第6話・波乱の身体測定
健全な魂は健全な肉体に宿る。
――というわけで、今日は学園の身体測定及び健康診断の日だ。
全部で三学年ある我が魔術学園だが、今日はみんな揃ってゾロゾロ移動して会場ごとに身体測定や健康診断を受ける。
(あ、殿下だ)
女子生徒の身体測定をしていた体育館から移動するときに渡り廊下で一際目立つ派手な金髪とすれ違う。
大量のありとあらゆる測定や内診等を円滑に進めるために、普段ならゴテゴテのローブやドレスを着ている生徒たちも今日は学校指定の地味な白シャツを着ていた。
一学年上の殿下もいつものジャラジャラしているマントをお召しになっていない。お顔が整っているだけでなく、身体の方も均整の取れた肉体を誇る長身であらせられる殿下は飾り気のないただのシャツ一枚でもキマっていた。
(格好いいなあ)
ついそんなふうに目をやっていたら、他の男子生徒に派手にぶつかって「気をつけろよ!」と怒鳴られる。
(……ど、怒鳴られてしまった……!)
怒鳴られて喜ぶのは世界広しといえど、私くらいのものだろう。フフン、なんと私は努力の甲斐あって、私の魅了魔法の影響は男子生徒相手にもだいぶ! 薄く! なってきていたのだ!
いまだにメロメロ状態っぽい人もいるんだけど、なんでも、殿下いわく「元々お前が好みのタイプの男とかは影響が根強い」とのことで。
でも、しかし、ようやく、ここまで来たのだ。私の魅了魔法が全方位に悪さするのはもう時間の問題、というところだろう。
学校の授業でも魔力のコントロールが上手くなってきたおかげで、前よりも使える魔法も、魔法を使ってできることも増えてきた。魅了魔法のおかげじゃなくて、ちゃんと私自身の力で成績も上がってきている。
男子生徒が無差別にメロメロになっていないおかげで、ちょっとずつ……実は、女の子の友達も増えてきている。とても嬉しい。
この間は初めて食堂で女子トークをしながらランチを食べた。今までは混乱を避けるためにできるだけ一人でコソコソとお弁当を食べていた。だから、すごい嬉しい。
「クラウディアさん、今日もニコニコしてらっしゃいますわね」
「本当。わたくしなんて憂鬱で……。1日でこんなにたくさん計測だなんだと煩わしく思ってしまいますが、クラウディアさんをみていると見習わなくてはと思いますわ」
「えへへ、私、こういういろんな結果が数字で出てくるの好きなんですよね」
検査と検査の合間、教室を移動する最中、学友と和やかにヤマもオチもない話をする。……ああ、これこそ私が求めていた穏やかな学園生活……。
「あらっ!? クラウディアさん、涙が!?」
「さ、さきほどの目の検査のせいかしら? わたくしもあのまばたきせずに一点を見つめさせられたのは苦しかったですわ」
「あ、ありがとう。ごめんなさい、なんでもないの……。そう、ちょっと、目が乾いちゃったからかしら、だから涙が……」
みなさん優しい。恋と婚約者が絡まなければこの学園に通うのはみんな心優しい淑女たちばかりだ。
まだ、私の魔力制御は完璧ではないけれど、私は少しずつ、平穏な学園生活を手に入れつつあった。
◆
さて、次は魔力測定だ。
基本的に魔力の量というのは生まれつきで、努力して多少の増減はあっても、持って生まれた量から著しく増えることはまずないらしい。
だけど、たまにあるタイミングで爆発的に魔力の量が増える例があるため、念のために学園に通う生徒は毎年こうして魔力値の計測を行う。まあ、爆発的に増える……というよりも、ニュアンス的には元々それだけのポテンシャルを持ちながらも栓みたいなのがされているせいで発揮されていなかった力が年月を経て栓が抜けてやっと魔力が解放される……って感じみたいだけど。
魔力測定をする教室に入り、検査の列に並ぶ。私の番になると、測定役の先生がフフフ、と口角を上げて私を迎えた。
「クラウディアさん。普段はあなた、膨大すぎる魔力を抑えて授業も受けているでしょ? 今日は思いっきり魔力を放出していいからね」
「はっ、はい!」
「こんなこと大きな声じゃ言えないけれど……実は楽しみだったのよね。あなたの魔力値、どんな数値を叩き出すのかしら……! さあ、思いっきりやってちょうだい!」
「わかりました! 先生!」
私も実はちょっと楽しみだ! 入学前の魔力測定のときは簡易的なものしか受けられなかったから、殿下にも無駄にすごい魔力量とは言われていたけど、あんまりピンと来なかった。でも、今日の魔力測定器は最新式のものでなんと魔力の量が数値として明確に表せられるらしい。
でも、『魔力はそんなふうに数値で可視化できるものではない!』っていう声も一部ではあるそうだけど……。まあ、それはさておき。
ワクワクしながら私は測定器に右手を入れる。そして、手のひらから魔力を放出した。これで魔力値が測れるらしい。
測定器のメーターを先生と一緒に興奮気味に眺めていると、みるみるうちにメーターはギュンッと針を振り切り、そして、ボンッ! と音を立てて機械の内部で何かが破裂し、勢いよく黒い煙を吹き出し始めた。
「……!?」
「う、うわーーーっ!」
教室中が真っ黒な煙に包まれる。慌てて私は測定器から手を引っ込めたけれど……なんか……『もう遅い!』という雰囲気が……ひしひしと……。
どこからともなく感じる悪寒。
顔がひきつる私の肩を、誰かの手がぬめっと叩いた。
「……クラウディアさん……♡」
さっきまで魔力測定楽しみですね♡とキャッキャしあっていた先生だ。目はとろんとしていて、頬も紅潮している。
「……ッ!」
――魔力量を計測するために放出した魔力。それが、黒い煙に乗って魅了魔法として発動した。
私は瞬時に察する。
私の魔力値は規格外の規模らしい。測定器は測定可能範囲をオーバーした魔力を受け止められず、壊れてしまったんだ、と。
魅了魔法を制御できるようになってきたからこそわかる。今、私の魔力はこの学園中を覆っていた。
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