第3話―竹千代その弐―

それからバカップルの夫婦の手に育てられて年月が過ぎていた。

ボクが歩けるようになり喋れるまでとなった頃。


「頼むクレマチス、もう限界だ。

ジュースやケーキが食べたい」


「この時代には無い食べ物で釣ろうとするかな。

それに晴人まだ三歳なのですから仮にあっても食べさせてもらえるか分かりませんよ」


ここはジュースも無い上に菓子類が乏しい。

ボクがいた人間界からは似て非なる世界での暮らしは快適もあるが何より食事は少ない。

小さいながらも王様であるの松平広忠はその暮らしぶりは質素なものだった。


「無理か……。なら仕方ない。

では神界の話を聞かせてくれないか?神様がどうしてボクを格別に異なる世界を送ったかを」


まだボクの舌は上手く発音が出来ず幼子の特有な拙さでクレマチスに訊ねる。

そう思いながら思惑を吐いてくれないかなと淡い期待で問いかけてみた。

するとクレマチスは小動物に向けるような愛おしそうな明るい笑顔を向ける。

彼女の琴線が何に触れて感銘したのか存じらぬが、どうせ落ち込む姿が可愛いとか呂律が拙いことに胸を踊ったのだろう。


「うん、いいよ!……そう快く応えたいのだけど私ではクラミツハ様の神意を読めれないのよね」


「傍で支えているのにか?」


つい転生させたばかりの監視役として送られたから信用を置けると推し量っていたが違うのか。


「その通り、わたしは神様を補佐したりする。

でもヨーロッパから派遣した精霊でジャパンの神様たちには重要な話とかしてくれなくて。

詳しい懐の事情も知らなければ故人となった魂をどうやって送るかまでもね」


なんとなくクレマチスはヨーロッパの伝承から来ているから海外から来たことのセリフには驚嘆はなくすんなりと理解はした。

状況的な場面や会話から基づいて状況や思惑を推測して少しでも集めたいが派遣された彼女をこれ以上の追求しても重要な判断材料はなさそうだ。


「そうか。精霊なのに何も知らないか」


「ムゥ、そんな事ないよ。

貴方の記憶を消さずにそのまま送ること事態が普通はありえないんだよ」


頬をリスのように膨らませるとクレマチスはそう口走っていた。


「ありえない?特例措置じゃなく固く禁じられるのか記憶をリセットしないことが?」


異世界へメモリーをリセットしない事が通例な事と疑いを持たなかったけど異例の判断なのか。


「処置してもリセットは一部まで。

内部を外側を露見したくないからね。

都合が悪いくなること情報は流さないよう神様サイドではその懸念はない」


「……ならリセットしない異例がおかしくならないかクレマチス」


「過去にリセットされなかった人達はいい方向に進まないと結果が明白したんだ。

記憶を持ったせいで生前と現世との狭間でね」


「そうだとしてリセットは……しなかった」


記憶をゼロにさせることに来世を良くするためにあると解釈するべきか。

それは個人を良くするものなのか神様が望ましい良き行動するのどちらを指すのか?

この辺は後回しにして熟考して整理させてから後日また尋ねよう。

それとリセットしないのは神様も良く思わないならクラミツハは措置しなかった。


「そこは正直わたしも分からない。

ここを管轄する神様のルールなのか?一部のリセットはあっても記憶の完全なまま送ることは」


どこかやるせない声を沈んだ返事。

そこに触れていいものかとボクは迷っているとクレマチスは空気を変えようと笑みを作る。


「あ、あはは……暗い話になったね。

それじゃあ遊ぼうか晴人くん、いえ竹千代ちゃん」


「……ちゃん付けはやめてくれ」


「どうしても見た目が幼いと難しいよ。

それはそうと我儘な演技までして神界の情報を集めようとするのはクレマチスお姉ちゃんとしてはあまり感心しないなぁ」


手を腰に当てて姉のような態度を取る。

いろいろとクレマチスに言いたい事があるが遊ぶことに従う事にした。

何時から我儘を諦めると口が軽くなるかと試みた狙いに感知されたか。

ボクは伝えなかったがリセットされない記憶は完全ではない。

この異世界で暮らして発覚したことがある。

ボクは歩き方や喋り方などの無意識下に取得していた動作を忘れてしまった。いや、消去された。


(ここをより順応させる処置ためだろうけど。

消されているのは記憶というべきか怪しい無意識に覚えたものだけだ)


部屋から庭に出るとボクは白髪のボブヘアした美少女クレマチスを相手しながら今後どう立ち回るべきかと考えるのだろう。

侍女やサムライたちが廊下を通るたびに微笑ましく見られたのが恥ずかしい。

おそらく徳川家康は一人で遊んでいたという文献は無いかもしれない。

あっても信憑性はあるかどうか。

思いのほか遊び疲れる。屋敷の縁に腰を下ろす。


「せっかく頼られた訳ですから、これで終わりでは味気ないです。

そこで!わたしの名前を解説しましょう」


目の前に立つとクレマチスは満足していないボクに憐れみを覚えたのか唐突そう言った。

よく見ると彼女の足は、なんと地面を踏んでおらず浮いている。

今更ではあるが精霊というのはあながち妄言では無いという事か。


「クレマチスは精霊や女神の名前とかか?」


「えへへ、そうであれば素敵ですがね。

私は四季折々の花を冠した精。そう!花の名前。

古くから親しまれてきた蔓性植物つるせいしょくぶつの女王と呼ばれていた。

センニンソウ属のうち花が大きく観賞価値の品種をまとめてクレマチスと纏められたものかな」


纏めたものと構成した自分を他人事みたいな説明。

総称と言うことならカジュアルすぎる説明に彼女の独特な感性なのだろう。


「そうなんだ」


「はい。白と赤と紫でもピンクにもなれる花なんです。その花言葉は精神の美しさ。

そして…………策略です」


怪しく笑うクレマチス。何かを企てていると警戒をさせるためなのか。


「策略……」


失念していたが彼女はナビゲーターではあるが味方とも敵でもない。

いやどちらに転がるかはボクの行動で決まるのかもしれない。

頬から滴り落ちる汗。

いつの間にか緊張した発汗にクレマチスは手拭いでボクは顔にこびついた水滴を拭った。

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