第15話―密談―
軍事とは経済。
戦国時代における
乱世の世には米は貴重だった。
畑を燃やされたり災害で全滅する事もあり肥沃な土地であっても耕して平穏無事とはいかず安定な収穫は難しかった。
そのため石高が高ければ高いほど國は豊かな象徴になるのである。
竹千代が向かう東海を統べる王こそ
本拠地である今川館の一室で今川義元は黒衣の僧侶あぐらをくんで向かい合っていた。
「ご苦労であった
これでますます織田信秀の勢力は弱体化となり以前のような戦いは出来ぬあろう。
要の城をこうも簡単に陥落させるだけではなく松平広忠の子を連れて帰還とは。
これでオワリの虎は牢に閉じ込めて身動きは出来なくなった」
多大なる成果を成した黒の法衣に呆れるまでの懸絶な戦略と戦術を驚嘆とする今川義元。
「それは過分な評価よ
驕る様子などみせない今川義元の軍師でもある黒の法衣を纏う僧は謙虚にそれを大袈裟であるという。
「我が師よ。
その名は旅をした小さき昔であり現在は治部大輔。いつまで私をヤマシロの国で学んでいた
「ほぉほぉ、機嫌損ねたのならそれはすまぬ。
まだ拙僧からの目では羽ばたいたばかりであるからして」
悪びれもなく謝る黒衣の男は
崇孚は諱、すなわち本名となるのだが通称は雪斎。雪斎の通称として由来は居住している場所が『雪斎』とされる。
そして栴岳承芳とは今川義元が出家した法名――今川義元の僧侶時代の名前である。
「羽ばたいたばかりとは年齢からも実力でも成長段階の昇華していると思うが、まぁいいでしょう。
こちらは統治に専念したことで次も戦に赴くだけの余裕も確保はしてきた。
そして
「手を抜かぬ手腕は流石である我が教え子よ。
内政では拙僧をゆうに越えておる」
敗北した武将は愚将として歴史に刻まれる。
江戸時代では政治面や戦術と戦略のプロフェッショナルの武将が少なくなってから今川義元を無能のレッテルを貼られるようになった。
戦場での実力がどれほどあり発揮していたかは確認するものは多くは無いが政治面であれば武士の法律や国内の発展は優れていることは残されている。
「当然ですよ。
これぐらいはするさ、では本題に入ろう。
西ミカワ支配の
松平家の跡継ぎを連れ返したことにより同家の信頼と勢いは増していき、織田家のミカワを支配するための求心力をこれで失ったと同然」
「そこまで見据えるか。
まったく相変わらずの先見の明まであると師としては用済みであろう」
崇孚は肩を竦めて感慨深そうな口調で述べた。
敗亡した武将はどれだけの正義や実力があっても後世の夜では政治的な目的で歴史を歪んで記すことはあり決して愚将ではなかった。
「なにを言う。
貴方はまだ現役、まだまだ領国内での平和を築くために必要なのです。
隠居など早い、やってもらわないとなりません」
「はっはは!そのつもりだ民草のために
いいか義元よ勝つことだけを貪欲となれ」
忠義に燃やす武将を増やしたいと太原雪斎は先のことを憂いて考えていた。
好々爺とした優しい声音ながらも大名としての責務と人のために魂を燃やせと拒否を許さない凄みの眼力を向けられる。
並々ならぬ言葉に今川義元は訝しげんだ。
何故そのようなことを告げたのか。
「……ハッ!その所存で励むつもりです」
姿勢を正して首肯して応えた。
やや大仰と過ぎるではないかと心に残ったが今川義元は言いようがない一抹の不安を抱くのであった。
「良い返事だ。
さすがは
御所とは将軍の意味である。
もし後継者がいなくなれば次は誰が国を治めるだけの逸材を持つか。
それだけの権威が今川義元にはあった。
「どこでそのような怪しい風の便りを。
いえ、詮索はまあいいでしょう。
そんな事よりも織田家を滅ぼすこと遠くはない。
アツタで潤した経済拠点。そこを制圧すれば鉄砲を買うだけの経済はあるが海上を制圧すれば――」
鉄砲は最新武器であり貿易が主に購入ルートとなっている。
高額で自分たちの手で作ることは出来ても銃弾を作るための硫黄が必要で輸入が頼り。
(遠くないうちに、お前を置いていなくなるだろう。ただの直感ではあるが。
もしそうであるなら、天命を迎える前に強い武将を多く揃えないといけない)
いずれは死期を迎えるだろうと予想する太原雪斎。
今川の為に忠義を尽くせる人材を集めて育成しようと思案する。
密かに尽くすことを誓うのであった。
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