第20話 ダブルデートの約束

 雨は止むような様子もない。

 停電なのか、遠くの方の建物の電気がチカチカしているのが見えた。


「じゃ、俺はこれで」

「ちょっと待って」

 逃げようとする雄太の手首を掴む。


「勇者ティナちゃん、力強いね。って、俺がそう設定したのか」

「この雨の中帰るつもり? 帰れないと思うけど?」


「推しの配信があるんだ。命を懸けてでも帰る」

「家で見なくてもいいじゃない。今、ここでやって・・・」

「あー2人ともうるさいのだ。頭がガンガンするのだ」

 魔王リカリナがむくっと起き上がって、こめかみを押さえていた。


 ミコさんがめいみゅうのほうに歩いていく。

 紙に何か書いていた。


「ごめんね。突発配信だったから、もう時間が来ちゃったみたいで。ちゃんとめいにゃにゃんの無事が確認できてよかった。私? 私のいるところは、お月様が綺麗で、流れ星が見えそうだよ」


 めいみゅうが変わらない笑顔で話していた。

 画面と同じような表情で話しているのね。


「うっ・・・」

 雄太が急に胸を押さえて、魔王リカリナの横に座り込んだ。


「どうしたの? ゆ、じゃなくて、太郎!」

「推しの配信がリアタイできなかったショックで・・・心臓が・・・」


「特等席でリアタイしてたじゃない!」

「コメントするのとしないのじゃ全然違うよ。あー・・・めいにゃにゃんとしての使命なのに」

 頭を抱えて、落ち込んでいた。目の前に推しがいるのに。


「ふぅ・・・」

「めいみゅう、さすがだね。プロって感じ」

「へへ、そんなことないよ。あまり時間が取れなかったし、そうだよね。いきなり停電になったら、みんな心配しちゃうもんね」

 めいみゅうが舌を出して、ミコさんと話していた。



 窪塚さんが近づいてくる。

「挟間さん、ちょっといいですか。停電しちゃう前に、さっきの色々保存したいので。本当、すみません」 

「あぁ、うん。全然いいよ」

 雄太が窪塚さんと、パソコンのおいてある席に歩いて行った。

 

「・・・・・・・」

 なんかもどかしいわ。

 めいみゅうと、雄太が同じ部屋にいるのに。

 私も恋愛経験がないから、どうやったら2人がくっつくのかわからない。


「勇者ティナちゃん、はい、魔王リカリナちゃんの薬です。解熱剤、もらったので」

 麗奈が薬と水を持ってきてくれた。


「ありがとう」

「魔王リカリナちゃん、大丈夫ですか?」

「熱が下がれば大丈夫だと思うけど。普段、風邪なんて引いてこなかったから、大げさに騒いでるだけなの」

「あはは、魔王が風邪引くイメージないですよね」

「くすり・・・なのだ・・・エルフが調合した・・・」

 ぼうっとする魔王リカリナに、薬を二錠渡す。

 ふらふらしながら、口に放り込んで、また横になっていた。


「うー、私、死ぬのか?」

「死んだら、また転生したらいいでしょ?」

「そ・・・それもいいな・・・じゃ、寝るのだ」

 タオルを頭までかぶって、寝息を立てていた。


「ねぇ、この雨って、魔王リカリナちゃんがやったんですか?」

「まぁ・・・・」

「すごい、本当に魔法使えるんですね。こんな大規模な魔法、見られてうれしいです」

 麗奈が窓に張り付いて、楽しそうにしていた。


「麗奈は帰れなくて大丈夫なの?」

「私は大丈夫ですよ。みんな一時的に不安になってるけど、ほら、佐久間さんが色々盛り上げてくれてるから、すぐ落ち着くと思います」

 

 佐久間さんがキッチンからドリンクを持ってきているのが見えた。

 絵里奈さんが、停電する前にまかないを作るって、佐久間さんに話している


「あまり、心配しないで」

「はぁ・・・やりすぎちゃった」

 魔王リカリナの額に、冷たいタオルを当てる。


「雄太とめいみゅうをくっつけようと思って、魔王リカリナが大雨を降らせたんだけど・・・結局、みんなを不安にさせただけで、雄太とめいみゅうは離れてるし」

「でも、いい感じに見えるんです」

「え!?」

 麗奈が声を潜めながら言う。


「めいみゅうはゲームの話にすごく興味があるみたいだし、ほら、目で雄太さんを追ってるように見えないですか?」 

「んー・・・・・」

 わ・・・わからないわ。めいみゅうは、ミコさんと話してるし。


「追ってるんです!」

「あ、はい」

 麗奈に押されて頷く。


「停電で、一晩この異世界カフェ『リトルガーデン』にいるんです。どうにかしてデートの約束さえ取り付けることができれば、いけるかもしれません」

「・・・デート?」

「難しいとは思いますが・・・」

 魔王リカリナはこの状態だし、私が動くしかないんだけど。

 いきなりデート? 

