第16話 魔王リカリナ案、ラブラブ大作戦始動

『めいにゃにゃんとめいみゅうのルーレットゲーム。じゃがじゃがじゃがじゃが・・・・・・』

「じゃがじゃがじゃがじゃが」

『じゃがじゃがじゃが、じゃじゃーん』


「・・・・・・・・・・」

 雄太が、めいみゅうの配信を見ながらペンライトを振っている。

 ゲームのルールは全然わからない。


 私たちとめいみゅうが会ったって聞いてから、テンションが高い。

 だからと言って、何かお願いされるわけでもなく、ただ機嫌がいいだけだった。


「ここで、めいみゅう頑張れのスパチャを・・・」

「待って」

「待て」

「待ってなの」

 魔王リカリナと女神ルナと同時に手首をつかんだ。


「今日はまだスパチャしてないんだからいいだろ?」

「めいみゅうと私たちに接点ができたんだから、私たちを通して話せばいいでしょ? お金もかからないわ」

「そうだぞ。スパチャを投げなくてもいいだろうが」

 ペンライトがころころ転がっていった。


「言っただろう。俺はめいにゃにゃんとして、できる男を演じたいんだ」

 雄太がエンターキーを押そうと、無理やり手を伸ばす。


「駄目なのー!!!!」

 ルナがスライディングで、キーボードに覆いかぶさった。


「このままじゃ、光熱費が払えなくなっちゃうの。カップラーメン生活になっちゃうの」

「そうだぞ。ちゃんと仕事を見つけてから・・・」

「ふっ・・・甘いな」

 テーブルに置いた、スマホにささっと指を動かす。


「っ、勇者ティナ!」

「あ!!!!」

 私が雄太の手を押さえるよりも先に、スパチャが投げられていた。


『おわっ、応援ありがとう。雄太さん、今日も来てくれてたんだ。いつもありがとうね。ルーレットゲーム参加してくれてる? 画面越しだけど、めいみゅうと一緒に、楽しんでね』


「・・・・・・・」

 雄太がめいみゅうの声を噛みしめていた。

 私もメン地下のむうたくん推しになってしまったから、雄太の気持ちもわかる。

 推しに話しかけられると、脳内がぽわーんとするのよね。



 魔王リカリナがツインテールを引っ張って首を振る。

「が、ガンプラが。私のガンプラが」

「リカリナちゃんも、せっかくこっちの世界に来たんだから好きなもの買えばいい。この前、給料日だったんでしょ?」

「大きな肉買ったら思ったより減ったのだ」


「あははは、『アース ストーン』の中では、魔族は肉ばっかり食べる設定だったもんね。肉ってこっちの世界は高いからさ、せめて、ゲームの中の子たちには美味しいものを食べてほしくてそうゆう設定しにしたんだよね」

