第2話―竹千代(たけちよ)―
秩序は崩壊して混迷期を迎える。
領土を治める武将たちは独自の法や事業で守り抜いている。
荒れる秩序を治めるためにある現政権であるはずの足利幕府は各地を威光で従わせるだけの権力と支配力は失っていた。
政治的にも行政的にもあらゆる面を統一的にしないとならない幕府は
年号は
いずれ統一させ泰平の世を築いた武将が安寧と秩序が混迷に極めた失権した時代に英傑が生まれ落ちる。
――ボクの転生は赤ん坊から始める転生コース。
「オ、オギャー!オギャー!!」
(おいおい、予備知識で異世界に飛ばされるのは赤ん坊からと予想はしていたが。
本当に生まれ落ちると自分の身体じゃない拒絶反応がある)
意識や生前の記憶は明確にある。
まともな思考を継いで赤ん坊となることの早くも不憫に不満を叫ぶ。
「奥方様の赤子が、お生まれになりました!」
侍女がボクを抱き掲げて声高に叫んだ。
「おぉー!それは誠であるか。
無事に生まれたか
さわやかな声が聞こえる。
廊下を走って軋む音を立てるドップラー効果で少しづつ大きくなる。
ドア、おそらく襖を勢いよく開けて入ってきたのは十代後半ほどと思われる凛々しい若武者。
拙者の子と聞こえたが、イヤイヤいくら何でも若すぎるよね。
「はい貴方。お生まれになりました」
そして敷いた布団の上に座って返す年若い女の子。
その年若い女の子はどうやら多幸感で満ちる。
よく分かるほど花を咲かすような可憐な笑みをこぼしていた。
転生して赤ん坊。なんだかボクは当事者というよりも蚊帳の外に感じた。
「でかした……出来したぞ
「ええ……ええ」
感極まった二人は抱擁をはじめる。仲睦まじい。
イマイチ状況がよく分からない。
けど奥さん体力をかなり消耗しているから体調とか先に心配するべきではないでしょうか?
的外れかもしれないことを心でツッコミを入れるが声が届く筈がなくボクは泣き叫びしかない。
(あっ、この高校生さん夫婦だったのか)
どう見ても高校生。
うん、若すぎるよね二人とも。
ボクは精神的になるけど十四歳の中学二年生だ。
なので高校生にこんな忠告するのは出過ぎたことを承知で言うなら子供のためにもう少し計画性は必要ではないでしょうか?
「オギャー、オギャー」
「わあ!カワイイ。えへへ、ほっぺた柔らかい」
(げぇ。お、お前は……神のパシリの白い奴ッ!)
神の建物に秘書みたいな女性が転生された異世界に目撃する。
そこに居るだけで場違いな存在が放つ。
日本古来の屋敷のある一室で白いドレスめいた格好をした妖精が畳上を舞う。
いつの間にか追って降りてきたというのだろうか。
派手で華やかな西洋風のファンタジー要素が強めな彼女がいるだけで屋敷の中がスタジオではないかと錯覚させる場違い。
その子は赤ん坊の頬を指をつついて止めない。
「もうお忘れたのかな。
私の名前はホワイト・クレマチス、次から名乗らないのでよく忘れないでくださいね」
天井スレスレで飛んでいるクレマチスは鱗粉か粒子を放出して抱いた疑問を明るく答えてくれる。
(そ、そうか。どうやってボクの声を聞き取れているのか謎だが今は聞かない。ここはどこだ)
心を読めることに驚きはあるものの転生した赤ん坊そして未成年で結婚をすでにしていることで驚愕は薄れていた。
むしろ大量生産される異世界を舞台にした作品を触れたからこそ。
現実と混同してはいけないけどここでは役に立つ。この予備知識あってこそ読心術やボク以外にはクレマチスは視認されないことにスンナリと受け入れている。
だけど予備知識があってもテンプレである現実の赤ん坊に生まれ変わることだけは驚いている。
知識ではなく魂がそういっているかもしれない。
「ここがどこか分からないんだね。
うん、じゃあ答えるよ!ここはね岡崎城エリア」
(岡崎城エリアにいるか。ならボクが……いや徳川家康が生まれたのが岡崎城の中でいいのか?)
