第12話―八丁味噌―
差し入れが届いた。
荷物を運んだのは、よく知る使者であって於大の方がわざわざボクへこうして定期的に送ってくれる。
「中は
これ味が濃くて美味しんだよ」
地元の岡崎市では手間を惜しまずに造られているのが八丁味噌。
愛知県の伝統的かつ愛されている味噌。
「へぇーキミ
「この世界は薄い味ばかりだから。それよりも【も】って意味深にいうけど」
いつもの室内で送られた品に無邪気に喜ぶボクの隣でクレマチスは苦笑を零す。
やや棘のある言葉をするけど白髪の妖精。
それほど悪意のある性格ではないと理解して打ち解けれるようになった。
「徳川家康も好物だったんだよ。
岡崎城から
「これほど味だ。根気よく作るだけの価値があるからこそ誰もが舌鼓を打つ!」
「八丁味噌はなかなか濃い味……めでたいコイ味
ぷっフフ」
濃い味に対して
するとクレマチスが驚愕して視線はボクの後ろを注いでいた。
オバケでもいたのかな。
「ほうほう。
そうかそうか竹千代くんの好物そうなのか。
離れたオカザキの故郷が恋しい味が甦るわけか」
「どわぁッ!?その声は加藤さん!?
なんで背後から声をいきなり掛けるんですか。
しかも音も立てずに迫るなんて汚い」
ここの家主がいつの間にか近づいて音を立てずに立っていた。
「あはは、そこまで驚かせてしまったか。
いやぁこれは失敬。それよりも書状を送ってくれるなんて優しい母君だね」
「……そう、ですね。母とは仲は良好です」
反射的に肯定。
そういえば生前では田中晴人としてのボクは母親とは愛情をあまり注がれてはいない。
離れた土地で頻繁に手紙を出してくれるだけで胸がジーンとくるものがある。
それと凍死する前に、せめて遺言とか書くべきだったかもしれはい。
どれだけ後悔して渇望したか。
悔やみが尽きない中で最後に永遠に別れる事になって伝えたかったかもしれない。
すると目頭が熱くなって滴が勝手に流れてくる。
避けてきた置かれた過酷を考えてしまい押し込んでいた感情が吐露して涙は留めどなく落ちる。
「ど、どうしたの晴人!」
「め、面目ない。
これは土足で踏み込んではいけない所に訊いてしまったようだね」
目を見開いて動揺するクレマチス。
頭を下げて謝罪をする加藤図書助さん。
なにより自分が驚いている。
十男だからと後継者のボジションから除外されたボクを実験的な教育を試されてした両親と二度と会えないことが苦しくて悲しい日が訪れるなんて。
けど流れてきた感情を止めるのも簡単。
また開けてしまったのを蓋をかけて戻すだけだ。
すぐ袖で涙を乱暴に拭き取るとボクは笑顔を作る。
「いや、驚かせてしまって逆にすみません。
欠かせず送ってくれるのが嬉しくて、つい」
「はは、そういう事か。
その弾くような笑顔するようになったのか。
少し前は屋敷へ来たばかりの頃は固かったからな」
「いや、それはそうですよ加藤さん。
人質だったんですから」
「はっはは。それもそうか。
兎にも角にもだ元気な顔を見れて良かったよ。
また夜に遊びに来るから。じゃあ」
なにが愉快なのか存じないが加藤図書助は後ろを向くと手を挙げてラフに別れを告げる。
快活に室内から去っていき神出鬼没な人だった。
「悪い人では無いけど面倒くさくて自由な人だったね。これを伝えようとは思うけど於大の方は再婚されているの」
前半の評価はクレマチスにも当てはまると思いますからブーメランな発言と口にはせず。
後半で情報を開示してくれる内容が聞きたいような耳を塞がりたいような複雑に絡み合っていく。
「それで相手は?悪い人なのか」
どんな家でどんな方なのか知っておきたい。
愛情を注がれてきたから例え実の母ではなくとも音を返したい。
「打てば響くような岡崎の松平広忠とは違うのは間違いない。けれど悪い人ではないみたいだね。
ずっしりとして寡黙な武将として印象の
そして阿久居は熱田とは距離的には近い位置になります。
これは希望的な推測にしか過ぎませんが配慮されて手紙のやり取りが出来る近くに移したかもしれない思うんだよね」
あまり不遇な扱いをしていない言葉に安堵する。
近いなら、そのうち再会するのもそんなに難しくないかもしれない。
「それが本当なら織田信長は優しい人なんだな。
アニメとかゲームではよく壊すようなイメージのある怖い武将だと思っていたよ」
「かもしれませんが。
訂正を一つさせてもらうね。
その頃は、まだ尾張を支配されていたのは織田信長の父親である
「えぇーッ!マイナーな武将が出てきた」
安心すると心が穏やかになる。
「あ、あはは確かにそうかも。
でもね史好きな人からすれば有名人なんだよ。
生涯で多分に影響を受けるの。
城をコロコロ変えたり熱田という外国とも貿易で莫大な軍資金を集めたりと優れた武将なので必ず忘れないように記憶すること」
あれ?なにか地雷を踏んでしまったのかと思いたくなる冷たくて怒りが込められている。
ボクは背筋を伸ばすとクレマチスの言に「はい」と返事をするのだった。
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