第22話 勇者ティナの作戦、吊り橋効果

 めいみゅうも綾小路龍もなんとか日程を開けてくれて、ダブルデートの日が決まった。

 でも、どんなデートコースがいいかはまだ連絡していない。


 2人とも私の希望を聞いてくれたけど・・・。

 そもそも、デートをしたことがないからわからないのよね。


 魔王リカリナと女神ルナからは、慎重に選ぶべきだと言われていた。

 なんといっても、私たち3人の中で、誰一人として恋を経験したことがない。

 恋愛は本の中でしか知らないんだから。

 (雄太が作ったゲームがリリースされなくて、来るはずのプレイヤーが来なかったから)


 有識者がいればいいんだけどな・・・。


 休憩室で、頬杖をつきながら、めいみゅうの配信アーカイブを眺めていた。


 めいみゅうって、みんなに笑顔だから、どんなことに興味があるのかわからない。

 癒し系の、優しい子なのよね。


 もっと、私が話しておけばよかったな。



 トントン


 休憩室のドアが開く。

「お疲れ、あ、勇者ティナちゃん!」

「お疲れ様。先に休憩ありがとう」


「ねぇねぇ、綾小路龍様とどんな感じ? 手はつなげそう?」

「え?」

 花音が楽しそうに隣の席に座った。


「花音、まだ始まったばかりなんだから」

「いきなり、ごめんね。なんか、自分のことみたいにときめいちゃって。私、しばらく恋とかしてないから、ティナちゃんの話見てるだけでドキドキするの」

 彩夏と花音が入ってくるなり、きゃっきゃしながら話しかけてきた。


「え、私が?」

「そうそう。聞いたよ、綾小路龍様とデートするんだよね。いいなぁ」

 花音が頬に手を当てる。


「綾小路龍様って、テレビで見るよりずっとかっこいいのね。ティナちゃんも美女だから、だれが見てもお似合いのカップルだよ。頑張ってね。私は推しにリアコしてるから、しばらく彼氏はできないかな」

「あはは、彩夏はそうだよね」

 花音は彩夏と仲のいい小柄な女の子で、ドラゴンっぽい尻尾を付けていた。

 ドラゴン族という設定らしい。


「でも、綾小路龍様が朝の番組で『リトルガーデン』を紹介してくれたおかげで、私、バイト継続の許可が出たの。それまで、うちの親の中でコンカフェってなんとなーくイメージ悪くて」

「花音の家、厳しいもんね」

「そうそう。私だって、好きな服着たいし、異世界にだって行きたいんだから」

 ドラゴンのような尻尾を撫でながら言う。


「そう・・・なの・・・」

 めいみゅうの配信を止めて、イヤホンを外した。


「でも、ティナはぜーったい、メン地下沼にはまったと思ったのに」

「もちろんはまってるよ。ほら、チェキも持ち歩いてるから」

 ケースに入れた、とっておきのチェキを見せる。

 今の私にはオークにしか見えないけど、でも、むうたくんとの大切な思い出だからいつも持ち歩いていた。


「ライブに行きたいな。それでそれで、いつか、キラキラのむうたくんとツーショットチェキを撮りたいの。彩夏、また一緒に行こうね」

「え・・・・」

 彩夏と花音が顔を合わせる。


「ど、どうゆうこと?」

「綾小路龍様がいるのに? まぁ、推しと彼氏は別って分けてる人もいるけど」

「えっと・・・勘違いしてると思うんだけど・・・デートっていうのはダブルデートで・・・・」


「?」


 2人に雄太とめいみゅうをどうしてもくっつけたい話をした。


「えー!?!?!?!?」

「しーッ」

「ごめん!!!」

 彩夏と花音が同時に口を押さえた。


「私、どうしても、どうしても、めいみゅうと雄太をくっつけたいの。私たちの生活がかかってるの。グッズはともかく、スパチャの額がすごいから・・・雄太無職なのに!!!」

「そりゃ・・・・」

「深刻になるよね。雄太さん、仕事してないんだもんね。佐久間さんは、窪塚さんたちと同じ会社に中途採用で入ってほしいって言ってたけど」


「雄太は頑なに働きたくないって。家に帰って、無職サイコーって、めいみゅうの配信見てる」

「んー」

 花音がうなりながら、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。


「ほら・・・でも、めいみゅうが来た大雨の日、何となく、めいみゅう、雄太さんのこと見てなかった? もしかしたら、興味あるのかなーって思ったんだけど」

 彩夏が花音の服を引っ張る。


「私、そのときキッチンでご飯食べてた」

「あ、そう」

 花音は料理がものすごくうまくて、手際もいいから、主にキッチン担当だった。


「私には脈が全くないわけでもなさそうに見えたよね。めいみゅう、ゲーム好きそうだし」

「そうよね。そうよね」

 彩夏が腕を組んで頷いてくれた。


「でも、それって、吊り橋効果ってやつじゃない?」

「吊り橋効果?」

「そう!」

 花音が強い口調で言う。


「吊り橋のような不安や恐怖を抱く場所で出会った人に対し、恋愛感情を抱きやすいって話があるでしょ? あの日、災害級の大雨だったし、めいみゅうもたまたま雄太さんがよく見えたとか・・・・」

