番外編:殿下がチャラチャラしてた頃の話

1.殿下の護衛

殿下の護衛騎士ジェラルドが語る殿下が小さかった頃のお話です。

ジェラルドは書籍版に登場したキャラなのですが、書籍版読んでなくても読めますのでご安心を!でも書籍版も読んでもらえたら嬉しい!


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 平民の生まれにして魔力持ち、入学した魔術学園はぶっちぎりの首席卒業。しかも、希少な転移魔法使い!


 オレはまさに約束された『成功者』ってわけ。


 そんなオレが選んだ就職先は王立騎士団だった。

 そりゃあオレは優秀なわけですから、ありとあらゆるところからスカウトがあったわけですけど。悲しいかな、オレは平民なので、コネはない。いくらオレ自身が優秀で才能の塊だとしても、未来の保証はないのだ。民間は給料が良くってもなんかあったら将来的に切られる可能性がある。お貴族様の生まれで横のつながりがガッチガチならそんな心配ないんだろうけど、こればっかりはしょうがないことで。


 そこをいくと、王立騎士団の保障は最高だった! 犯罪行為とかの不祥事起こしたら一発アウトだけど、それさえしなければ休暇も充実、働けなくなった後の保障も充実、誰に言っても一発で「へー!」って言ってもらえる勤め先!


 まあ、だったら王立騎士団行っとくでしょ、ってわけで、首席卒業の次は王立騎士団の入団試験首席合格したオレ。


 そんなオレを待ち構えていたものとは。


「……ふん、貴様か。オレの護衛のジェラルドというのは」


 ふんぞり返ったおチビちゃん。キラッキラの金髪に目力すげー碧眼のお坊ちゃん。


(うっわ、クソおガキさま〜!)


 どうやったら八歳で人のことを『貴様』って呼んでみるか〜! って発想になんだよ。

 思わず恐れおののく。


(なんでこの善良の擬人化みたいな人たちからあんな不遜の塊が生まれてくんの?)


 コイツ、いや、このお方は、オレが王立騎士団で得た初めてお仕事の……護衛対象の王子様だ。


 素晴らしいそのお名前はアルバート。国王陛下の一人息子だ。


 陛下たちはなかなか子どもができなくって、ようやくアルバート様が生まれたときはそりゃもう国中挙げてのパレードって感じですごかった。オレもガキだったけど、そのときのことはよく覚えている。

 景気も爆上がりで貧乏子だくさんのオレんちですら、その時期はごちそう食えたりしてありがたかった。王子様ばんざ~い♡ とか言ってたもん、オレ。純粋でかわいいな、オレ。


 そして、あの日のオレがばんざ~い♡ って言ってた王子様が今目の前にいるわけですけど。


(いっや、話には聞いてたけどさあ、マジ……不遜だなコイツ……)


 今日が初対面。昨日まで散々先輩がたに聞かされていた王子の傲慢伝説の数々。いやちょっと盛ってるでしょ、オレがあんまりにも優秀だからってびびらせようとか、名誉あるお仕事辞退させようとかさ~? そんな風に考えてんでしょ、とか思ってた時期がオレにもありました。

 でも、なんかそのうちにどうも、この王子の護衛係っていうのは……普通にめっちゃ嫌がらせ人事というのがわかってきて、マジかー、ってなったもんだ。


 いや、マジで、本当に、今、顔を合わせただけでわかる。

 この王子、マジで傲慢なやつだ。


(くっそう、入団試験手ぇ抜いとけばよかった~!)


 オレくらいになれば手抜きでちょーどいい感じに仕上げるのもお茶の子さいさいだ。でも、どうせとれるんならテッペンとっときたいじゃん。こういう体育会系の社会でナメられたくねえし。くそう、でも、出る杭打たれて今なんだよな! 新入団員に強制クソ人事かますのやめてほしいんだけど。勤務初日に「君ここね」って言われてもご意見言う余地ないじゃん? 待遇微妙でもホワイトな民間行けばよかったかなあ。


「貴様は魔術学園を主席で卒業したそうだな」


 声変わり前のちょっとたどたどしい声がして、オレは慌てて王子殿下に目を合わせる。

 声はかわいいのに、しゃべり方がすでに偉そうですげえ。


「え、ああ、まあ、はい」

「入団試験も首席だったとか」

「まー、そうっすね」


 オレは緩く答える。どうせ最初っからあっちは偉そうなのだ。こっちも必要以上にヘコヘコする必要はないだろう。多分、この人、人によって態度変えなさそうな感じだし。常に偉そうだから。


「貴様の実力を見込んで頼みがある。俺に魔法の指導をしてくれ」

「……はい?」


 オレ、護衛なんですが!?


 オレが「え?」ってなってるうちに、殿下はどっかにスタスタ歩いて行ってしまった。

 途中くるっと振り向いて睨まれる。護衛なんだからついてこい、ってことだろう。


 ◆


(……コレ、特別手当とかでねーよなあ……)


 はあ、とオレはため息をつく。

 殿下と魔法の訓練を初めて小一時間ほどが経っていた。


 ぶっちゃけ言おう。殿下に魔法の才能はない。


 多分、身体の中の魔力自体が少ないんだと思う。魔力の多い少ないは生まれつきのもので、努力すれば増えるとかいうもんじゃない。魔法の才能はほとんど生まれた時点で決まっちまう。


 オレは平民出身だけど、めちゃくちゃ膨大な魔力の持ち主である。オレに限らず、普通は魔力を持っていないはずの平民から魔力持ちの子が生まれると、大抵その子の魔力量は多いのだ。

 まあ! オレはその中でも特別すげー魔力持ちなんですけど!


 で、貴族ならみんな魔力を持って生まれてくるはずーっていう中で、殿下の持っている魔力は……言っちゃなんだが、『ギリギリ』ラインだ。


 小っちゃい火を指先に灯せる、ぽたぽたとしずくをこぼせる、熱いものをふうふう冷ます程度の風が起こせる。


 殿下の魔力はその程度のことしかできない。


(……あー、なるほどな)


 オレが殿下の護衛として送り出される前、先輩に聞かされてきたいろんな話に合点がいった。


 なんで国王陛下唯一の息子である王子殿下の護衛がハズレの仕事になるのか。殿下がめちゃくちゃ偉そうなおガキ様だから、じゃない。


(殿下は『王位継承権第一位』になれない可能性が高い、と)


 つまりはこの神輿を担いでもどうにもならない。王子の傲慢に耐え忍んだところで、オレが得るリターンは少ないって、そういうワケだ。

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