第32話 雄太の能力

「まったく度胸のない人なの。勇者ティナがいるのに」

「綾小路龍さんを変なことに巻き込まないで。いい人なんだから」


「ふん、オークのくせに。女のいる家に泊まる度胸も無いとはな」

「・・・オークに見えてるのは私たちだけでしょ?」

 女神ルナが、綾小路龍を家に泊めさせようとしていたけど、動揺しながら帰っていった。


「どうして泊めさせようとしたの?」

「後をつけていた、人ってのをもう少し聞き出そうと思ったの」

「なるほど」


「オークと一晩過ごした方がいいとか、女神もついに狂ったのかと思ったぞ」

「私はいつも考えがあって行動しているの」

 ルナが少し、魔王リカリナをにらみつけて息をつく。

 

「オークじゃなきゃ、私たち、まともな会話ができないんだから仕方ないの」

「それはな」


「はぁ・・・・」

 3人で顔を見合わせて、ため息をつく。


 めいみゅうと雄太をくっつけなきゃ・・・。


「って、こんなことしてる場合じゃないわ。雄太は?」

「さぁな。疑惑にさらされるめいみゅうを放っておいて逃げ出したか?」

 魔王リカリナがめいみゅうのタペストリーを見ながら言う。


「めいみゅうか。めいみゅうもやり返せばいいものを・・・」

「きっと、めいみゅうは弱い立場なの。私たちの世界だったら、力が正義だったけど、こっちの世界は複雑なの。強い立場の人ほど、裏にいたりするの」

「フン、綾小路龍が言っていた奴らか」

 デフォルメで描かれた、めいみゅうのクッションに触れる。


 めいみゅうが自分で描いたというイラストだった。

 優しい色合いの・・・。


「あんないい子なのに。雄太は一体・・・」


 ドドドドドッドド 


 バタン


「雄太!!」

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 いきなりドアが開いた。

 雄太が大きめのリュックを持って、息を切らしていた。


 魔力が一気に無効化される。


「お前どこに・・・」

「めいみゅうの話は聞いた。前の会社の人に会ってたんだ」

「え?」

「前の会社?」

「あぁ、どうしても必要なものがあってね」

 雄太がリュックからパソコンを出して、起動していた。

 横に鍵のような何かを差し込む。


「めいみゅうを傷つけた奴を、俺は絶対に許さない。暴露系Youtuberスダカにめいみゅうのことを流した奴と、直接対決してやる。必ずめいみゅうの身の潔白を晴らしてやるんだ」

「・・・・・・・・・」

 キーボードを打って、画面の表示を切り替えていた。

 雄太がこんなに怒っているのを初めて見たかもしれない。


「今、君らがゲームにいた頃の設定を探してるんだ」

「?」

「うちの会社は有名企業なのに社長が夜逃げして倒産したから、リリースできなかったゲームの情報はガバガバなんだ。他社でリリースできるならしてみろよって感じで。無理に決まってるけどね」

 片手に持っていた、ペットボトルの蓋を閉める。


「俺の同期、長谷川がキャラ設定に関してデータを持っててさ。まぁ、次の就職先で参考にするつもりだったらしいけど、そんなに甘くはないって。ゲームによって、計算が・・・待ってて・・・君らに頼みたいことがある」

 早口で言う。勢いに圧倒されてしまった。


 女神ルナがぺたんと座って、お茶を飲み始める。



「こっちも使おう。あのパソコンだけじゃ遅すぎる」

「雄太?」

「ちょっとごめんよ」

 がさっと、自宅用パソコンの前にあっためいみゅうのグッズをよける。

 起動して、慌ただしくキーボードを叩いていた。


「何するの? どうゆうこと?」

「今から、初期設定で君たちに一つデフォルトで能力を付与するんだ」


「能力なんていらないぞ。私は魔王だ」

「私も女神だから必要ないの」

「いや、今から付与するのは、『アース ストーン』の中では絶対に必要のない能力・・・ネットの文字をたどって、書いた人の接続先に侵入する能力だ」

「え???」

 魔王リカリナと顔を見合わせる。

 女神ルナも首をかしげていた。


「3人には暴露系Youtuberスダカに情報を流した人、めいみゅうに対して、あまりにも過激な発言を繰り返している人を探し出してほしいんだ。あとは、めいみゅうへの陰口を拡散している人・・・は、何人いるか教えてくれればいい」


