第29話 すれ違う

「ティナちゃん推しの人すごかったね。初回から、いきなりスパチャどんどん投げるんだもん」

「あれは綾小路龍なの。確認したの」

「マジで!?」

「うん。綾小路龍のティナちゃん推し用の裏垢も見つけたの」

 女神ルナが得意げに言う。


「なんでそんなことわかるの? つか、裏垢とか、君、異世界転移してきていきなりそんなの見つけるとか・・・」

「私は女神なの。雄太から離れれば、女神の加護で見れるの」


「なるほど。そういや、君、透視能力があったね。勇者が相手ステータスをチェックするのに、そうゆう設定があった気がする」

「そうなの。月の出る夜は、魔力が満ちて、能力を使いやすいの」

 女神ルナが長い髪をとかしながら頷いていた。


 帰ってくると、雄太と女神ルナが私の配信の感想を話していた。

 魔王リカリナは、ガンプラを抱きかかえながら寝ている。


「ティナちゃんアバターのモーションもうまくいったようでよかったよ。前のじゃ、粗すぎるからね。できれば、Vtuberじゃなく、ゲーム内のティナちゃんが見たかったんだけどさ」

「・・・雄太、ここで配信見てるなら、来てもよかったでしょ?」


「めいみゅうがいるなら行かないって言っただろう?」

「く・・・窪塚さんたちが、技術的なことで雄太にも見てほしかったって言ってたから・・・」


「そんなにすごいことしてないんだけどね。まぁ、俺、無職だから、偉そうなこと言えないよ。前いた会社が有名だっただけで、別に俺は会社の駒として奴隷みたいに働いてただけだし」

「駒? 奴隷?」

「この世界の、サラリーマンはみんなそんな感じなの。働くの、馬鹿らしくなるから。無職最高だね」

 首をかしげる女神ルナに、ゲームのリモコンを持ったまま説明していた。


 みんな、雄太のことを褒めていたのに。

 雄太はなぜか、素直に言葉を受け取るのが苦手だった。


 めいみゅうだって・・・。 


「・・・・・・・・・」

 雄太に言葉をかけようとして、口をつぐんだ。


 絶対に言っちゃいけないって、めいみゅうと約束した話。

 めいみゅうと帰りに話したことを思い出していた。




 めいみゅうは自分も配信で忙しいのに、私の配信が終わるまで一緒にいてくれた。

「めいみゅう、今日はありがとう。私だけじゃ、緊張して話せなかった」

「ううん。勇者ティナちゃんらしく堂々としてたよ」

 コンビニでめいみゅうに奢ってもらったポテトをつまむ。


 コメントの流れが速くて、読むのが大変だったけど、なんとか終わってほっとした。

「なんだか、異世界にいたときのことを思い出して・・・」

「ふふ、異世界ね。本当、ティナちゃんって隙が無いな。今度、異世界の話をもっと聞いてもいい?」

「もちろん、何でも聞いて!」

「うん。じゃあ、次会うときまでに質問考えてこようっと」

 めいみゅうが楽しそうにほほ笑んだ。


 初めての配信は、初めて魔法の詠唱を覚えたときと似ていた。

 失敗すると、誰かを傷つけてしまうかもしれないってところが、顔の見えないリスナーとの会話みたいだなって。 


「美味しい」

「そう、そこのコンビニのポテト美味しいの。私も大好き」

 人込みから出たところで、めいみゅうの歩く速さが遅くなった。


「ねぇ・・・ティナちゃん・・・」

「ん?」

「私、もしかしたら、太郎さんが私の探しているめいにゃにゃんじゃないかって思ってるの」

「!?」

 少し俯きながら、ぽつりと話した。

 思わず、ポテトを落としそうになった。


「ど、どうゆうこと?」

「ティナちゃん、太郎さんは雄太って名前で私の配信にコメントしてたりしてないかな?」

「え・・・と・・・・」

 咄嗟に、頷いていいのかわからなかった。

 雄太は、めいみゅうに幻滅されたくないから、自分の名前は出したくないって言ってたし・・・。


「じゃあ・・・そうだ! 勇者ティナちゃんと魔王リカリナちゃんって、太郎さんと同居してるんだよね?」

「そ、そうね・・・・最近始めたばかりだけど」


「雄太さんがコメントで、親戚の子2人の保護者になったって話してたの覚えてて、その子たちにも私の配信見せてるって言ってて・・・あとね、ほかにも、太郎さんが雄太さんだったら納得するようなこと、たくさんあるの。だから、もしかしてって・・・」

