第26話 めいみゅうが探しているのは?

「わぁー、なんか秘境の温泉って感じ。私、こうゆうの大好き」

「よかった。めいみゅうは温泉とかよく行くの?」

「実は、あまり行かなくて。でもでも! Youtubeとかで、よくこうゆう温泉見てて、行きたいなって思ってたの。本当にあるんだ」

 めいみゅうが嬉しそうに話していた。


 魔王リカリナと女神ルナが作った温泉は、粗く削った岩に囲まれた広めの温泉だった。

 濁り湯というところがポイント高いらしい。肌が見えるか見えないか、というラッキースケベを演出するのだという。


 女神ルナは、月の女神だから、よく満月の日は水浴びに来ていたらしい。

 温泉と、エロティシズムには並々ならぬこだわりがあった。



「いい温度。熱くもなく冷たくもないから、のぼせたりしないと思うよ。ウサギさんに感謝しなきゃ」

「そうね」

 ウサギは抱きかかえてきたけど、まだ怯えていた。

 めいみゅうが、ウサギが好きっていうから連れてきちゃったけど、雄太に預けてくればよかったかしら。



 サァァァ


 木が風にさらさらと揺れている。


「・・・・・・・」

 深呼吸をして、周囲を見した。

 この温泉は、木々に囲まれて、誰からも見えないようになっている。

 というか、もし、誰か現れたら素手で殺せる自信はあるんだけど。 


 ここで、女神ルナのラッキースケベ作戦が行われるのよね。


 雄太が、いつ来るのかわからないのが不安だった。


 さすがに、外で裸になるのも抵抗ある。

 小説では、「男の人はいきなり襲いかかってくる」って書いてあったし。


 向こうの世界にいたときは女ばかりだったから、あまり抵抗はなかったんだけど、こっちの世界ではやっぱり緊張するものね。

 ちゃんと、めいみゅうの緊張も解かないと・・・。



 ばっしゃーん


「!?」

「ふわぁー気持ちいい!!」

 めいみゅうが勢いよく、温泉に飛び込んでいた。

 いきなり一糸まとわぬ姿で? 


 びっくりしていると、めいみゅうがこちらを見上げる。


「ティナちゃんも入ろうよ。ぬるくて気持ちいいよ。ふわぁ、癒される」

「・・・うん」

 周りの気配を気にしながら、服を脱いでいった。




「濁り湯、濁り湯ー。きっと、これでお肌もつやつや」

 めいみゅうがご機嫌で歌を歌っていた。


「めいみゅうは、画面も実物も変わりないのね」

「え、そ、そうかな?」

 めいみゅうが少し沈みながら言う。


「ティナちゃんから見て、画面の私ってどんな感じ?」

「可愛い女の子って感じかな。いつも天真爛漫で、リスナーに対して飾らない言葉をかけてくれるし、人気Vtuberなのもわかる気がするの」

「なんか照れるな・・・」

 嬉しそうに、口をぶくぶくさせていた。


「私、必ずやり遂げなきゃいけないことがあったから、あまり力を抜いたことがなくて。でも、なんだかめいみゅうの配信見てたら、ふわっと力が抜けて、癒されるなって・・・魔法はないはずなのに不思議な感覚なの」

 この世界に来てから、いろんなことを楽しめるようになっていた。

 今までは、仲間を死なせないようにすることしか、考えてこなかったけど・・・。


 コンカフェで働いたり、お客さんと接したり、画面越しで推しに夢中になる雄太を見たり、ライブに行ったり、戦いじゃない場所に身を置くって、こうゆうことなんだなって。


 たぶん、私だけじゃない。

 女神ルナも、魔王リカリナも同じことを感じていると思う。


「この前の、めいみゅうのホラーゲーム配信も見たよ。ドア開ける前から怖がっちゃうんだもん。ふふふ、コメント欄のツッコミも面白かったね」

「ティナちゃん、私の配信結構見てるんだね。なんか緊張しちゃうな」


「太郎がいつも見てるから」

「太郎さんが?」

「そう。めいみゅうの配信は必ずリアタイするって。魔王リカリナも、私も、バイトで疲れてきた日も、必ずめいみゅうの配信がついてるから」


 スパチャを投げる雄太を止めるために見張っていた。

 雄太がちゃんと仕事をしてくれたら、スパチャも止めないんだけどね。


「・・・・太郎さんって、コメントとかしてくれてるのかな?」

「え?」

「私、結構気になってるリスナーさんがいて。いつもコメントしてくれて、ほかのリスナーさんにも気遣ってくれるような初期からのファンで・・・Vtuber続けられるかなって思ってたときに、その人に励まされたことがあって・・・」

 めいみゅうがお湯をすくいながら言う。


「実際に会えたりしないかなって探してるの。ありがとうって、直接言いたくて。この世界のどこかにいるのはわかってるんだけどね」


 めいみゅうが雄太を探してる?


