第35話 劣等聖女のデート相手
そんなわけで私の新居で働いてくれる人を探さないといけないわけだけど、よく考えてみたら私、この街の事なんにも知らないんだよね。
ここにはエフィに連れられてやってきたけど、聖女の件諸々が解決するまでは保護対象として外出もできずにいたし、それが解決してからもほとんどオルストロン邸でグータラだらしない生活を貪っていたので、この聖域の外側を私は知らない。
今はもう行動に制限もないから外に出てかわいい子探しに……じゃなかった。いい加護を持ってて、仕事を探してる人を探しにいきたいけど、知らない場所を一人で散策するのはちょっと不安だ。そして何より、私は一応聖女なので、一人で好き勝手出歩かない方がいいのではないかという自覚がある。
護衛……ってほどでもないけど、いざと言う時に身を守れる力が聖女の加護以外にあった方がいいから誰かに着いてきてほしい。さぁ……誰を誘おうかな。
「……エフィ一択じゃね?」
そう考え始めて私はそれほど悩まなかった。なぜなら悩むほどの選択肢がないから。悲しいことに私が頼れるのはエフィとリンネだけ。そのうち荒事向きの加護となれば自ずと一択だ。
剣聖の加護があれば私も安心できるし、エフィと一緒にお出かけもできるから最高。我ながら完璧なプランだ。さっそく誘いに行こう。
◇
エフィの自室に赴き、扉を数回軽く叩く。
するとすぐにエフィの声が返ってきたので扉を開けて顔を覗かせる。
「エフィ〜、今大丈夫?」
「ブランさん、どうされました?」
「デートしよ〜」
私がそう言うとエフィはドッタンバッタン椅子などをなぎ倒しながら私の前までやってきた。いきなり目の前に現れたのかと錯覚する素早い動き……びっくりした。それにしても……すごい惨劇を見てしまったね。このお部屋をお片付けするメイドさん、もといリンネさん。ご愁傷さまです。
「聞き間違いだとよくないのでもう一度お聞かせ願いますか?」
「デートしよー」
「聞き間違いではなかったようです。デート、デートですか……! 私でよければ喜んでっ!」
「っ! ……エフィならそう言ってくれると思ったよ」
いやぁ、デートって言ったのが聞き間違いじゃないと分かって安心したように顔を綻ばせるエフィがかわいすぎる。正直今すぐ押し倒したい。
でも今襲ってしまったら多分歯止めが効かなくなって夜を通り越してそのまま朝までコースになってしまうので我慢我慢。我慢……なんだけど、うぬぬぬぬ。
「どうしました?」
くぅ〜、首をこてんって。無自覚に私の理性を攻撃してイケない子だよエフィは。そうやって誘ってどういう目に合うかもう忘れちゃったのか。それとも期待してわざとやってるのか分からないけど……デートが済んだらオシオキだね。
「ふぅ、落ち着いた」
「よく分かりませんが……でもどうして急にデートなんて言い出したんですか? またよからぬ事を企んでいるのですか?」
リンネもだけどエフィも酷いな〜。
もしかして私が考える事全部悪巧みだと思ってるのかな。だとしたらとても心外なんですけど。
そんな勘違いをされているのもよくないので私は今回エフィを誘った目的を話した。人材確保よりはまずは私がこれから暮らしていく街を知ることが優先。そんな散策にエフィを足してあげるとデートに昇格って事。それらを話してエフィは考えるように頷いていた。
「なるほど……。ではお忍びで街に出ましょうか」
「お忍び? なんで?」
「私はこれでも公爵家の娘なので。身分の違いで平民の方々を萎縮させるわけにはいきません……」
「おお、すごい貴族っぽい理由だ」
「そういうわけなので街の視察に出る時のような目立たない服装で行かなければいけないですね。煌びやかなドレスなんて以ての外です」
確かにエフィは公爵家の令嬢だし、堂々と貴族オーラ丸出しで出歩いたら平民達が萎縮しちゃうか。思えば私もそうだったっけ?
初めてエフィと会ったあの時……一目で偉い身分だと分かるエフィに心臓が痛くなったような気がする。
もちろんエフィが害のある事をするような子じゃないっていうのは分かってるけど、どっちかと言えば私は平民よりの人間だから萎縮する気持ちも分かる。
公爵令嬢のエフィだって知られて身構えられたりするとデートがしずらくなっちゃうからお忍びには大賛成。
「エフィがキラキラしてないドレス着てるの楽しみかも」
「そんなに期待されても困ります」
私も聖女に祭り上げられる前は普通の服を着ていたからそんなに違和感ないと思うけど、普段からドレスとか高貴なオーラが溢れ出る装いをしているエフィがどれだけそのオーラを隠せるのか……楽しみだね。
「では、お忍び用の服装を用意させます。着替えたらまたこちらにいらしてください」
「分かったよ」
「……あの、ブランさん。そのっ、デートのお誘い……本当に嬉しいです」
お忍び用の服を部屋に届けてくれるというので一度戻ろうとしたところでエフィがおずおずと口にした。もじもじとして指をくねくねさせながら顔を赤らめるエフィに思わずキュンと胸が高まってしまった私はきっと悪くないはずだ。
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