「そうなの!?」

「う、うん」

 思わず前のめりになった。

 花音が勢いに、少し押されて頷いていた。


「・・・・・・・・・」

 恋愛小説は悪役令嬢が求婚されるものとか、突然、異世界転生してイケメン騎士様から守られるものとかしか見てこなかったから、想像もしていなかった。


 吊り橋!

 吊り橋のあるデートコースに行けばいいのね!


 確かに、ダンジョンのような場所なら、私も慣れてるし動きやすいわ。


 そこで、めいみゅうと雄太が会話できるようにすれば・・・。


「勇者ティナちゃん・・・?」

「ありがとう! 私、なんだか、すごくできる気がする」

「え・・・」

「2人のおかげよ。本当に本当に、ありがとう」

 花音の手をぎゅっと握りしめる。なぜか、不思議そうな顔をしていた。


 後で、綾小路龍にどんなところに行きたいかラインしておかなきゃ。





「ほぉ・・・吊り橋効果か・・・ずび・・・」

「魔王リカリナは、まだ風邪が治らないの? 絵里奈さんが心配してたけど」

 洗濯物を、部屋の中に取り込みながら話す。


「鼻水が止まらないのだ。涙も止まらないのだ。辛すぎるのだぞ」

「花粉症なの。雄太が薬買ってきてるから、明日になればよくなるの」

「ふえっくしょん、えくしょん・・・」

 ルナが魔王リカリナにティッシュを渡していた。


「花粉だなんて悪魔の所業なのだぞ。悪魔の粉なのだ」

「魔王は悪魔を使役していたでしょ?」

「奴らは、ここまで悪じゃないぞ。鼻水、目のかゆみ、くしゃみ、じわりじわりと拷問されているみたいなのだ」

「・・・・・・・・」

 魔王リカリナは、こっちに来てから何かと弱かった。 

 たぶん、魔王城から一歩も出なかったせいで、免疫がないのね。


「とにかく、デートのプランはばっちりよ。吊り橋のあるような場所を指定したら、綾小路龍さんがぴったりの場所を選んでくれたわ」

 当日は、綾小路龍が車でここまで迎えに来てくれるようだ。

 とっておきの、吊り橋があると書いてあった。


「なるほどな」

「魔王リカリナ、私たちも行くの。めいみゅうと雄太のラブラブ作戦に協力するの」

「もちろんだぞ。でも・・・そこは、スギ花粉とかないだろうな?」

「あったら、雄太が現れる前に燃やせばいいのー」

 女神ルナが指先にぼうっと火を灯した。


「そうだな。たまにはいいこと言うな」

「私はいいことしか言わないの」

 ルナが左右に揺れながら、まったりと話す。


「2人とも、このデートには、私たちの生活がかかってるんだからね」

「わかってるぞ。あれを見ればな」


「・・・・・・・・・」


 無言で、雄太のめいみゅうグッズを眺める。

 いつの間にか、めいみゅうの普段着っぽいタペストリーが増えていた。


 なんとなく『リトルガーデン』に来た時の服装に似ている気がする。


 ネットで検索したら、有名絵師の限定品で2万円という金額が表示されていた。

 全く同じとは断定できないけどね・・・。

 調べるのも怖いし。


「ガンプラがかかってるのだ。何としてでも、鼻水を止めて、勇者ティナを援護するぞ」

「私も頑張るの。女神がシャワーも浴びれず、公園で水浴びして、家に帰ってきたらカップラーメン生活だなんて絶対いやなの」

「ルナは随分具体的ね」

「私、女神だから、このままでいくと・・・の未来が見えてしまうの」


「・・・・・・・・!!!」

 魔王リカリナが戦慄していた。私も額に汗がにじんだ。


「で、でも、その未来は、絶対これから変えるのだ」

「そうなの。未来は、私たちの努力次第で変えられるの」

「絶対、2人をくっつけてみせるわ」

 3人で顔を見合わせて、大きくうなずいた。

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