第2話 劣等聖女の加護覚醒
何でもできると思っていた。
でも、実際には何でもできるような万能な加護じゃなかった。
そう考えると聖女代理は初めての挫折だったかもしれない。
それでも、私は乗り越えた。加護を使い続けて……覚醒させた先にあるものを垣間見た私にもう迷いはない。
そうだ。私は器用貧乏なんかに収まる器じゃないし、もうそんな風には呼ばせない。
私は――――この加護で『器用大富豪』になる。
◇
「……どうしよっかなー?」
聖女代理の任を解かれ晴れて自由の身となった私――――ブランノア・シュバルツは端的に言ってしまえば途方に暮れていた。
これまでは聖女代理としてこき使われていたから手厚い保護……ではないけど最低限の衣食住は保障されていた。だって、私まで使えなくなったら結界維持できる人がいなくなって困るもんね。その割に扱いが酷かったのはおかしいとは思うけども。
とにかく、立場が無くなったことで自由を得られたのも事実だけど、生活基盤を失ったのも事実。ということでこれから生きていくための方針みたいなものを決めないといけないけど……今の私に残っているものを改めて確認してみようか。
お金は……少し持ってるけど、そう何日も食いつなげるほどじゃない。
持ち物は……それだけか。確認するまでもなかったかもしれない。
ということは、今の私が持っているのは少しのお金とこの身一つ。
私自身の本来の加護『模倣の加護』とこの――――アメリア・コーライル公爵令嬢様から模倣させてもらった『聖女の加護』ということになるわけだ。
ここで一つの疑問が生じるだろう。
私の模倣の加護で行う加護の模倣は時間制限がある。
だとしたら最後に加護を借り受けて、時間いっぱい使い切った後に、借りていた聖女の加護は私から消滅しているはず。でも、こうして私は今もなお聖女の加護をこの身に宿し続けている。
これはきっと――――私の『模倣の加護』が覚醒したからだろう。
聖女代理としてこき使われ始めてから幾度となく行使し続けた模倣の加護。その中で成長の予兆はあった。
徐々に聖女の加護の出力が上がる。持続時間が延びる。消耗が少なくなる。などなど使い続けているうちに変化はあったんだ。そうやって何度も使って熟練度を高めていった先にあるのがこれ――――加護のストックだ。
気付いた時には聖女の加護が消えずに残るようになっていた。
その時は努力が報われたような気がしてとても嬉しかったと思う。
これがあったから、碌な報酬が無くても私は受け入れたんだ。
アメリア様の聖女の加護を10とするならば、今の私に宿る聖女の加護は9くらいかな。オリジナルに限りなく近い、でもあと一歩届かない。それでも、聖女の加護が私の中に在るというのは大きい。仮に本物に届かなかったとしても、劣っていたとしても、その加護がある事に意味がある。
じゃなければ聖女代理なんて務まらなかっただろうし。どれだけ劣っていようと私だから可能にできる加護の模倣。その境地が加護のストックにあるのなら……私はもっとたくさんの加護に触れてみたいと思った。
おっと、話がかなり逸れちゃったね。
とりあえず今私にあるのは少しのお金とこの加護だから、これで何とか生活を立て直していかないといけないわけだけど……正直意外に何とかなりそうだと私は思っている。
現状、稼ぐ手立ては加護頼りな訳だけど、私の『模倣の加護』があればお手本があれば何でもできるし、特別な技能を求めるような仕事でもある程度はこなせる気がする。
そして、聖女の加護。こっちも万能だ。
今までは結界維持のためにしか力を使ってこなかったけど、この聖なる力は怪我の治療なども行える。
そういった方向性で加護を扱えば出張治癒院みたいなこともできるだろう。本来の聖女の加護の三割くらいの力しか発揮できなかった頃ならいざ知らず、九割も使えれば十分すぎてお釣りがくるくらいだ。
「どっちでもいいけど……せっかくなら加護を学習できるような環境に身を置きたいかも。私の加護についてももっと理解を深めたいし」
実のところ、私は私のこの加護についてまだ完全に理解している訳ではない。