「・・・・・・・・」

 魔王リカリナが何か言いたげに口をもごもごさせていた。

 ルナがその場に正座して、ため息をつく。


「私は食費も大事なのだ。美味しい物も食べたい、でも、ガンプラも欲しいのだ」

 魔王リカリナがすっと立ち上がる。


「勇者ティナ、女神ルナ、作戦会議なのだ! 2階に行くぞ!」

「?」

「待ってなの」

 魔王リカリナがどんどん足音を立てながら、2階に上っていく。

 柱がみしみし鳴っていた。




 畳の部屋の真ん中に、魔王リカリナが座った。

 ルナが窓を開けて、深呼吸をしていた。


「魔王リカリナ、誰かが見張ってないと、雄太がまたスパチャするかもしれないわ」

「大丈夫なのだ。今日の配信はもう終わりなのだ」

「あ、そっか」

 時計を見ると、もう22時半になろうとしていた。


「めいみゅうは配信時間に正確らしい。リスナーが予定を作りやすいように、自分ルールがあるんだと言っていた」

「めいみゅうと話したの?」

「という話を、起きたときに麗奈から聞いたのだ」

 魔王リカリナが得意げに言う。


「で? 作戦って何? くだらないなら、私明日も通しで入ってるから寝ておきたいんだけど」

 布団を敷いて、シーツを整える。


「『ラブラブ大作戦』なのだ」


 スーッ


「どんな? どんな?」

「あ、ルナ、まだシーツ直してるから寝転がらないで」

「はーいなの」

 ルナがごろんごろん転がっていた。


 女神って、実際はこんな感じだったのね。

 転移前は姿が見えなかったから、背の高い大人の女性を想像していた。 


「本に書いてあったのだ。まず、偶然を装い、2人を何度も接近させる」

「はーい。質問質問」


「なんだ? 勇者ティナ」

「私たちの保護者ですって、めいみゅうに紹介するほうが早くない? そのほうが話がしやすいわ」

「フン、わかっていないな、勇者は」

 魔王リカリナが瞼を重くして、鼻で笑う。腹が立ったけど、その煽りには乗らないわ。


「・・・じゃあ、どうするつもり?」

「偶然ってことが大事なのだ。偶然が重なると、必然になり、自分たちはもしかしたらソウルメイトなのかもってなる」


「ソウルメイト?」

「詳しいことは知らんが、そうゆうのがあるのだ。本にあったのだ」

 魔王リカリナの説明は、何となく適当だった。


「ソウルメイトだって思えば、赤い糸で結ばれているってことになって、恋人同士になるのだ。二人はラブラブになり、スパチャを投げなくても会話できる仲になる」

「おぉー」

 女神ルナが拍手した。


「・・・・本当なの? そんな話、読んだことないけど」

「細かいことはいいのだ。とにかく、2人を接近させる。次、めいみゅうがVtuber講師として来るのは2日後なのだ」

「わかった。そこに雄太を連れていく。雄太がいると魔法は使えないのは厄介だけど」

「私は隠れるの難しいから、2人に任せるしかないの」

「そうね・・・」

 女神の加護なし、雄太がいるときは魔法なし。


 魔王リカリナと2人で、どうにかして、めいみゅうと雄太を接近させる。 


 作戦は微妙だけど、スパチャ無しで会話ができるって環境にもっていかなきゃ。





「あ、おはよう」

「おはよう、ティナちゃん」

 勇者の髪留めをつけながら、悪魔の恰好した麻美に話しかける。

 麻美は学校の勉強が忙しいらしく、毎日夜まで勉強してると聞いていた。


「今日みんな早いね。どうしたの?」

 休憩室には、私と麻美しかいなかった。

 まだ、始業時間まで30分も時間があるのに・・・。


「聞いてないの? そっか、寮生だけ情報が早かったから」

「え?」


「今日、芸能活動もしている財閥会の御曹司、綾小路龍様が、『リトルガーデン』に来てるの。お忍びでね」

「そ、そうなの・・・」


「すごいことなの! だから、少し早めにオープンして、綾小路龍様をお通ししてるの。バレると、ファンが押し寄せちゃうから」

「へぇ・・・」

「私は、緊張するから、あまり行けないかな。さすがに綾小路龍様は遠くで見てた方が楽だよ」

「・・・・・・・・」

 転移してきたばかりの私だったら焦ったかもしれないけど・・・。 

 女神ルナに男性が全員オークに見える魔法を固定されてしまったから、特に何とも思わなかった。



 とりあえず、今日は、雄太とめいみゅうのラブラブ作戦に集中しなきゃ。


 魔王リカリナは今日1日休みをもらっていて、20時くらいに雄太を連れてくると言っていた。

 めいみゅうが、今日20時くらいに『リトルガーデン』に来ることは確認済み。


「みんなが、もう仕事してるなら行かなきゃ。先行くね」

「うん。頑張ってね!」


 ドアを開けて、キッチンのほうへ向かう。

 絵里奈さんがドリンクを作りながら、深呼吸をしていた。



「おはようございます。すみません、今日は始業時間が早いってさっき聞きまして・・・」

「勇者ティナちゃん!」


 ドン


 絵里奈さんがドリンクを3つ、私の前に差し出した。


「B6テーブルのお客さんに、これ、お願い」

「は・・・はい・・・・」

「気を付けてね。実物すごいから、気を失わないでね」

「多分、大丈夫です。私、ゴーレムに吹っ飛ばされた時も気を失わなかったので」

「あ、はははは、そ、そっか。よかった」

「?」

 絵里菜さんが耳まで真っ赤になって、手が震えていた。

 心拍数も乱れてる。


 フロアにいる子たちみんなが、どこか緊張を隠せずにいた。

 彩夏も、OPENの札をいじったりしながら落ち着きがない。


 深く息を吐く。

 全てはむうたくんとの、ツーショットチェキのためよ。


 ドリンクを3つ持って、B5テーブルへ歩いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る