 最大のチャンスなのに、魔法もない、女神の加護も・・・。


「!」

 そういえば、私、今日の朝にデートに誘われた気がするわ。

 あのデートの誘いが今だったらよかったのに。




 カラン カラン


「失礼します。ここに勇者ティナさんがいるかと思い、心配で駆け付けました!」

 勢いよくドアが開く。


「龍様、ハンカチを・・・」

「あぁ、ありがとう」

 洋服が雨に濡れた状態で、綾小路龍が店内に入ってきた。


「綾小路龍様!?」

「どうしてここに!!!」

 周りの女の子たちがきゃーきゃー騒いでいる。

 綾小路龍は、ものすごくかっこいいらしい。


 でも、女神ルナがかけたオークに見える魔法だけは、雄太がいても無効化されないのよね。

 雄太とめいみゅうをくっつけるまでの、縛りみたいなものだから。


 オークだから、佐久間さんや窪塚さんと緊張せずに話せたから、あまり文句は言えないのだけど。


「えっと・・・・」

「勇者ティナさん! 秋葉原の街が洪水になるほどの雨が降っていると聞いて、飛んできたんだ。無事でよかったよ」

「あ・・・ありがとうございます」

 綾小路龍が、真っ先に私を見つけて駆け寄ってきた。

 麗奈がびっくりして固まっている。


「綾小路龍様、あまり長居してしまいますと、スタッフの皆様にご迷惑をおかけしてしまいますので」

「そうだな。責任者と話がしたい。突然入ってきてしまったお詫びもしなければいけないな。そうだ、ちょうど、明後日朝の番組にも出演がある。そこでの宣伝が可能か・・・」


「あの!」

 勢いよく立ち上がって、綾小路龍を見上げる。


「私デートがしたいんです。一度断ってしまいましたが、まだ、可能でしょうか?」

「えっ!?」

 周囲の視線が一気にこちらに集まった。

 雄太だけはこちらを見向きもせず、パソコンで何か打ち込んでいた。


「も、もちろんだよ。でも、本当にいいのかい?」

「はい、えっと、すみません。じょ、条件がありまして、友達も連れて行っていいですか?」

「あぁ、友達がいたほうがリラックスできるだろう。俺は、もっと勇者ティナちゃんの素の姿が知りたいんだ。全然構わないよ」

 オークの黒目がきらきら輝いた。


 麗奈が小声でまさか・・・と話していた。


「そこでパソコンを見ている、ゆう・・・じゃなくて、太郎と・・・彼は私の保護者というか、兄みたいな存在なんです。お願いします。あと・・・」

 めいみゅうのほうへ走って行って、手を握る。


「ティナちゃん?」

「私の仲良しのVtuberめいみゅうを連れて行ってもいいですか?」

「いいよいいよ! 是非、4人で一緒に行こう」

 綾小路龍が、付き人からタブレットを受け取っていた。


「スケジュールはいつがいいかな? その前に、4人で楽しめるような良いデートプランを考えなければ。勇者ティナちゃんはどうゆうのが好きなのか、候補を挙げてみよう」

 タブレットの画面をスクロールしていた。


「めいみゅう、ごめんね。いきなりなんだけど、一緒に来てもらっていい?」

「うん! もちろん!」

 めいみゅうが綾小路龍を見上げてから、少し声を落とす。


「勇者ティナちゃんの恋、絶対叶えるね。私、頑張るから」

「え・・・・恋・・・?」

「ありがとう。会っていきなりの私を頼ってくれて。嬉しいな、私、こうゆうふうに頼られるの初めてなの」

 めいみゅうが小さな声で話しながら、嬉しそうにしていた。


 雄太が入れ込むのも理解できる。

 めいみゅうは裏も表もない、本当に素直で優しい子ってことが伝わってきた。


「自然に、自然にアシスト。私もちゃんと勉強してこなきゃ」

「・・・・・・・・」

 完全に勘違いされているけど、こんなチャンス二度とない。


 雄太の許可はもらってないし、パソコンをいじっていてこっちで何が起こっているのかすら気づいていないみたいだけど・・・。

 このチャンス、絶対にモノにしなきゃ。

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