聖女の加護を獲得するのに至ったのも、単純に経験値の積み重ねによるものだ。能動的にそうなると分かっていて使い続けた訳ではなく本当に偶然。だから、もう一つ……私が気に入った加護で仮説を裏付ける検証をしてみたい。
私の仮説はこうだ。
レベルアップした模倣の加護で宿した加護は使い続けるほどに精度が上がる。
そうやって、何度も何度も加護を宿して、繰り返し使用して熟練度を上げる。
そして、一定の水準を超えて経験値を獲得した加護は出力限界と時間制限の枷から解き放たれて、オリジナルにはやや劣る加護としてストックされる。
多分これで合っているはず。
聖女の加護の時はそんな事考える余裕もなかったけど、今なら私の模倣の加護も強くなっているから、この検証もそれほど苦労はしない見立てだ。
だから欲しい加護を定期的に借りられるような環境が好ましいけど……とりあえずこの王都からは離れておこうかな。
だって、ねえ……。
国にとっては守護の象徴かもしれないけど、私にとっては忌々しき思い出である大聖堂がそこにはある。
地獄のような日々を過ごしたその場所から物理的に距離を取っておきたいんです。
ということで、ひとまず王都脱出。
少ない路銀もさらに減り、一文無しになる日も近いか……?
はぁ、そうなる前に何とかなるかな。何とかなるよね。何とかします。よし!
◇
王都を抜け出すための手段として選択できるものが三つあった。
一つは徒歩。理論上は可能かもしれないけど現実的じゃない。却下。
二つ目は馬車。今の所持金と相談するのならこれが一番適切かもしれないけど、長い時間旅をするのはきつい。よって却下。
そして残った三つ目は魔導列車だ。魔法の力を動力として走る列車。たくさんの人を乗せられるし、何より早い。
時間をかけずに遠くに行けるし、列車は走る道も整えられているから馬車移動よりも楽に座ってられる。ちょっとお高いのが難点だけど……私のお尻を守るためだと思えばこれくらいの出費には目を瞑ろう。
そんな考えの元、私は切符を買い列車に乗り込んだ。
行き先はどうでもよかったから適当に選び、列車が走り出す時間まで座って待つ。
私が乗り込んだ時はまだちらほらとしか見られなかった乗客も、発車の時間が近付くにつれて増えていき、あと少ししたら席はすべて埋まってしまいそうだ。
幸いにも私の隣と向かいはまだ空いているが、もしかしたら相席になってしまうかもしれない……そんな風に思った矢先、凛と透き通るような声が私の耳に届いた。
「すみません、相席してもよろしいですか?」
「あ、お構いなく」
声をかけてきた長い銀髪の女性は私と同じくらいの年に見える。でも、見るからに高貴の生まれというか、そういうのが一目で分かる服装をしている。纏う雰囲気もこれまで幾度となく接していたアメリア公爵令嬢様のような感じで、極めつけは護衛のような者も連れている。
あ、やば……ちょっと緊張してきたかもしれない。
今からでも席を立って、他の空いている席を探そうか、なんて考えて目を泳がせていると対面に座った彼女と目が合った。サファイアのように深く美しい瞳に飲み込まれそうになる。
「え、あの……」
「あら、じろじろと不躾に申し訳ありません。どこかでお見かけしたことがあるような気がして……」
彼女にジッと見つめられて思わず声を出してしまった。
そして、かけられた言葉にさらに驚いた。
私と会ったことがある?
あいにくと私は彼女の事は知らない。
でも、彼女は私のことを知っているのか思い出そうとして頭を悩ませている。
どうしよう、人違いですと言ってあげた方がいいのかな。
「お嬢様、この方は……もしや」
「……えっ、あ。そうですね。そうかもしれないです」
私がそんな風に悩んでいると、護衛と思わしき女性が対面の彼女に小声で耳打ちをした。
少し聞こえた感じ何か心当たりがあるような言い方だった。
「もしかして……あなたはブランノア・シュバルツ様……ですか?」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
面白そう、続きが気になると思って頂けたら作品のフォローをよろしくお願いします!
感想や、レビューなども大歓迎ですのでよければぜひぜひ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます