第21話 雄太は推しと歩く自信がない

「はぁ!? めめめ、めいみゅうとダブルデート?」

「そう。昨日、決まったから」

「・・・決まったって・・・いや、嘘に決まってる。俺は何かを勘違いしてるんだ」

 雄太がめいみゅうのフィギュアを持ったまま、うろうろしていた。


 人間は、キャパオーバーになると、意味不明な行動を起こすらしい。


「そんなはずはない。何かの間違いだ。落ち着け、落ち着け・・・」

「本当なのに・・・」

 雄太がパソコンの前に座る。

 めいみゅうの配信アーカイブを見ながら深呼吸していた。




「ふぅ・・・いい天気ね」

 部屋の窓を開ける。

 月が一番高く上ると、女神ルナが雲を一掃したため、真夜中には晴れていた。

 今朝は雲一つない青空が広がっている。


 災害級の雨雲が突如現れ、数時間後跡形もなく消えたことは大きなニュースになっていた。

 海外でも大々的に報道されているらしい。

 何かの兵器なのではないかと言う、専門家まで現れていた。

 

「私の呼び起こした雨はそんなにすごかったのか。どのテレビ局も同じ映像なのだぞ」

「こっちの世界では魔法が無いから不思議なことなの」


「あれくらいの魔法なら、よくやってたけどな。中級魔導士が打ち破れる程度の雨だったのに・・・魔法がないって不便だな」

「科学じゃ打ち破れないもの。私がいてよかったの」

 ルナがまったりとお茶を飲みながら話す。


「朝から電車を一本も見ないのは、電車が止まってるからなのか」

「そうね。確かに、通勤ラッシュ? の人たちもいないわ」

 身を乗り出して、遠くの道路の方を見つめる。車の通りもほとんどなかった。


「私が止めてなきゃ、東京が水没していたかもしれないの」

「へぇ、危なかったのね」

「それなら、それで仕方ないぞ。私は、あのガラスケースに並んでるガンプラさえ無事ならいいのだ」


「いや、困るって!」

 雄太が椅子を回して、鋭くツッコミを入れる。


「あー、魔王リカリナのステータスの上限を決めておけばよかった。まさか、ここまでチートだったなんて」

「プレイヤーが来なくて、暇すぎて252年魔王をやり続けた結果だぞ」

「・・・・・・」

 魔王リカリナが瞼を重くして言うと、雄太が何も言い返せなくなっていた。



「なんか面白い番組やってないかな? 全部、昨日の雨のニュースでつまらないのだ」

「自分でやったくせに」

「貧弱なこの世界の奴らがいけないのだ」

 魔王リカリナが寝転がりながら、テレビを切り替えている。

 もう、こっちの世界の機器の扱いもだいぶ慣れていた。


 魔法を使えないのは不便だけどね。


「そういえば、魔王リカリナ、熱は大丈夫なの?」

「麗奈からもらった薬が効いて、今は全く苦しくないのだ。こっちの医療技術はすごいのだな。エルフ族がいるわけでもないのに」

 薬を飲んで、数時間後にはピンピンしていた。

 昨日の、ふらふらだった魔王リカリナが嘘みたいね。


「今日は昨日の雨で、コンカフェのバイトもお休みになっちゃったし、秋葉原でも見てこようかな。天気いいし」

 腕を伸ばしながら立ち上がった。


「私も行きたいの」

「私も行くのだ」

「魔王リカリナは、病み上がりでしょ?」

「もう治った! ガンプラを見てくるのだ」 

 魔王リカリナが目を輝かせながら言う。


「たぶん、どこもやってないと思うよ」

「えー」

「どうしてなのだ?」

「昨日、災害級の雨が降ったからだ!」

 魔王リカリナが自分のツインテールを引っ張って、横になる。


「貧弱な、この世界の者が悪いのだぞ」

「なんだか暇ね。じゃあ、私はむうたくんグッズでも見てようかな。次のライブは、来月だから、バイト代の計算と、そこまでにチェキ何枚撮るか考えようっと」

「勇者ティナ、このままじゃ、会ってもオークなの」

 ルナが心配そうにこちらをのぞき込む。


「ちゃんと、雄太とめいみゅうがくっつくまでは解かないからね」

「はーい」

 女神ルナのこの魔法だけは、雄太がいても無効化されない。

 理由はわからないけど、あまり深く考えずに受け止めていた。


「雄太、何かゲームないのか? 暇だから、私もゲームというものをやってみたいぞ」

「あぁ、ゲームね。それならこの辺にいろいろあるぞ」

「どれどれ?」

 雄太がクローゼットから段ボールの箱を出す。


「って、そうじゃなくて!!」

 くるっと、振り返った。


「めめめめめ、めいみゅうと、俺が、綾小路龍とティナちゃんが・・・4人でデート!? ってマジなの?」

「そう、何度も言ってるじゃない」


「っ・・・だって・・・め、め、めいみゅうが? どうして昨日言わないんだよ。昨日、綾小路龍もめいみゅうもいたじゃないか」

「だって、昨日言ったら、その場で断るでしょ?」

「・・・・・そ・・・そりゃ」

「雄太毎日ごろごろしてるだけだもん、予定は2人に合わせられるでしょ?」

 めいみゅうの絵が描かれたクッションを膝の上にのせる。

 

「もう、決まりなの。私、デートってしたことないし、どうゆうところがいいかわからないから、場所は、綾小路龍さんが決めてくれるって」

「そんな・・・」

 雄太がまだ納得いっていないようだった。

 パソコンの画面では、めいみゅうがぽわんとしながらしゃべっている。


「勇者ティナ、お前、そいつと行ってちゃんと上手く振舞えるのか? 相手は男なんだろ?」

「2人とも、まだ男性がオークに見える魔法を固定してるから大丈夫なの」

 ルナがニコニコしながら言う。


「お前、なかなか恐ろしいことをするよな」

「女神だから、手段は択ばないの。カップラーメン生活は嫌なの」

 左右に揺れながら話していた。


「だ、駄目に決まってるだろう。俺は無職だし、非モテだし」


「非モテ?」

「こっちの言葉でモテないってことらしいの」

「なるほど」

 ルナが小声で魔王リカリナに説明していた。


「それが、あのめいみゅうと一緒に行動するなんて・・・ありえないだろ。頭がどうかなりそうだ」

「お前、もしかして、画面越しじゃないめいみゅうと会って、実物は全然違うとか思ってるのか? 私には同じに見えたけどな」


「真逆だよ。全く同じだからびっくりしたんだって」

 雄太が壁にかかった、メイド服を着ためいみゅうのタペストリーを眺める。


「裏表もない、最推しが存在することが信じられないんだ。それを、いきなりダブルデートだなんて・・・。もし、ボロが出て、36歳無職の俺が、リスナーの雄太だって知られたら、一生配信見れなくなるよ」

 ため息をつく。


「ティナちゃん、綾小路龍さんには悪いけど、今から断って・・・」

「雄太!」

 立ち上がって、雄太を見上げる。


「昨日、めいみゅうはちゃんと雄太が窪塚さんたちの手伝いしていたところを見てた。ゲーム作れるなんてすごいなって、褒めてたよ」

「あ、あれは・・・たまたま、俺が君たちの作者だったから」


「そう! 私たちの作者でしょ?」

 両手を握りしめて、ぐぐっと迫る。


「雄太は、私と魔王リカリナと女神ルナの作者なの!」

「・・・まぁ・・・それが仕事だったから・・・」


「でも、私たちを作った事実は変わらないでしょ? 今は確かに無職かもしれないけど、自信持って。ちゃんとめいみゅうには、私と綾小路龍さんのデートに、友達として付き合ってほしいって言ってるから」

「・・・・・」

 ここで引いちゃいけない。


 恋愛は本でしか見たことないし、全然わからないけど、麗奈も押すべきって言ってたもの。

 絶対、何としてでも雄太とめいみゅうをくっつけるんだから。


「・・・・わかったよ。ちゃんと行くよ」

 ほっと胸をなでおろした。

 昨日は、何時間も同じ部屋にいるのに、雄太もめいみゅうも全く会話しないから、どうしようかと思っていたけど。


 4人だったら、確実に会話のチャンスはあるはず。


「でも、俺がリスナーの雄太だってことは絶っっっ対言わないでくれ!」

「どうしてなのだ?」

 魔王リカリナがごろんとしながら雄太のほうを見る。


「雄太のこと覚えてるなら、名乗った方がいいのではないか?」

「私もそう思うの」


「幻滅されたくないんだよ。本当の自分なんて晒したくない。配信ではめいみゅうを応援する頼もしい雄太でいたいんだ」

「・・・・・・」

 女神ルナが目を細めて、雄太を見つめていた。


「あくまで、2人の保護者の太郎として行くことが条件だ」

「・・・うん。わかったわ」


「・・・・・・・・・」

 雄太が緊張した面持ちで、椅子に座っていた。

 ぼうっとめいみゅうの配信を見つめている。


 後ろを振り返ると、魔王リカリナと女神ルナが小さくハイタッチしていた。

 一歩前進、って感じかな。


 スマホで綾小路龍からのラインを確認する。


 候補日がいくつか挙げられていた。後で、めいみゅうに共有しなきゃ。

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