「ほぉ・・・こっちの世界は戦い方が違うのか」

 魔王リカリナが牙を見せて腕を組んだ。


「で、どうするんだ? 見つけ出した人たちを殺すのか?」

「違うって。スダカに情報を流した人については・・・俺が直接話をしたいけど、過激な発言をしている人たちはどんな人か知りたいだけだ。法的手続きを取れば、情報開示が請求できるけど、めいみゅうはそんな体力ないと思うから・・・」


「それじゃあ、何もしないってこと?」

「んー、あくまでもめいみゅうの精神的苦痛を和らげたいんだ」

 マウスを動かして、エンターキーを連打していく。


「顔が見えないと、すべての人が悪く見えるだろう? 画面の向こうの人が、誰一人として信用できなくなるんだ」

「・・・・・・・」


「でも、めいみゅうのファン、めいにゃにゃんは確かに存在していて、こうゆうことをしているのは一部だ。それを、ちゃんとめいみゅうに知ってほしい」

「雄太、めいみゅうともう会わないって」


「は? ンなこと言ってる場合じゃないだろ。推しの一大事なんだからな」

「そ、そうよね」

 雄太が迷いのない強い口調で話していた。


 ほっとして、めいみゅうのクッションから手を放す。

 雄太は、私たちの作者なんだから、今のめいみゅうを見放すことなんて、絶対にないわ。


「あ、ごめんね。勝手に君たちに協力してもらおうと思ってたけど」

「もちろん、協力するつもり」


「そうだな。その新しい能力とやらはいまいちよくわからんが、私もこんなことをしている人間の面を見てみたい」

 魔王リカリナが、ツインテールを引っ張って立ち上がる。


「私はこうゆう人間が嫌いだ。でも、まぁ、私の作者が人間なら、何が違うのか気になるからな」


「じゃあ、私はめいみゅうへの陰口を拡散している人たちの全数把握をしてくるの。言葉の攻撃力を知らない、無知な人間がどのくらいいるのか知りたいの」

「そうか。ティナちゃんは・・・」


「私は、めいみゅうと綾小路龍さんを傷つけた、暴露系Youtuberに情報を流した人を探すわ。絶対に許さないから」

 立ち上がって、体を伸ばす。


「そっちは戦闘になりそうだな」

「そうね。雄太がいれば魔法が無効化されるから、素手でいくつもり」

「おー」

 女神ルナが小さく拍手をしていた。


「あはは、ティナちゃんは魔力が無くても、力があるんだよね。でも、この世界でティナちゃんの力を使うと、相手が死んじゃうよ」

 雄太が汗をぬぐいながら、画面に何かを打ち込んでいく。


 タンっと、エンターキーを押した。



 ブオン


「!?」

 体の中心から、電流が走るような心地がした。


「おぉ、なんか変な感じなのだぞ」

「魔法は無効化されたままだけど・・・」

「3人のキャラデザの、ステータス設定を変更した。といっても、うまくいったかはまだわからないね。一応やれることはやった」


 自分の手を眺める。

 ダンジョンを攻略し、能力を得たときと似たような感覚だ。

 

「馴染むのに時間がかかると思うから、今日はゆっくり寝て、明日行動しよう。あー、俺がいると無効化されるとかあるのかな。ま、とにかく明日の朝、確認するよ」

「雄太は?」

「俺はこの『アース ストーン』のゲーム資料のセキュリティを強化しておかなきゃいけない。もし、能力の付与がうまくいったら、君たちはエンジニアがどうにでも変えられることができてしまうってことだからね」

 雄太が二台のパソコンを交互に見ていた。


「このゲーム資料をもう一度開くことになるとはな。上の人は、このゲームに価値は見いだせなかったみたいだけど、やっぱりリリースしたかったよな」

 残念そうに呟いている。


 ぷるるるるるるる


「あぁ、さっき聞いたことがあったんだ」

 雄太のスマホに、長谷川からの着信が来ていた。


「もしもし、狭間だ。あぁ、そうそう。見たいのは見れたよ。うん、うん、あーそっちじゃなくて・・・」

 雄太はゲームについて関わっているときが一番イキイキしているように見えた。


 無職ってことだけは、絶対に譲らないみたいだけどね。

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