第25話 女神ルナの作戦、ラッキースケベ

「どうゆうことなのだ? 勇者ティナ」

「だから、今からラブラブになる予定だったの!」


「全っっっっ然会話がないのだぞ。もう、40分も経ってるのに!」

「まだ、40分じゃない。これからだったの!」


「2人とも落ち着いて、ここは木の上なんだから。ほら、鳥さんたちがいなくなっちゃったの」

 魔王リカリナと女神ルナに呼ばれたのは、雄太たちから離れた森の、一番高い木の上だった。

 木の枝に座りなおして、足を伸ばす。


「それに、この会話が雄太とめいみゅうに聞かれてたらどうするの?」

「ぶっちゃけ、もう、何を聞かれててもいいのだぞ。とにかく、2人をくっつけるのだ」

「魔王リカリナ、落ち着くの。焦っても仕方ないの」


「ふん、女神だかなんだか知らんが使えない奴が」

「魔王リカリナ!」

「殺すの」

 女神ルナが笑顔でぶちぎれると、魔王リカリナが立ち上がった。


「面白い。ここでやるか? 女神よ」

「私はいつでもいいの」


「だから!!! 今はそうじゃないでしょ!!!」

 2人の間に簡易バリアを張った。木の枝が落ちて、下にいた小動物たちが逃げていくのが見えた。


「雄太とめいみゅうの関係には、私たちの生活がかかってるの。2人とも、一生カップラーメン生活になってもいいの!?」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 魔王リカリナと女神ルナが、すぅっと魔力を抜いて座った。