「どんな人なの?」

「えーっと、前話したかな? ほら、ゲーム会社にいるって言ってて、パソコンのこととか、ゲームのこととか、私の苦手分野が得意そうな人かな・・・って、ティナちゃんにこんな話しても困るよね」

「ううん! 私も、めいみゅうの言ってる人、一緒に探した・・・」




 シュンッ


 わあぁぁぁぁぁぁぁ


「・・・・・・・・・」

 なんか、今、頭上1メートルくらいの場所を、何かが通過したような気がした。

 魔法は関係ない。物理的な力で。


「ティナちゃん? どうしたの?」

「そう。風、今、ものすごい突風が吹いた気がして、雨雲とかあったかなーって」

「突風? 私は何も感じなかったけど・・・」

 めいみゅうが首をかしげていた。 


 まさかとは思うけど、今のがラッキースケベ作戦ってわけじゃないよね。

 何もスケベ的な要素のない、ただの突風だったんだけど。


 ウサギが岩の横に隠れていた。


「大丈夫?」

「うん。ごめんね。私の気のせいだったみたいで・・・」

「!!」

 めいみゅうの視線が、すっと降りる。


「どうしたの?」

「・・・ティナちゃんって、結構胸が大きいのね」

「そう? 大きさ的には、めいみゅうと変わらないと思うよ」

「違う違う! だって、ほら。私よりも全然大きい。Cカップがぶかぶかなの」

 めいみゅうが自分の胸に手を当てていた。


「めいみゅうのアバターの胸ってすごく大きいから、私、すごく嘘ついてるような気がして、罪悪感が半端ないの。リスナーさんも、きっと、おっぱいの大きいめいみゅうしか知らないから、中の人が私だってバレたら、炎上するかも」

「そんなことないって! Cカップ? とかはわからないけど、めいみゅうは、おっぱい大きいよ。角度じゃないかな?」

 軽く泳いで、めいみゅうに近づいていく。


「ほら、こうすれば」

「あわわ、ティナちゃん!」



 がさっ


「勇者ティナー、おーい。こいつが、倒れたのだぞ。どこにおいておけばいいのだ?」

 魔王リカリナが雄太を引きずりながら、草木をかき分けてきた。

 雄太が完全に気を失っていた。


「太郎さん!? 大丈夫!?」

「息はある。ただ、気を失っただけなのだ。時間がたてば目を覚ますぞ」

「えっ」

 めいみゅうが慌てて、タオルで体を隠していた。


「魔王リカリナ、そこに置いておいて。連れて行くから。めいみゅう、服着て、太郎が目を覚ますの待ってましょ」

「う・・・うん」


「勇者ティナ、作戦はどうなったのだ? ルナが花粉症になって、力加減ができなかったのだぞ。私のせいではないのだ」

「わかってるから」

 遠くの方で、女神ルナがくしゃみする声が聞こえた。

 雄太は目を覚ます様子もないし・・・。


「はぁ・・・」

 ラッキースケベ作戦は、完全に失敗したみたいね。

 ほかの手を考えなきゃ。


「そろそろ起きろ。魔法が使えないから、普通に重いのだ」

「・・・・・・・・・・」

 魔王リカリナが雄太を草むらに寝かせていた。


「大丈夫かな?」

 めいみゅうが服を着ながら、戸惑っている。

「太郎さん、綾小路龍さんと話してたはずなのに、途中で道に迷ったとか?」

「魔王リカリナを見つけて、心配で追いかけたのかもね。ほら、山道は道に迷いやすいから」

「なるほど。山って怖いっていうもんね。私たちも、帰り道、ちゃんと気をつけなきゃ」

 めいみゅうが髪をぱんぱんと叩いて乾かしていた。



「おーい、起きるのだ。脈も呼吸も正常なのに、あの程度で気絶するとはな。私たちの作者のくせに」

「・・・・・・・・・・」

 雄太が大の字で寝ている。

 ウサギが魔王リカリナを見ると、気絶したふりをしているのがわかった。 

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