護が発現してから加護抑制の腕輪や薬などの出費もあって……お恥ずかしながらかつかつです」


 そうだよねぇ。まだ子供なのに両親を亡くして、それでもなんとかって時にこれは確かに苦しいかもしれない。加護を抑制するアイテムも決して安いものじゃないし、薬だってルナちゃん――たった一人残された家族のためなら惜しんでられないしね。


 やはりここは彼女達を私のシュバルツ陣営に引き入れるしかない!

 そう思ってソラちゃんに話を持ち掛けようとしたところ隣から尋常じゃない視線の圧を感じた。ふと横目でそちらを見るとエフィがなんか信じられないものを見るかのような目で私を見て、わなわなと震えている。

 あれ? もしかして双子ちゃんを勧誘するのに反対だったりするのかな?

 だとしたら困るなぁ、なんて思っているとエフィがおもむろに口を開いた。


「……先程なんて言いました?」


「え? さっきって言うと……どの辺?」


「ソラさんとルナさんの年齢について話しているところです」


「えっと……二人は何歳なの?」


「その次です」


「私と二歳差?」


「……失礼ですが、ソラさんは先程何歳だと申されました?」


「13歳ですよ」


「ということは……ブランさんって15歳だったんですか!?」


 エフィが食い気味に私の肩を掴んでガンガン揺らしてくる。

 いきなり私達の年齢について触れたのはなぜ。というか普通にブラン言うなし。


「ブラン……ノア……模倣の加護を持つ二人目の聖女……癒しの力、私達の加護……えっ、もしかして聖女様!?」


 あー、もう。

 ソラちゃんは情報の断片を繋ぎ合わせて私の正体に辿り着いてるし、二人から詰め寄られても困るんだけど!


「やばいやばいやばい。本物の聖女様を呼びつけちゃった。報酬……法外な請求……どうしよう、そんなに高額な報酬払えないよ」


 と思ったら今度はぶつぶつ呟いてソラちゃんの表情はどんどんと青褪めていく。

 なんならエフィも似たような感じだし、表情ころころ変えて忙しいね君ら。


(エフィもソラちゃんも美形だよね)


 とりあえず落ち着いてくれないかな。二人ともいい顔面なんだから迫られると心がぐらつく。美少女二人に密着されていつまでも理性がもつと思ったら大間違いだよ。

 それに、あんまり騒ぐとルナちゃんが起きちゃうじゃん……っていつの間にかルナちゃがそこにいる。エフィとソラちゃんの向こう側で客間の扉を開けているルナちゃんとばっちり目が合ってしまった。


「…………」


「…………」


「…………どうぞごゆっくりです」


『これが修羅場ってやつですか。お姉ちゃん、よく分かりませんが頑張るのです』


 小さく一言残してぴしゃりと扉が閉まる。

 その際にちょっとだけルナちゃんの心の声を受け取った。なんかすごい勘違いされているような気がする。あの、これそういうのじゃないんで助けて。お願い、行かないで。

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