第9話―アツタの人質生活その弐―

敗れて仕える忠義の証に人質を差し出される。

この日が迎えたかとボクは駕籠の中へ乗り揺れる中を襲撃されるのを警戒心に溢れていた。

けれど何事もなく無事に織田家が統治する国へと到着した。

クレマチスの不吉な発言を詳しく問い詰めたところ田原城で立ち寄られた際に今川家を護送するのを襲われて織田家へと売られるはずだった。


(となれば前か今の定説では今川家から織田家に売られる事になるのか。しかし実際は敗北した松平広忠が息子を送る。

よくある話を過去の人が徳川家康という波瀾万丈に物語性を入れたのか?カッコよく偉大な偉業に)


尾張国にある水運の盛んな港町の熱田あつた

その地域の実権を握られる豪商される館で人質として監視されることになった。

襖を開けたまま湊風が吹かれるのを室内で机に座っていたボクは本を読んでいた。


「とうとう最初の試練へと挑まないといけないと心を奮わせたけど肩透かしを食らった。

まさか田原城に何もされず通過されるなんて」


読書する習慣になったのは徳川家康の追憶を辿るためでもある。それとは別にゲームやユーチューブもない異なる戦国時代では娯楽がないと本を暇つぶしに読んだ。

これが結構なかなか面白い。


「そりゃあ真喜姫さまの話からも状況をしたらそうなるよ。

いかなる時も気を引き締めて張り切るのはいいけど身体や心がもたないよ晴人くん」


隣に立ちながら靡く髪を抑えるのクレマチス。

護送から館までの道程を話し相手として嫌な顔をせずに付き合ってくれた。

神に従われて肌身離さずなのは承知しているが優しながら親しげな態度に戸惑っている。

どれが本心なのか推し測れない。


「ああ用心するよ。そ

れよりも織田家の人質生活はいつまでだ。ここの暮らしは」


「検索して調べたところ二年らしいね。

ちなみに戸田康光が熱田へ竹千代を奪ってから売られた金額は千貫せんかん。およそ一億そして松平記の書物では百貫とされるね。

どれも徳川家康をただの人質として送られるのを脚色されているかな」


イマイチこの妖精の掌で駒として踊ろさせれているような謀略をくわだてる不審。

けどアシストの情報には目的にピクシーの個人による目的ににも支障があるゆえ提供するのは返って信じられる。


「そうか」


「そろそろ故郷が寂しくなった?」


「なぁ、どっちを指して言っているんだよ。

ここでの人質生活ってこんな悠々自適なのか」


想像していたものと掛け離れた待遇を受けてもらいボクは辞書を引きたくなった。

敗北された子供を幽閉されたりコキ使われるものだと思っていた。人質は牢に放り込まれ生活を与えられず食事と虚無な時間を過ごすイメージだった。

それがまさか熱田に構える豪商の邸宅とは。


「味方を増やすための優遇措置。

恨まれる生活は敵に回るから。もし成長して恨みを抱えたら忠義をそれ以前の話だよ。

大切に育てられれば恩を返そうとする心理を突いたものなんだ」


「そういう狙いなのか。

蔑ろにしないため人質って不思議だな。冷遇されないのは有難いけど」


ここにある常識の疑問をクレマチスは雑談を交えながら応えてくれる。

疑問の氷解されて庭の向かいにある景色を眺める。

群青に染まる空に見下ろされる港町の喧騒を息吹を全身に受けながら心が洗われていく。

乱世の世だけど、かろうじての平和が保たれている。ゆっくりしていると廊下の右端から人影が伸びる。背筋を伸ばして迫りつつある伸びる影が姿を現したのは、ここの家主である豪商の方だ。


「やあ遊びに来たよ竹千代くん。

アツタの生活はどうだい、元気にしているかい?

不備がありましたら何時でも仰ってくださいね」


とても熱田の実権を持つとは思えない穏やかな人。顔立ちが良く、ややお節介で思慮深い方。

特徴的な青の髪をする天然パーマをした好青年。


「加藤さんじゃないですか。あの気を遣わなくて構いません。

どうしたのですか今日は」


「思いのほかに交渉成立するのが終わるのが早くて手持ち無沙汰になったのさぁ。

さあさあ退屈な仕事の話よりもアツタは楽しくてね遊ぼうぜ竹千代くん」


「は、はぁ」


急かすようにボクの前に胡座を組んで座り込むと持ち運んできた紙の雛人形を畳の上に置く。

そして白い髪を宝石のような輝きのつややかさのあるクレマチスは両腕を後頭部に組んだ。


「えぇー。また加藤図書助かとうずしょのすけ……えーと?たしか順盛のぶもりがわざわざ仕事を片付けてやって来たよ。

ご親切な人だね随分ずいぶんと。

雛人形で遊ばれると私が手持ち無沙汰の状態になるんだけどなぁ」


トゲのある言葉で加藤図書助順盛を冷ややかな横目で見る。

ここの支配権を持つ天然パーマの青年は加藤順盛。この人が幼少期の徳川家康をわずか二年を面倒を見てくれた人であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る