第27話 作戦成功?

「ティナちゃん!!! あれ? 太郎さんは・・・」

「ちょっといろいろあって、気絶してるの。今来るから」

 焚火をしていた場所に戻ると、綾小路龍が駆け寄ってきた。


「今どこにいるんだい? スマホを見て、すぐ戻ってくるって言ってたんだけど、なかなか戻ってこなくて。ヘリを呼ぼうか迷ってたんだ。崖から落ちたとかだったら、救助隊に要請した方が・・・」

「あ、大丈夫大丈夫。本当になんともないから」

 ぶんぶん手を振る。

 呼吸も脈も全て正常、ただ、目を覚まさないだけだった。



 バキッ


「重いのだ」

「お疲れ様、私も力持ちだったらよかったんだけど」

「・・・・私は魔王だからな。これくらい問題ないのだ」

 魔王リカリナが雄太を抱えて、倒れた木を乗り越える。


 立ち止まると、めいみゅうが、太郎の額をタオルで拭いていた。


「ん? 魔王リカリナちゃん・・・だよね? どうして?」

「そうだ。ティナが世話になってるな。とりあえず、こいつ、車に乗せていいか? 重いのだぞ」

「あ、あぁ、もちろんだよ。外にはハンモックもあるが、気温を調節できる車の方がいいだろう」

「礼を言うぞ。よいしょっと」

 魔王リカリナが綾小路龍の後ろをついていった。


 車に雄太を寝かせているのが見える。



「太郎さん、全然目を覚まさないね。何があったんだろう?」

「魔王リカリナが呼んだみたいで、崖から落ちたとか大きなケガがあったとかじゃなくて・・・。えっと、途中で具合悪くなったとか、かな」

 ルナが投げて、魔王リカリナがキャッチしたらしいけど・・・。


 さすがに、そろそろ目を覚ましてもいいころなのよね。


「どうしよう、あのまま目を覚まさなかったら。具合が悪いって、何かの病気なのかも」

「呼吸は正常だし、あまり心配しないで。太郎って、よくこうゆうのあるの」

「そっか・・・・」

 めいみゅうが、心配そうに車の方を見つめていた。


 命に別条がないことは、ルナが確認している。

 雄太が私たちの魔法を無効化しないなら、すぐに魔法で回復できたんだけど。




「太郎さんはしばらく休ませるって。確かに呼吸、血圧、脈も異常ないからさ。ティナちゃん、魔王リカリナちゃんも来てたなら言ってくれたらよかったのに。仲良しなんだよね?」

「仲良しというか、敵というか・・・」

「あははは、そうかそうか。勇者と魔王だもんね」

 綾小路龍が焚火の薪を片付けながら言う。


 いつの間にか魔王リカリナとセットになってしまった。

 まぁ、いいけど。


「ごめんなさい。せっかく、いろいろと用意してくれたのに、私のわがままで中断しちゃって」

「いやいや、いいよ。ティナちゃんが楽しんでくれたなら、それでよかった。温泉はどうだった?」

「本当にありがとう。とってもよかった」

 綾小路龍には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 ここにある、椅子やハンモック、食事の用意、釣り道具、その他見慣れない色々な道具も、すべて綾小路龍が用意してくれた。


 きっと、4人で楽しむつもりでいろいろ準備してくれたのに・・・。


「・・・・・・・」

 めいみゅうがずっと、車の方を眺めていた。


「めいみゅう?」

「あっ、私、ちょっと太郎さん見てきますね。その、綾小路龍さんはティナちゃんと・・・た、焚火、焚火しててください。どうしても気になっちゃって」


「え・・・・」

「失礼します!」

 めいみゅうが頭を下げて、車の方に走っていった。


 めいみゅうは雄太のことをどう思ってるんだろう。

 2人で会話ができそうな空気だけど・・・。


 魔王リカリナが邪魔な気がする。

 ちゃんと上手くやれるのかな。


「めいみゅうはそう言ってくれたけど、今日は帰ろうか。太郎さんも心配だしね」

「太郎のことは、魔王リカリナがいるから大丈夫。少しゆっくりしてもいい? 私、綾小路龍さんと話してみたくて」


「!?」 

 綾小路龍がちょっと驚いたような顔をした。


「今日は、本当にありがとう」

 簡易椅子のようなものに腰掛ける。


「もしかして、綾小路龍さんは何か用事があった?」

「いやいや、てっきりティナちゃんに呆れられたかと思ったから、びっくりして・・・。俺、SNSで発信しているイメージと、あまりにも違うからさ。本当は派手なことは苦手だし、真逆なんだよね」

「私、まだSNSって使いこなせなくて・・・」

「あははは、俺のSNS見てないなら、大分救われたな。飾ってばかりで、幻滅されそうだ」

 自信なさそうに笑っていた。


「あ、薪はこう組んだ方が、火が長持ちするの。私もよく、ダンジョンに行く途中にやってたから」

 薪を重ね直して、マッチで火をつける。

 ちりちりと燃えて、小さな火が大きくなっていった。


「本当だ・・・」

「温かい。私も焚火は好きなの。綾小路龍さんの世間のイメージがどうとかはわからないけど、こうやって人を気遣えるってすごいと思う。用意してくれた計画を、めちゃくちゃにしちゃって、ごめんなさい」