「・・・そうじゃないな」

「今は真剣に2人の関係を接近させなきゃいけないの。つい、カッとなってしまったの」

「魔王、勇者、女神が集っているというのに、この体たらく・・・・」

 こめかみに手を当てて、項垂れる。


「でも、私たち、力はあるんだけど、恋愛とか経験がないからわからないじゃない」

 3人でため息をついた。


「吊り橋効果って聞いたのに、吊り橋を使わなくても、食料調達できちゃうし」

「それは、お前がいけないんじゃないのか?」

「吊り橋が想像と違ったの」

 魔王リカリナに睨まれる。

 確かに、雄太とめいみゅうを吊り橋に乗せれば何か始まったのかもしれないんだけど。


「まず、2人きりにさせてみたらどうなの?」

「そうだ。お前が綾小路龍と2人きりになれば、必然的に雄太とめいみゅうは2人きりになるのだぞ」

「簡単に言わないで。綾小路龍さんってよくわからなくて、どう接していいか手探りなの。オークにしか見えないし、表情がオークの表情だから・・・」

「ふむ、確かにわからんな」

 魔王リカリナが息をつく。


「それは仕方ないの。そうゆう魔法なの」

「今だけ、魔法を解くとかできないのか?」


「できない」

「!?」

 女神ルナが手を挙げる。

 私とルナと魔王リカリナの腕に、金色の鎖のようなものが浮かび上がった。


「なんだ? これは・・・」

「この魔法は契約。雄太の前でも無効化されないものだから、2人がくっつかなきゃ、決して解けることはないの。万が一、私が死んでも解けない」


「げっ、えげつないぞ」

「そんな・・・ここまでする必要ある?」

「男に免疫がない私たちが、作戦を強行するためにはここまでするしかないの。私は女神だから」

 ルナがにこにこしながら、手を下した。


「はぁ・・・これは後がないのだぞ。勇者ティナ、お前にすべてがかかっている」

「魔王リカリナ・・・鼻水が出ているわ」

「花粉の薬が切れてきたのだ。後で薬を飲めば問題ないのだ」

 鼻をすすりながら、息をついた。


「ねぇ、ここは私の作戦で動くのはどう? 結構自信あるの」

 ルナが口に指を当てて、ほほ笑んだ。


「女神ルナの?」

「私は月の女神、ルナ。恋愛は得意・・・という設定なの。少し任せてほしいの」

 女神ルナがゆらゆらしながら立ち上がった。

 木がみしっと音を立てる。




「た、ただいま」

 めいみゅうと綾小路龍が駆け寄ってくる。

 雄太がかなり疑いの目でこちらを見ていた。


「勇者ティナちゃん!!!」

「大丈夫かい?」 

「ちょっと、あっちのほう見てきただけだから。ほら、可愛いウサギとかいたから捕まえてきちゃって」

 さっき捕えたウサギを見せた。

 ルナが脅したから、ちょっと怯えている。


「この辺でウサギは見たことないな。蛇ならいたんだけどね」

「そ、そうなのね。岩がもう落ちてこないかなーって調べてたら、結構奥の方まで行ってしまって。あ、落ちそうな岩はなかったわ」

「すごいな。勇者ティナちゃんは、本当に勇敢だね。もしこの世界に異世界から勇者が転移してきたとしたら、ティナちゃんみたいな子なんだろうな」

「あはは・・・ははははは」

 綾小路龍が、目をキラキラさせていた。


 本当に、転移してきた勇者なんだけどね。


「ティナちゃん、まさか食べるつもり?」

「太郎、さすがに私、ウサギは食べないわ」

「あ、そう」

 ものすごく、疑っている。

 さすが、私たちの作者だけあって、察しがいいわ。


「わぁ、可愛い。でも、ちょっと濡れてるね。風邪ひかないかな?」

 めいみゅうがウサギを撫でる。


「そうなの!」

「え?」

「この子、温泉に浸かってたの」


「!?!?!?!?!?」

 言葉にならない声を上げる雄太を無視して、めいみゅうを見つめる。


「ねぇ、めいみゅう。温泉に入らない?」

「いいよ。温泉! 私、温泉大好きなんだよね」

「この辺で温泉? 専門家たちの調査ミスか? 聞いたことなかったが」

 綾小路龍が腕を組んで、首をかしげていた。


「湧き出たんだと思うの。さっきの、転がってきた岩とか、なんとかで」

「なんとかって・・・」

 ちょっと、強引だったけど・・・。

 魔王リカリナと女神ルナが、雄太から離れてギリギリ魔法を使える場所に、無理やり温泉を用意していた。



 女神ルナが立てた作戦は、お風呂でラッキースケベ作戦だ。

 もちろん、ラッキースケベとは言っても、裸は絶対に見られないって前提の作戦。



 私がめいみゅうと一緒に風呂に入っているところに、雄太を投げて通過させるのだという。

 投げるのは女神ルナ、キャッチするのは、魔王リカリナ。

 予行練習は、このウサギでしっかり行われたのを確認した。


 一瞬だけ通ることで、めいみゅうにドキドキを味わわせるのだという。


 正直、よくわからない作戦だって自覚はあるけどね。

 女神ルナが言うんだから、信じるしかないわ。


「綾小路龍さん、いいかな? めいみゅうと2人で、温泉に行ってきても」

「もちろんだ。勇者ティナちゃんは強いし心配ないんだけど、でも、もし、万が一、何かあったらすぐに俺に連絡してくれ。勇者ティナちゃんに何かあったら、俺は・・・俺は・・・」

「心配してくれて、ありがとう。私は強いし、めいみゅうも必ず守るから」

 一歩下がりながら言う。

 彼には本当に本当に申し訳ないんだけど、オークに心配されると、どうしても変な感じがするのよね。


「ティナちゃん!!! かっこいい!! 好き。大好き!!」

「わっ・・・」

 めいみゅうが抱きついてきた。


「めいみゅう」

「私、一生勇者ティナちゃんについてく」

 ふわっと花のにおいがする。

 めいみゅうって、癒し魔法は使えないはずなのに、見てるとなんだか癒されるのよね。


「はっ、ティナちゃん! いきなり温泉だなんて・・・俺は反対だ」

「太郎さん、女子同士、きっと積もる話もあるんだよ。俺たちは俺たちで話そうか。俺の周り無職っていないからさ、普通に太郎さんに興味があるんだ」

「いや、でも・・・」

 引き留めようとする雄太に、綾小路龍が肩を叩いていた。


「心配するのもわかるよ。でも、ここはスマホの電波もちゃんと届くからさ」

「そうそう、太郎、心配しないで。こんなウサギちゃんでも、入ってたお風呂なんだから」


「・・・そのウサギは本当に温泉にいたのか?」

「・・・・いたわ・・・・ちゃんと、いたから濡れてるの。ほら・・・」

「・・・・・・・・・」

 雄太がじーっとこっちを見てくる。

 雄太は、私たちのことになると、ものすごく鋭いのよね。


 ウサギの頭を撫でる。

 本当は、ルナと魔王リカリナの実験台になったから濡れていた。


 ごめんね。後で、回復魔法をかけるからね。


「はぁ・・・ティナちゃん・・・」

「太郎さん、勇者ティナちゃんを貸してください! お願いします!!」

 めいみゅうが雄太に向かって深々と頭を下げた。


「わかった。気を付けて、行っておいで」

「はぁ、ありがとうございます!」

 めいみゅうが満面の笑みを浮かべていた。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・(尊死)」

 たぶん、雄太にとって至近距離でのめいみゅうの笑顔が殺傷能力が高い。

 思考能力が、地まで落ちているのが伝わってきた。


「ティナちゃん、太郎さんって優しいね。じゃあ、行こう」

「うん」

「うさちゃんも、一緒にお風呂入ろうね。可愛い可愛い。お風呂に入るうさちゃんなんて初めて見る」

 めいみゅうがウサギの頭を撫でて、話しかけていた。


 何とか、ラッキースケベ作戦の軌道に乗ったみたい。

 雄太がふらふらしながら、綾小路龍と、焚火のある方へ歩いていくのが見えた。

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