「・・・・・・・・・」

 言葉に詰まっていると、めいみゅうが何か察したような表情をした。


「そっか。雄太さんは、私の配信を初期のころからずっと、見ててくれて。ツイッターでも必ずリプしてくれるし、もうVtuber止めちゃいたいなって思った時も励ましてくれたし」

「めいみゅう・・・」

「どんな人なんだろうって、ずっと思ってた。いつか会ってみたいなって。だって、いつも私のことを気遣ってくれるんだもん」 

 めいみゅうが長い瞬きをして、髪を耳にかけた。

 秋葉原駅が近づいてきて、歩く速度がゆっくりになる。


「でも、ティナちゃんと綾小路龍さんと、雄太さんと出かけた日から、コメントもなくなっちゃって、ツイッターのリプもおはようくらいしかなくて・・・」

 めいみゅうが、ちらっとこちらを見る。


「・・・太郎さんは、雄太さん・・・なんだよね?」

「・・・うん」 

 めいみゅうの真剣な目に、どうしても嘘をつけなかった。


「そっか。今日、ティナちゃんの初配信なのに来なかったのは、私がいたから?」

「えっと、違うの雄太が来なかったのは、そうゆうのじゃなくて・・・」


「私がめいみゅうだって知って、幻滅しちゃったのかな?」

「そんなことないよ! めいみゅうに幻滅する要素なんてどこにもない。めいみゅうはどこから見ても、めいみゅうのままだもん」

「ありがとう。ティナちゃん、優しいね。きっと人気Vtuberになれるよ。って、もうなってるか。初回で同接3000人はなかなかないよ」

 めいみゅうが力なく笑う。

 どう言えば信じてもらえるのかわからなかった。


 めいみゅうが、なぜか、いつもよりも大人っぽく見えて。


「雄太はめいみゅうに幻滅したりなんかしないよ・・・本当なの」

「いいの。配信と現実が違うのは当然だと思うから。ごめんね、急にこんな話して」

「ううん」


「あ! 私が、太郎さんはいつも見てくれてた雄太さんだってことに気づいたってぜーったい言っちゃだめだよ? あくまでも、太郎さんは太郎さん。ふぅ、これは私の心だけに留めておくから、次会ったときは通常通りね。普段通り、普段通り・・・ティナちゃん、約束してくれる?」

「・・・うん。わかったわ」

「ありがとう」

 めいみゅうが胸を押さえて、深く息を吐いていた。


「ティナちゃんに、話せてよかった。なんだかすっきりしちゃったな。じゃあ、私、12分発の電車に乗らなきゃいけないから。また連絡するね」

「気を付けて」

 軽く手を振る。

 駅の改札まで走っていくのを、目で追っていた。




 雄太にどこまで話したらいいんだろう。

 めいみゅうが話しちゃ駄目って言ったことは、絶対に言えない。


 でも、このままじゃ2人がすれ違ってしまう。

 ただの、配信者とリスナーになっちゃう気がして・・・せっかく、めいみゅうが雄太のことを探していたってわかったのに。


 雄太とめいみゅうは、どうすればいいんだろう。

 アステリア王国にある本には、どう書いてあったかな?


 魔王リカリナは頼りにならないし・・・。


「勇者ティナ?」

「・・・・え?」

 はっとして、女神ルナの方を見る。


「ぼうっとしてるの。何か重要なこと、考えてたの?」

「そうね・・・重要なこと、だと思う」

 女神ルナがふわっと近づいてきて、私の顔を覗き込んだ。


 雄太はゲームに夢中で、こちらを見ていない。

 朝から晩まで、城周辺のモンスターを倒しまくって、レベル上げをしていた。


「女神ルナに、ちょっと話したいことがあって。いいかな?」

「りょーかいなの」


「ぐが?」

 魔王リカリナが腹を出したまま、こちらに寝返りを打つ。

 本当に、マイペースなんだから。


「魔王リカリナは呼んでない。ここでそのまま寝てて!」


 ぼふっ


 魔王リカリナに毛玉の多い毛布を掛けた。

 口をむにゃむにゃさせて、なんかの魔法を唱えていた。


 雄太がいるから無効化されるけどね。


 女神ルナが髪を後ろに流して、ドアを開けていた。

「勇者ティナ、いきましょう」

「うん」

 女神ルナと2階に上がっていく。

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