 めいみゅうと雄太をくっつけることばかり考えて、綾小路龍のことを考えていなかった。


 綾小路龍さんは心から、優しい人なのね。


「そんな、俺が勝手に計画しただけで・・・」

「・・・財閥とか、テレビとか見たことなくて普段の綾小路龍さんを知らないから申し訳ないんだけど、今のままでいいと思う。私は、今の綾小路龍さんが好き。今日は、わがままに付き合ってくれてありがとう」

「え・・・・それって・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 焚火をずっと見ていると、元いた世界が頭に浮かぶ。


 ダンジョンに行く前の日の夜は、野宿だったけど、必ず豪華な食事になった。

 仕留めたモンスターの肉や、川でとった魚、ハーブをまぶしたシチュー、直火で炊いたご飯、コンカフェで提供されるメニューよりも美味しかったかもしれない。

 みんなで囲んで、ワイワイしながら食べていたな。


 魔王リカリナがいなくなって、どうしてるのかな。

 平和になってるといいな。


「ティナちゃん・・・?」

「あ、少しぼうっとしちゃった。焚火には私もたくさん素敵な思い出があって・・・語りつくせないくらい。綾小路龍さんも何か思い出が?」

「俺にとっては、今のティナちゃんとの会話が、いい思い出だよ」


「そうかな。私、今日は魚取るくらいしかしてないけど」

「いや・・・・」

 綾小路龍が、長い瞬きをする。


「・・・・こうやって、飾らない自分の姿を褒めてもらえるって、なんか嬉しいんだね」

「え?」

「俺はこれからも綾小路龍を演じ続けなきゃいけないけど、なんかいい具合にほっとできたっていうか、説明が難しいんだけど・・・」



「おーい!」

 魔王リカリナが腕を組んで、こちらに歩いてきた。


「私は帰るぞ。疲れたのだ」

「魔王リカリナちゃん、ティナちゃんたちと同じ家だよね? ちゃんと送るよ。というか、ここまでどうやってきたんだい? どこかに車を停めてるとか?」

 綾小路龍が立ち上がった。


「あいつから離れれば魔法が使える。問題ない」

「魔法が? 何かの比喩かい?」

「・・・・・・・」

 魔王リカリナが私と綾小路龍を交互に見る。


「ふうん。楽しそうだな」

「何が?」

「まぁ、私はガンプラさえ買えればいいのだ。めいみゅうは、さっき水汲みに行ったからな」


「太郎の様子は?」

「見ればわかるぞ。じゃあな、今日はガンダムの放送日なのだ。今から飛んで帰れば間に合う」

「ん? 飛んでって・・・・? どうゆう・・・」


「私は魔王リカリナなのだぞ。魔法さえ無効化されなければ、余裕なのだ」

 魔王リカリナがツインテールをなびかせて背を向ける。

 川を軽く跳び超えながら森の中に入っていった。



「!?」

 綾小路龍が固まっている。


「えーっと、魔王リカリナってこうゆう場所慣れてるから、近道とかわかるの。私、ちょっと太郎を見てくるね!」

「え、あぁ・・・」


 焚火から離れて、車の方へ歩いていく。



 後部座席で、雄太が寝転がっていた。

 片方の瞼ががぴくっと動いている。


「・・・・寝たふりね? 雄太」

「めいみゅうがいる場所で起き上がれないだろ。だって・・・」

 額に手を当てて、目をぐっとつぶっていた。


「あー」

「まさか、あのスピードでめいみゅうの入浴を見たってこと!?」

「君らが飛ばしたんだろ? それに、俺、ゲームやってるから動体視力だけはいいんだ。つか、事故だって、あんなの・・・見てしまった、推しの・・・」


「へぇ・・・ちゃっかりしてるのね」

「刺激が強すぎて、心臓とまるかと思った。つか、止まってたかも・・・」

 雄太が深呼吸して、目を閉じていた。


「俺、しばらく死んでるから。家に着いたら蘇生して。あんなの見た後、推しとまともに会話できるわけないし、普段でもできるわけがないのに」

「ふうん。でも、今、めいみゅうが雄太のために水汲んできてるって」


「・・・時間経ってから・・・来てもらっていい? 今は、昇天するかもしれない」

「りょーかーい」

「・・・・・・・」

 遠くのほうから聞こえるめいみゅうの足音で会話を中断する。


 作戦は成功? ってことかな?

 さすが、女神ルナね。


「太郎さん、大丈夫? 綺麗な水汲んできたの。この辺は一度沸騰させなくても飲めるって、綾小路龍さんに確認したから・・・」

「ありがとう。もう少し休んだら、目を覚ますと思うから」


「そう?」

「うん。疲れも溜まっていたみたい。もう少し寝るって」

「目を覚ましたのね。よかったー」


 めいみゅうから、水の入ったペットボトルを受け取る。

 家に帰ったら、このペットボトルの水は、めいみゅうの祭壇に飾られると思った。

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