第31話 デマの拡散

― めいみゅうは綾小路龍がコンカフェに興味を持ったことを利用した。

  異世界コンカフェにいる勇者ティナを利用して、綾小路龍に近づいた。

  キャラは全て嘘。今までのグッズは捨てる。

  リスナーは金としか思っていないVtuber。 ―

 


「こいつら、今までめいみゅうのファンだった奴らじゃないのか? なぜ、こんなに簡単に、嘘を信じ込むんだ?」

「・・・・・・・・・」

 バイトから帰る途中に、スマホでめいみゅうに電話をかけていた。

 もう、2時間も連絡が取れていない。


「さっきから、何してる?」

「めいみゅうに繋がらないの」

「そりゃそうだろ」

 めいみゅうの悪口が、どんどん広まっていた。

 魔王リカリナが目を吊り上げながら、歩道橋を渡る。


「魔族から見れば、人間はクズだ。表向きは感情を隠し、裏で醜い行動をとる。こうゆうところは、こっちの世界でも変わらないのだな」

「一緒くたにしないで」

「私は人間のこうゆうところが大嫌いなのだ」

「・・・・・・」

 綾小路龍も、めいみゅうも、単なるデマに巻き込まれているだけなのに。

 ネット上では、罪人のような扱いを受けていた。どうしてこんな・・・。


「どうする? この悪口言ってるやつら、全員吊るし上げて殺すか?」

 

 ドンッ


「!!」

 魔王リカリナが踏んだ地面が微かに揺れた。

 周囲の人たちが、地震かと勘違いして、スマホを見ていた。


「お前ができないなら、私がやる。魔族の王はそうゆうものだ」

「魔王リカリナ、めいみゅうはそんなの望まないわ」

「・・・フン、やはり人間とは合わないな。勇者ティナは甘いのだ」

 魔王リカリナがツインテールを後ろに流して、殺気を静めていた。





「ただいま」

「おかえりなさい」

 家に帰ると、女神ルナがゆらゆらしながら部屋から出てきた。


「おい、雄太はいるか?」

「雄太はどこかに行ったの。まだ帰ってきてないの」

「あいつは何やってる? もう、23時だぞ。めいみゅうの配信も終わっただろうが」


「女神ルナ、大変なことになったの」

「めいみゅうと綾小路龍のことなら見たの。雄太が出ていく前に見ていたパソコンに、2人のことが書かれていたから」

 女神ルナが雄太の使っていたタブレットを見せてきた。

 めいみゅうの短い配信で、めいみゅうへの悪口が大量に書き込まれているのが映っていた。


 炎上。


 確か、『リトルガーデン』のみんなが、そう言っていた。

 世界が敵になったように、一人の人間を集中攻撃することだ。


「女神ルナ、めいみゅうがどこにいるかはわかる?」

「さっき見つけたの。東京のビル街から離れた小さなマンション、家にいるみたい」

「無事なの?」

「一応、身体的に無事なことは確認したの。一人でベッドにうずくまっていた。勇者ティナの連絡は気づいていたけど、スマホには触りたくないみたいなの」

「そう・・・」

 少しほっとして、ソファーに座った。


 女神ルナがカーテンを開けて、部屋に月明かりを入れていた。

 雄太のいない部屋は、女神ルナ、魔王リカリナ、私の魔力で満ちている。


「雄太はどこに行った?」

「あのYoutuberの動画を見て、飛び出ていったの。向かった先は、わからない。私の追跡魔法は、雄太には無効化されるから」


「そうか、では、魔法を使うなら今だな」

「魔王リカリナ、殺気が漏れてるの。災害を起こすつもりなの?」

 女神ルナがひんやりとした視線を向ける。


「私は、この世界の人間どもに失望したのだ」

「!!」

 魔王リカリナがガンプラを見てから杖を出す。


「この世界には、魔族がいない。だが、本来であれば、魔王が必要なのではないか? 私のような必要悪が・・・」

「魔王リカリナ」

「作ってやろうか? 私なら可能だ。雄太さえいなければ、魔力は無限なのだからな」


 キィン


「!」

 剣を出して、魔王リカリナに突きつける。


「魔王リカリナ、無関係な人たちに、危害を及ぼすようなことは許さない」

「お前はきれいごとばかり言う。顔を隠して攻撃してくる奴らを消滅させるには、怪しい者を一掃した方が早いだろうが」


「どうして、すぐそうゆう考えになるの?」

「根本的に、人間が嫌いだからだ。長らく魔王城に籠り、忘れていた。私は人間が嫌いなのだ」

 瞳がルビーのように輝いていた。


「っ・・・・」

 魔王リカリナの怒りは、一度沸点に達すれば止まらない。

 魔王城に挑んだ者からは、何度も聞いていた。


「私も、魔王リカリナ、貴女とは合わない。私は愚かでも、人間が好きだもの」

「ほう、では、ここで決着をつけるか」


「2人とも止めるの!!」

 

