第14話―スルガへ―

解放される当日。

執り行われる人質交換は尾張にある笠寺観音かさでらかんのう


「これから人質交換を行う!

こちらは引渡しする為そなたと争う意志はない。

手出しはしないように求める」


「承知つかまつる。

竹千代それでは前へ歩かれよ」


ここまで輿で来ていた乗り物を降りて向かいにいる方へと優しく促される。

おそらく囚われていたという織田信広が解放。

織田方と今川家は争いが長引いていることをクレマチスから勢力的な事情を聞かされた。

緊張が緩やかに波が波紋するように全身に広がり、気圧された空気に強張りで硬直としていく空間が漂っていた。


「おおぉーーッ!

あれが織田信長のお兄ちゃんですか、なかなか凛々しい武士だよね。

もし彼も私を見れるようになっていたら会話をしたかったのに残念すぎるよ」


(どうして……。

重た苦しい空気を壊すような軽い発言するのかなクレマチスは。よくよく考えて人選を間違えていないか神様。

……それはそうと織田信長を尾張で人質していて会わなかった)


少し前に稀代の英雄との邂逅を期待していたけどクレマチスの言葉で落胆することになった。

そういった公式の資料では記載されていないと。

天下の英傑の二人が邂逅は無慈悲にも発生せずイベントは何事もなく今に至る。

無事に襲われることもなく人質を交換を終える。

双方は目的を果たすと笠寺観音を出て帰還していくのであった。

――駿河方面の移送中は快適とはいえず揺れるのを我慢しなければならない。


「ここが駿河か……」


今川義元が支配する本拠点。

流石こんな時代では新幹線がある訳などなく到着するまで退屈だったボクは外の景色でも眺めとした。


「竹千代さまスルガは、いい所ですよ」


「いい所……か。今川義元公はどんな方ですか」


「我々ごとき身分では謁見は出来ません。

これは申し上げにくいのですが……

実名じつみょうを口にされるのでしたら本人がいない場所が賢明です。

余計な話をしました。えーと、治部大輔じぶのたいふさまは器の大きい方でして」


腰を持ち上げて運送する運び屋また車夫しゃふのような青年が声をかける。

ちなみに彼は輿の前を持ち上げていた。

どうせヒマだから簡単な返事を済ませると色々と尋ねてみた。

時間はあっという間に過ぎてゆき駿河へ到着した。ここが海道一かいどういちの弓取りと謳われる今川義元が支配する国へ。

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