「ご名答!」
可憐にウインクをする。
その言葉と行動のすべて可愛さのあるものだった。
もし年相応な性欲というべきか恋愛感情に繋がるドーパミンや感心があれば惚れていたかもしれない。
けど名門の田中家で育てられた凡人のボクでも恋愛感情だけは壊れている。
好きになれない。
だから頬を朱色に染まり浮かれることなく、裏側を見てしまう。表を隠すために余念なくしていると疑惑を抱く。
「そして貴方のママとパパが熱くハグしている二人だよ。
わあぁ、熱々で見ていて恥ずかしくなるよね。
きゃあぁーーッ!!」
(…………深読みだったかな)
勝手に盛り上がるクレマチスを相手することがくだらぬくなり嘆息をこぼす。触れることの許諾もなくツンツンされる。
指が離れてクレマチスは両手を頬を収めて一人でまたも盛り上がっていた。
どうかなボクの柔らかい
神様との謁見というべきか神様に仕えている神聖な存在とは思えない言動。
もう少しちゃんとしたイメージだったけど今は赤ん坊の頬を押したり夫婦のハグを眺めて騒ぐ。
随分と好き勝手する奴だ。
と、そこでクレマチスは振り返って人差し指を向けて迫り来た。
「た、たしかに人を任された立場として相応しくない振る舞い。ええ
(な、なんだ。その理論は?)
「それにしても本当に柔らかい。えへへ」
(くっ。そ、そうだ。
おい!クレマチスあの夫婦は誰なんだ。
あれが徳川家康の両親なのか?)
「んっ?あー、イチャイチャされている年若い夫婦の事ですね。ええ、そうです。
父親は
お嫁さんは
なんてざっくりとした説明。
名前は理解した。
でも理解したのは名前だけで人物像とか二人の歴史をボクは知らない。
昔の記憶で生前ボクの姉は大河ドラマを観ていた。
今ではタイトルを思い出せず豊臣秀吉の時代では、あの二人は名前さえも出てこなかったと思う。
(忘れてた。生まれた年を教えてくれないか)
「私の?感心しないなぁ。女の子に歳を尋ねようなんてマナー違反だよ」
(ちがう。徳川家康だよ)
「なんだ徳川家康か。えーと……
(天文11年って)
「おっと、うっかりしていた1542年だよ。
でも天文12年の新説もあって1543年ともあるけど十一年が定説かな」
おいおい、そこはハッキリしてもらわないと。
天下を治めた日本で一番有名とも差し支えないほどの徳川家康なのに。
(これが歴史か)
「ちなみに関ヶ原の戦いが終わってからしばらく。徳川家康は
それで天文12年。
それは自ら署名したのは残っている。今とは認識が違うこと歴史背景を考えたら……まさか神に祈るのに嘘は書かない。
だからウサギ年なんか間違っているとかトラ年が正しいとも断言も出来ないから某ドラマがすべて間違っているともいえないのよね」
(そ、そうなのか。よく分からないけど)
戦国武将の松平広忠、その妻となった女性の於大の方。この時代であるなら数奇な運命から避けられないところにいると思われる。
あの二人の人生はどう辿っていくのだろうか。
関心を持って見ていたら二人はボクの方へ視線を向けると足を進んで近づく。
松平広忠は手を伸ばすと赤子のボクは抵抗しても非力でされるがまま掲げられる。
「名前は
いいか、拙者の嫡男の名は竹千代だ」
「はい。立派な武士として育てましょうね」
なんというバカップルか。
でも幸せそうに満ちる二人の笑顔を眺めていると、微笑ましく心によぎる。
(なあ、今更なんだけど。あの二人は)
「ええ。わたしの姿は見えていません」
ある意味クレマチスの容貌が目に入っていないなら無反応なのは納得だ。
すこぶる美少女の部類に入るし下手をすれば松平広忠が鼻の下を伸ばすほどな美貌を誇ると思われる。
いや鼻の下をいくら何でも伸ばさないか。
「よし
突拍子のない事を言うのかな松平広忠。
これに呼応するようにクレマチスは人差し指を上に伸ばして補足をつけようとする。
「徳川家康が井戸水はどこかは定かでは無い。
ともかくボクは産湯されるのか。
新たしい人生の開幕にしては羞恥に耐えらないとならぬのかと絶望感で逃げたくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます