第14話 据え膳食わぬは聖女の恥

「ん、うぅん……」


 えっと……ここは私の部屋か。確か私はエフィと模擬戦した後に、疲れたから休むっていって……あれ? その後どうしたんだろう?

 どうやって部屋に戻ってきたのかも分からないし、いつ着替えたのかも分からない。


 でも、こうして寝ていたって事は……まあ、いいか。いつの間にか寝間着を着ているのはちょっと気になるけど、見られて減るようなもんじゃないし気にしない。


 それにしても……何だかすごく長い夢を見ていた気がする。内容は全然覚えてないけど、とにかく長かったことだけは分かる。まだ身体にだるさは残っているけど、疲れはほぼ取れたかな。


「あ、お腹空いた。今何時だろ」


 そんな事を考えていると私のお腹が鳴った。空腹を知らせて何度も鳴いている。

 どのくらい寝ていたのか分からないけど、今はお昼くらいかな。相変わらず生活リズムがめちゃくちゃだね。またリンネに寝すぎって怒られちゃうや。


「ん? え、エフィ?」


 伸びをしようとして身体を起こすと何だか腕が重い。不思議に思ってみると、エフィが私の腕を枕にして眠っている。何事?


(うわ……かわいい~。撫でてもいいかな? いいよね? いいよ!)


 自問自答で許可を出した私は、体勢を変えて反対の手でエフィの頭をそっと撫でる。

 何でこんな状況になっているのかはさっぱり分からないけど、最高のご褒美だね。

 エフィの髪さらさらー。この触り心地……ずっと撫でたい。


「んっ」


「あ、ごめんね。起こしちゃった? でも、そんなところで寝てたら風邪ひくよ?」


「んー」


 つい触りすぎてしまってエフィが目を覚ましてしまったけど、何だか呂律が回っていない。ぼんやりとしていて寝ぼけているようにも見える。そんな初めて見る姿もかわいい、なんて思っているとエフィは身を乗り出して、両手で私の頬をそっと包み込んだ。


「……今、起こしてあげますからね。ブランさん……」


「え、エフィ……私、起きてるよ?」


 エフィはとろんとした目で私を見つめている。起こすって何? 私はもう起きてるんだけど……ってどんどんエフィの顔が近くなる。え、なになになに? もしかしてこれも夢?


 ……夢だったら、好きにしていいよね?

 せっかくエフィがこんな積極的に迫ってきてくれるなら、私……受け入れちゃうよ。


「ブランさん……目を覚ます時間ですよ」


 エフィが目を閉じて、唇を尖らせる。この顔って……アレだよね?

 私は……それを受け止めて、息を奪われた。


「ん、んんっ」


 温かくて、何もかも忘れて身を委ねたくなってしまう。

 私はエフィの首の後ろに手を回して、抱きしめる。

 ああ、この息ができなくて酸欠になりそうなほど激しく貪られる感覚……やっぱり夢なんだろうな。

 そう思うと何だか少し残念にも思える。この幸せな時間がずっと続けばいいのにとその温もりを味わっていると、エフィも呼吸を求めて離れようとしたのが分かった。


 でも、これは夢だから。

 まだ離してあげない。

 私はエフィを抱きしめる力を強めて、頭を押さえて、離れていこうとするエフィの唇を啄んだ。


「ん、ふぅ……」


 エフィはいつの間にか私の背中に腕を回していて、ぺちぺちと何かを訴えるように叩いてくる。

 もう限界? もうちょっと頑張ろうね。

 せっかくのこの夢の時間、まだ覚まさせないよ。


「っ、んうっ……」


 エフィの口から苦しそうな息が漏れる。

 そろそろかな。私は惜しむようにエフィの肩を押して、ちゅぱっと音を鳴らして唇を離す。


「はぁ……はぁ……」


 口から糸を引かせて、ようやくあり付けた呼吸に胸を大きく上下させるエフィ……正直めっちゃエロい。襲いたい。


 夢とはいえ、こんなご褒美……いいんですか?

 ん? 夢……だよね?

 でも、夢の割には何だかリアリティあるし、全然覚めないし……え?


「やば、これ……夢じゃないや」


 自覚した途端、身体中が沸騰するように熱くなった。

 きっと今の私は熟れた林檎のように真っ赤な顔をしているだろう。


 エフィ、ごめん。

 夢だと思って好き勝手してしまった。

 でも、先に始めたのはエフィだから私悪くないよね?

 据え膳食わぬは聖女の恥なので、おいしく頂かせてもらいました……!


 でも、やってしまったなぁ。

 エフィは酸欠になったのか私の腕の中でぐったりしている。

 夢だと思ってたらこのまま襲い続けたかもしれないけど、さすがにね。


 それに、これが現実だと気付いて何だかドッと疲れが押し寄せてきた。

 起きたばっかりだけど、いつものように二度寝、しちゃおうかな。


 そう決めた私はいそいそとエフィをベッドに引き摺りこんで布団を被せた。

 エフィも今ので疲れたのか、もう寝息を立てている。一緒にお昼寝しようね。


「おやすみ、エフィ」


 そうして横になって、エフィのおでこにキスを落として目を閉じると、スッと意識が遠のいていった。

 もし、また長い夢を見れるなら……さっきの続き、できるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る