 パンッ


「!?」

 女神ルナが私と魔王リカリナの前にバリアを張った。


「月が満ちている。ここでは、女神である私には、2人とも逆らえないの」

「・・・女神は人間の味方だもんな。神であるお前が甘いから、醜い人間が量産されるのだ」


「私は中立なの。ここでは、向こうの世界のようにいかない。魔王城はないもの。魔王リカリナ、貴女だってわかってるでしょう?」

「・・・・・・・・」



 ピンポーン ピンポーン



「すみません! すいませーん!」

「綾小路龍?」

 ドアの向こうから、綾小路龍の声が聞こえる。

 窓から覗くと、車のライトが見えた。


「女神ルナ、魔王リカリナ、一時休戦よ」

「・・・わかってるのだ」

 剣を仕舞って、玄関に出る。

 女神ルナと魔王リカリナがにらみ合いながら魔力を抜いていた。



「はい」

 ドアを開けると、汗をびっしょり搔いた綾小路龍が立っていた。


「勇者ティナちゃん! ごめん!!!」

「え・・・・」

「今回のことは、俺のせいなんだ」

 玄関の前で崩れ落ちるように膝をついた。

 慌ててドアを閉める。


「えっと・・・」

「こんな大ごとになってしまったのは俺が・・・。本当に申し訳ない。気づけなかった。綾小路財閥が買収した企業の下請けをしていた会社の奴らが、綾小路財閥に恨みを持って、俺の後をつけていたらしい」

「・・・・・・」

 女神ルナと魔王リカリナが静かにこちらを見ていた。


「迂闊だった。メディアはうちが牛耳っているが、まさかYoutubeでさらされるとは・・・。芸能活動は目立つ分、リスクも大きいとわかっていたはずだったのに」

「綾小路龍さんのせいじゃない」

「いや、俺のせいだ。めいみゅうにも明確をかけてしまった。必ず彼女の信頼を回復できるよう、できる限り尽くす。俺はこれからメディア関係への説明があるから」


「大丈夫よ」

「え・・・」

 綾小路龍さんの手を握って、引っ張り上げる。

 少しふらつきながら立っていた。


「めいみゅうのことは私たちで何とかするから、綾小路龍さんは自分のことに専念して。何も悪いことなんてしてないんだから、堂々としていて」

「でも、俺は君にも迷惑を・・・」


「私は、4人で出かけたのがとっても楽しかった」

「ティナちゃん・・・・・」

「綾小路龍さんは何も悪くないんだから」

 絶対に、嫌な思い出にはしたくなかった。


「そうだ。悪いのは、デマを流した人間と、それに群がる人間なのだぞ。お前は別に悪くないだろうが、なぜ謝る必要があるのか理解できないな」

 魔王リカリナが後ろから歩いてきた。


「魔王リカリナちゃん」

「安心しろ。お前をはめた奴らを、殺すわけじゃない。絞めるだけだ」

「えっ、絞めるって・・・?」

「比喩なの。気にしないの」

 女神ルナがにこにこしながら魔王リカリナの横に並んだ。


「・・・えっと、この子は?」

「こいつは女神ルナだ。おっとりしてるが神だ」

「そうなの。勇者ティナちゃんと一緒に行動している女神なの。髪が自慢なの」

「はぁ・・・」

 女神ルナと魔王リカリナが綾小路龍の焦りを宥めていた。


 スマホを確認する。

 めいみゅうからも、雄太からも連絡は来ていなかった。


「雄太・・・・・」

 私たちの中に、誰も悪い人はいない。

 魔王リカリナも女神ルナも同じだ。

 ただ、顔の見えない人たちの手のひらを返したような悪意に、惑わされているだけだった。


 冷静にならなきゃ。誰も救えない。


「太郎さんと、ティナちゃん、リカリナちゃんと、ルナちゃんの4人が住んでるってこと? この家に?」

「そうだぞ。毛布が汚いことと、カップラーメンが大量にあること以外は完璧なのだぞ」

「へぇ・・・確かに古民家みたいで趣があるね。こうゆう家はテレビでしか見たことないな」

 綾小路龍が物珍しそうに、玄関の電気を眺めていた。


「古民家? よくわからんが、お前も泊まりたかったら泊っていいぞ」

「魔王リカリナ、勝手なこと言わないでってば」

「私も別に構わないの。小さな部屋が一つあるし」


「ととと、泊まるなんて、そんな・・・いや、俺はやらなきゃいけないことがあるから」

 綾小路龍が首を振って一歩ずつ下がっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る