第19話 災害級の大雨

「勇者ティナは装備品を色々と変更しても面白いですよ。魔法は、聖属性をベースとして・・・例えば、サンプルですが、ステータスはこんな感じです。HPとMPがMAXで魔王戦まで行けるイメージで・・・」

「マジで、すごいっすね」

「Vtuberとしての配信しか考えてなかったけど、ここまで設定されてると、ゲームの世界見てるみたいです」


 遅れて到着した、窪塚さんと花京院さんが雄太に対して敬語になっていた。

 いつの間にか、雄太の周りに人が集まっている。

 パソコン2台に対して、私と魔王リカリナのアバターを映して、説明していた。


「まぁ、元々、こうゆうのやっていたので。でも、俺の手掛けたゲームはリリースすることなく、会社が倒産しちゃったんですけどね」

「なんて会社にいたんだい?」

 佐久間さんが食い入るように聞く。


「株式会社REAですよ」

「え!? あの!?」

 窪塚さんと花京院さんが同時に言った。


「有名なんですか?」

「あぁ・・・ミコさんは・・・そっか、ゲームはあまりやらないもんね。VRゲームの最先端をいっていた会社だよ」

 窪塚さんがスマホを出して、何かを調べていた。


「そうそう。『アース ストーン』ってゲームですよね。全身で体感するオンラインゲーム、プレイヤーは各地の遺跡を巡り、仲間を集め、自由にフィールドを行き来することができる」

 文章を読み上げる。

「各キャラクターには人工知能が搭載されており、明確なストーリーは設定されていない。プレイヤーは、各キャラクターとともに冒険したり、戦闘したり、異世界転移したような感覚で・・・・」


「うわー、そのゲームやりたかったな」

 柊さんが、心底悔しそうにしていた。




「ずず・・・私らの世界の話をしているのか?」

「そうみたいね。プレイヤーなんか来なかったから、そのまま放置されてた結果・・・」

「私らがバグったような力を持つようになったのだな。252年という歳月、片手で人間どもを蹴散らせたんだぞ・・・ずず・・・」

 魔王リカリナが鼻をすすりながら言う。

 余っていたメイド服を着て、変な感じになっていた。


「私だって、ダンジョンほぼ制覇して、魔王城まで行ったからね」

「今思えば、もう、魔王城にいるのも辛かった。毎日寝て起きて、遠隔魔法で敵を倒して、寝るの繰り返しだ。飽きるだろうが」


「プレイヤーが来れば・・・ねぇ」

「・・・ま、どうでもいいわ。ふえっくしょん」

 うつろな目で言う。具合が悪そうだった。

 


「リリースしないで倒産だなんて勿体ない」

「あまりにコストかけすぎちゃったんですよ。広告も打ってなかったし、他のゲームでコケたのもあったので、人件費も削られて・・・」

 雄太が頭を掻いていた。


「リリースしてたら、バグだらけで炎上してたのかもしれないので、このままでよかったと思っています。一応、少額ですが退職金も出ましたから」

 力なく笑う。


「挟間さん、よかったら、うちの会社に来ませんか?」

 窪塚さんが言う。


「これだけの技術があったら、即採用になりますって」

「いやいや、ありがたいんですけど・・・俺、もう働くの嫌なんで。家で、無職やってますよ」



「あ!!」

 めいみゅうが窓を見て、声を上げる。


 ゴロゴロゴロゴロ カッ


 バチ バチバチ バチバチ


「停電!?」

 電気がちかちかした。


「まずいわ。東京を中心に、災害級の大雨。JR線在来線、運航見合わせって」

「えー、帰れないってこと?」

 窓から外を眺める。

 滝のような大雨に、道行く人がずぶ濡れになりながら建物の中に入っていく。


「魔王リカリナ、やりすぎよ」

「加減が効かなかったのだ」

 鼻声で話していた。



「あー、全線見合わせ。これはまずいね。外に出るのも厳しいかもしれない」

 佐久間さんがアイパッドを出して、テレビを映す。



『関東にて、災害級の大雨。外出は控えてください。河川が氾濫する可能性があります、外出は控えてください。直ちに身を守る行動を。命の危険にさらされる可能性があります』

