第10話―アツタの人質生活その参―

それは唐突に一報が入る。

田倉を拠点とする城主の戸田康光が敗死した。


「真喜姫の父親が……ボクが人質として送られてから一年後でこんなにも様変わるのか」


それを聞かされたボクは室内に戻る。整理がつかず円を描くように歩き回りながら思ったことを念仏を唱えるように独白。

与えられた室内は襖で開け放して見えるのは活気的な港が眺望が出来て開放的だ。


「それが戦国時代だからね。

いつ負けるか常に読めず知らないのが戦争。

国盗り合戦では劇的な変化はよくあるものだよ」


支えてくれるために送られたクレマチスが付いてきた後ろから前に横切りながら言った。


「なぁ詳細な事を教えてくれないか。

ボクが幼くて報告が簡潔なんだ」


「おぉー、お姉ちゃんにようやく頼ってくれるのね。けど私が知っているのは教科書に大々的に載っているものだけなんだよね。

なのでその辺りデバイスで調べさせて回答するね」


「ああ、それでも構わない」


要するに時間がかかるから時間を潰してくれと。

手持ちにスマホがあれば頼らずに調べられるのだが何せ今いるのが戦国の習わし。

本を紐解こうともしたが現在進行形にある現代では情報の出どころから精査および流言蜚語に騙されないための見方と労力が掛かる。

スマホみたいな便利なものは転生してから持っているはずもなく比較して味方として信用におけないクレマチスに消極的に聞くしか選択肢はなかった。

何も無い空間からゲームのような正方形の画面を出現させると指を滑らせて操作をする。


(どんな方法で出現させたか存じない画面を隣で見ても読めない。

そもそも日本語でも英語でもない謎の言語だ)


「……そうですね。

滅亡となったのは大軍の今川軍に攻められたらしいね。籠城したけど押し寄せる数には敵わずじまい」


「それじゃあ真喜姫はどうなる?」


「生涯を閉じてからじゃないと全部オープンは教えれないからネタバレは禁句されているの。

さて、えーと資料が少なくて私の個人コメントになるけど帰るところを失うから立場としては悪化すると分析するかな」


そのぐらいはボクでも予想はつくんだよ!と朗らかな態度から怒りで叫びそうになるが我慢する。

クレマチスは献身的にナビゲーションしてくれるとは思っていない。

放棄されたら行動するのに困る。


「そうか。どうも身近でそんな事あると知っても快適な日々をすごしていると。

やるせない」


怒りを抑えてなんとか訊くことが出来た。

人質という厳しい試練を越えようと出向いたはずが拍子抜けだった。

用意された食事や遊び道具など客として待遇を受けて滞在するような感覚に近い。


「人質は成長後いずれ味方になる存在だから蔑ろにしないからね。

快適な日々を過ごせているから自分を責めたらいけないよ」


「ああ。そうかも」


「元気なったところで追加情報。

戸田康光とだやすみつ渥美半島あつみはんとうの田倉城主。余談になるけど渥美半島を統一した曾祖父の宗光むねみつの名からあやかったらしいよ」


「うん。それで」


「それで牧野家とは対立していた。

今橋いまはしの領地をめぐっていて牧野家には今川家に属していた。

一度は離れていたけど再属した経緯があるけど割愛するね。

貴方のパパさんである松平広忠は生き残るため真喜姫を正室として迎えた」


「パパさんって……そのまま続けてください」


「松平広忠には岡崎城の奪還や協力してくれた叔父の松平信孝まつだいらのぶたかを危険視していた。

いつか台頭するか不安に駆られ一方的な追放。

そして於大の方を戦略結婚の意向は叔父にあるとみられるね」


そのエピソードは恩を仇で返すような行為だったと聞いたことがある。

台頭するほど権力があったのは分かるけど何故そんな理由もなく追放なんて事したのか。

せめて大義名分になる動機として作っていたほうが反感や怒りは少なかったはず。

クレマチスの説明はまだまだ続く。


「そのあと松平信孝は裏切られたことにより織田信秀につくことになり敵対関係に。

松平信孝とは於大の方お兄さんである水野家とは親交が深かったから離縁。

そして織田家と今川家はそれぞれ敵勢力を攻めるために短期間な同盟を結ぶ。

織田家は攻めたのは松平家。

今川家は攻めたのは戸田家」


「じゃあ織田家というのは、もしかしなくともボクの安祥徳川を狙いを定めたのか」


「そうだよ」


そこまで追い詰められていたのか父上は。

負けてしまったから忠義として差し出されたのが竹千代。

ボクの前では心配させまいと気丈に振舞ってはいたが切羽詰まっているじゃないか。

悪態がつきたくても三河にいる松平広忠とは離れてそれが云ええず鬱屈した感情を解消しようと木剣を手にして庭に出ると素振りをはじめた。

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