第3話・王太子殿下と秘密レッスン
そんなわけで! 私は王太子殿下直々に魔力コントロールの訓練を受けることになったのだった!
人気のない例の校舎裏に私たち二人はいた。殿下は念のため、『姿消し』の魔法をかけてくださっている。高位魔法なのに、あっさりと私と殿下で二人ぶんの魔法を行使できる殿下はすごい。
(……でも、この人、開口一番言ったのは『俺の嫁探しが捗らん!』だったよな……)
なんかつい勢いに負けて「殿下~! どうしようもない私を助けてくれるの!? ありがとう~!」って雰囲気になっちゃったけど……私の魅了魔法どうにかするのって、ソレのオマケ……では!?
「なんだ、その目は。俺への不敬を感じるが」
「いえっ、なんでもございません! ありません!」
うんうん、オマケでもなんでもいいよね。このままじゃ、私、まともな学園生活、ひいては卒業後も地味で控えめで堅実な日々を送るのに障害があるし……。
殿下の目的は『俺の嫁探し』。そのために邪魔な私の魅了魔法のコントロールに付き合ってくれる。うんうん、お互いに利益があって良いことだ。
さて、魅了魔法の制御するために……まず私が行っているのは、基礎魔術である『火』のコントロール。
鍋の水が吹きこぼれない絶妙な火加減を維持し続ける……というとても地味な訓練なのだけど、それがものすごい難しい。
私の魔力量は多い。何も考えずに超絶火力を出力し続けることは容易いけど、この、繊細な火加減を……鍋の様子を見ながら調節し続けるというのは、なかなか厳しい。
ちょっと気を抜くとあっという間に鍋は吹きこぼれる。
それで慌てるとさらに火の勢いが強まり、鍋を焦がす。
「その調子では貴様が魅了魔法を制御できるのはいつになることやら……」
殿下がやれやれとかぶりを振ると、つられてマントの中身がジャラジャラいった。
うん、あまりお近くにいくようなこともなかったから知らなかったけど、殿下って一挙一動ごとにジャラジャラ音がするのね。マントの中の破邪グッズのおかげで。
頭の中で『ジャラジャラ殿下』って呼んでしまいそうだ。呼ばないけど。頭の中だけで。
あ、そうだ。と私は思いついたことを言ってみる。
「王家の破邪グッズを学園の皆さんに配布するのは?」
そうしたら、学園中が私にメロメロで何をしても全肯定、『優』なんてことはなくなるし、殿下も意気揚々と嫁探しができるのでは……。
「身につければいいというものではない。これらの装飾品は全てオーダーメイドだ。俺以外の人間が身につけたところで大した効力は発揮せん」
残念だ。まあ、しかし、たしかにそれは根本的な解決にもならないしね。
私の暴発しっぱなしの魅了魔法をなんとかしないと……。
こうして殿下から直々にトレーニングを受けていても、いまだに私は魅了魔法を使っている自覚はない。
――パァン!
「……弾けましたね」
「貴様、集中力が切れてるだろう。火の魔力の調整に意識がいっていれば、魅了の魔力の出力が強まることもないはずだが?」
「すすすすすみません」
よそごとを考えていると、どうも即バレするらしい。気をつけよう、集中しよう。
この殿下、態度は尊大だし、口調もきついけれど、意外や意外。モノの教え方はとても丁寧だった。
今日のトレーニングは……もうこれで三日目になるかな? そんな一朝一夕に魔力コントロールが身につくとは思えないけれど、殿下は気長に私に付き合ってくださるようだった。
長い脚を組んで校舎裏に生えているちょうどいい切り株に腰掛けて、パラパラと本をお読みになっている殿下。本を読んではいらっしゃるが、私の様子は気にかけてくださるようだった。
「……どうも貴様は、膨大すぎる魔力を持て余しているようだな」
「うう、そうかも……しれません」
魔術の試験ではいつも指定されている威力の数倍の魔術を放ってしまっていた。でも、『こんなに強大な魔術が使えるなんてスゴい! 加点30000点♡』という評価になっていたから……あまり気にしたことはなかった。
(……でも、その甘すぎる採点も、全部は私の魅了魔法のせいで……)
だから、勢い余って校舎の屋根を燃やしたときも怒られなかったんだ。
私はシュンと頭を下げる。
――パァン!
また殿下の破邪グッズが壊れた。いけない。また気が逸れた。鍋も焦げた。
「魔力の力が強くなればなるほどどうしてもそれの制御も難しくなる。貴様ほどの規格外の魔力を有していれば、貴様の魔力制御がポンコツなのもそう恥じるものではない」
「ポンコツ……」
「腐っても魔術学園に通っているだけのことはある。だが、他の連中ならば許容できる最低限のラインが貴様は何倍も厳しいのだ」
「腐っても……」
褒められているのか貶されているのかわからなくて……なんとなくありがたいことをおっしゃっている気はするけど……集中できない。
「学園の教員どもが腑抜けになっていなければ、貴様はもっと魔力制御も上手くなっていただろう。俺が少し忌憚のない指導をしただけで、この三日で格段と魔力制御は上達している」
「ほ、本当ですかっ?」
私が一歩近づくと、殿下の破邪グッズがまた一つ爆ぜた。やっぱり距離が近くなるとダメらしい。殿下は眉を顰め、パッチリ二重の目力が強くて派手な印象を与える青い眼を窄めた。
「すみません……」
「無意識で常時展開している魅了魔法については……道は長いだろうが」
はあ、とため息をつかれる殿下。ジャラ、と音をさせながら殿下は軽くマントを翻すと、勝ち気に眉を吊り上げ私に笑って見せた。
「それでも一歩は一歩だ。貴様の努力のぶんだけ進んでいく。貴様のその素直さは美徳だ。このまま励めば、必ずや貴様はまやかしの評価ではなくて自分の力で歩んでいけるようになるだろう」
「……殿下……」
放課後、すでに日は暮れていた。夕日が殿下を朱く輝かせていた。自信満々な不遜な表情がなんだかとても格好良く見えた。
「は、はい! 私……頑張ります!」
気合を入れて殿下と向き合えば、パァンパァンと連続で破邪グッズが爆ぜた。
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