『各地で停電も起こっているようですね』

『本日、番組を変更しております。関東にお住まいの方、今までにないほど、災害級の大雨になっています! くれぐれも・・・』

 アナウンサーが慌ただしく、現在の状況を説明していた。


「こんな、来たときは全然雨なんか降ってなかったのに」

「・・・・」

 想像以上に、大変なことになってるわ。



「魔王リカリナ、今すぐ解除してきて」

「・・・無理なのだぞ。風邪を引いたのだ」

「だって・・・」

「いざとなれば、女神ルナがどうにかするだろ。今、私がどうにか動けば、大雨どころか、この場所ごと消滅させてしまう可能性があるのだ・・・それでも良ければ」

「あっ・・・」

 よろめいた魔王リカリナを支える。

 おでこに手を当てると、すごく熱かった。


 ヒールを使えばすぐに治せるんだけど、ここには雄太がいて魔法は無効化されてしまう。

 どうしよう・・・・。



「今日はみんなここに泊って行ってくれ。寮の子も、今外に出るのは危険だ」

「そうですね・・・」

「ちょっと、この雨じゃ」

「食料はあるし、あとは停電しないことを祈るしかないな」

 佐久間さんが、電気を見ながら言う。


「リカリナちゃん、大丈夫?」

 めいみゅうがふらっと近づいてくる。


「風邪引いたみたいで」

「別に大丈夫だぞ・・・これくらいなんともないのだ」

 ずびっと鼻をすすって、目をトロンとさせていた。重症ね。


「あとで、解熱剤がないか聞いてくるね」

 めいみゅうが笑いかけてきた。


「2人とも雨とか苦手?」

「えっと・・・私が住んでたところはあまり雨が降らなかったから」

「魔王城は雨など、あまり関係ない」


「ふふ、そっか。ここまで降ったのは修学旅行以来かな。私、基本雨女だから、イベントがあれば雨ばっかなんだよね」

「しゅうがくりょこう?」

「うん、中学校の時、河川氾濫して帰れなくなっちゃってニュースにもなったの。あ! そうだ!!」

 めいみゅうが自分の鞄をごそごそしていた。


「こうゆうときこそ、めいにゃにゃんに向けて、ちょっとでもいいから配信したいんだ。私、準備してくるね」

 パソコンを持って、みんなから少し離れた席に走っていった。




 ビービービービー


「また、鳴ってる」

「土砂災害、河川氾濫情報。あ、私の住んでる地域危ないみたい」

 さっきから、スマホの警報が鳴りやまなかった。


 周りはみんな、スマホで家族や友人に連絡を取っていた。

 店内に不安が広がっている。


 雄太がため息をついて、こちらに歩いてくる。



「魔王リカリナがやったんだろ? これ、どうにかならないのか? さすがに、関東でこんな雨、見たことないぞ」


「魔王リカリナが、雄太のいないところで雨雲を吹っ飛ばせばいいんだけど」

「うわー目が回るのだ。勇者ティナ、天井が回ってるぞ」

「回ってないから、ここで寝てて」

 魔王リカリナを無理やり椅子に寝かせた。装備品のマントをかけてやる。


「駄目そうだな。あとで、解熱剤探してくるよ」

「はぁ・・・作戦失敗ね。こんな・・・」

「失敗じゃないぞ」

 魔王リカリナがうっすら目を開けて言う。


「雄太とめいみゅうは今日、一晩、『リトルガーデン』で過ごすのだ。私の計画は・・・計画通りなのだ」

「!!!」

 言いたいことを言い終えると、力尽きるように、眠っていた。

 額の汗をぬぐってあげる。魔王リカリナの体は丈夫だし、一晩寝れば治ると思うけど・・・。


「2人とも・・・なんか勘違いしてると思うけど、俺は!!!」



「皆さん、大丈夫ですか? 関東で災害級の雨が降っているってことで、リスナーさんが心配で、突発配信始めちゃいました。へへ、ちょっと酔っぱらってます。ちょっとじゃないですね。結構酔っぱらってます。途中で間違って切っちゃったらごめんなさい」

「!!」

 めいみゅうの配信の声を聴くと、雄太がはっとして振り返った。


「私の住んでる場所は、もちろん、雨なんか降ってないですよ。落ちてきそうなくらいの星々と、でっかいお月様が見えますよ」

「・・・・・・・・・」

 めいみゅうが一人で、パソコンに向かって明るく話していた。

 自分のいる場所だって災害級の雨が降っていて、帰れないのに。


 何もなかったように、いつも雄太の部屋で見るような配信を始めていた。

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