第14話 Vtuber講習会の講師は・・・

 ― 数日後 ― 


 何度やっても、監禁作戦は失敗ばかりだった。

 雄太はスパチャを止めないし。


 でも、何としてでも、めいみゅうと雄太に接点を作らなきゃ。不屈の精神よ。


「お疲れ様、ティナちゃんまたバズってたね」

「え?」

 お客さんのいなくなったテーブルを消毒していると、絵里奈さんたちが話しかけてきた。布巾を畳みなおす。


「すごいじゃん」

「かっこいいって。女性ファンもたくさん来そうだよ」


「そ、そんな・・・勢いでやったことなので」

「もしかしたら、勇者ティナちゃん用のメニュー作った方がいいかもねって。佐久間さんと話してたの」

 麗奈の知人が来たときの動画をスマホで映す。


「あはははは、何度見ても痛快!」

「そうよ。『リトルガーデン』の子たちに突っかかってくる奴なんて、これくらい言ってやらなきゃ。キャラ徹底してるとこが売りだもんね」


「でも、麗奈は大丈夫ですか?」

「昨日、シフト被ってたときは元気だったよ。勇者ティナちゃんのおかげだって」

 少しほっとした。

 麗奈は自分のせいで私に何かあったらどうしようって心配していたから。


 あのゴブリンに似た子たちが、載せた動画は、私を引き立てることになった。


 ま、どんな敵が現れようと、怯む私じゃないけど。


「むむ」


 シュシュッ


「魔王リカリナ、今、ゴミどうしたの?」

「ちゃんと集めてるのだ」

 魔王リカリナが箒を持ったまま駆け寄ってきた。

 ドレイン系の魔法をアレンジして、箒の周りにゴミをくっつけている。


「特別メニューは私のだぞ。勇者のなどいらないのだ」

「わがまま言わないの。勇者ティナちゃんメニューができたら、魔王リカリナちゃんも休憩時間伸びたりするかもよ」

「・・・それなら・・・・いいかもなのだ」

 箒がミシっと音を立てる。

 わかりやすく、心揺らいでいた。


 私も今日は話しかけられることが多くて疲れちゃった。

 掃除が終わったら帰るし、男性がオークに見える魔法を解いておいても・・・・。


「お疲れー」

「あ、お疲れ様です」

「!!」

 佐久間さんと窪塚さんが入ってきた。


 危なかったわ。

 少なくとも、ここにいる間は気を抜いちゃ駄目ね。


「勇者ティナちゃん、動画見たよ。これぞ勇者って感じだね。うちのチームメンバーにティナちゃんのガチファンができちゃったよ」

「えっ、ファン?」

「橘樹ですよね? あいつ今日来たがってたけど、風邪でダウンですから。ついてないですよね」

 全員オークに見えるから、全然ドキドキが無いわ。


「勇者ティナちゃんは駄目ですよー。今日は一緒にメン地下アイドル『スターライト』のライブに一緒に行くんです」

 彩夏が腕を組んでくる。


「そうだったわ」

「もう、忘れてたんでしょ。メイクも取れかかってるから、ちゃんとやり直さなきゃ。そのままでも綺麗だし、全然問題ないけどね」

 彩夏は今日一日、ずっとテンションが高かった。


 推しに会えるって、そんなに嬉しいことなのね。


「ライブって何時から?」

「20時半からです。ここから近いハコなので、掃除が終わって出れば間に合います。あの・・・時間になったら出てもいいですか?」

「もちろん。推し活は大事だからね。2人とも今日は特に大変だったのに頑張ってくれたし、プライベートも充実させてほしいから、後片付けは私たちに任せて」

「ありがとうございます!」

 絵里奈が椅子を持ってきながら、話していた。



「えっと、どうしたんですか?」

「今日は任意のVtuber講習会を開いてみようかなって思って。本当、急だったから、都合つかない子は帰っちゃって大丈夫だから」

 みんな、掃除の手を止めて、佐久間さんのほうを見ていた。


「Vtuberについて説明しようと思ってさ。わからない子も多いでしょ」

 佐久間さんがノートパソコンをテーブルに置く。


「今すぐじゃないんだけど、みんなには『リトルガーデン』のVtuberとしての活動もしてもらいたくて。もちろん給料は出るし、各々の負担にならない程度にね」


「・・・・・・・・・・」

 Vtuberという言葉を聞いて、ごくりと息をのんだ。

 魔王リカリナも同じような反応だった。


「Vtuberって名前は知ってるけど」

「中の人のイメージがつかないんですよね。みんな、演じ切ってますし」

「そうそう。私、普通の人で配信しちゃいそうで怖いわ」

 エルフ族と悪魔の恰好をした子たちが自信なさそうに呟く。


 窪塚さんが、マウスを動かして、画面を切り替えていく。

 魔王リカリナにそっくりな女の子が映った。


「おぉっ」

「上手いだろ? プロだからね」

「私だ。私がいるぞ。んーこんな丸顔なのか、私は・・・」

 食い入るように画面を見つめていた。


「勇者ティナちゃんと一緒のほうがいいかな?」

「フン」

 私のアバターが出てくると、急に不機嫌になった。


「はははは、ごめんごめん。魔王と勇者は敵対関係だもんな」


「今日はVtuberに詳しい・・・というか、配信者の子に来てもらってるんだ。みんなはあまり知らないかもしれないけど、有名でね。ちょうど今、ついたみたいだから、ちょっとごめん」

 佐久間さんが立ち上がって、スマホを耳に当てる。


「もしもし、わかった? そうそう。そこそこ、今、CLOSEになってるけど入ってきて」



 カラン カラン



「わ、本当に異世界を体感してるみたい。すごい・・・」


「!?」

 ドアが開いて、20歳くらいの可愛らしい女の子が入ってくた。

 一瞬でわかった。女神の啓示が降りてきた。


「あ、みなさん、し、失礼しました。はじめまして、西園寺めいみで配信しています。めいみゅうのほうが、浸透しているかもしれませんが」

「めいみゅう、知ってますよ。ファンの名前はめいにゃにゃんですよね?」

「改めて、この場で言われると恥ずかしいですね」

 ちょっと、頬を赤らめて笑っていた。



「!!!!!!!!」

 衝撃が走る。

 間違いないわ。


 雄太がスパチャやグッズを買って推しまくってるめいみゅうが今、私たちの目の前にいる。


 雄太の見ていた配信のアバターとそっくりだった。

 画面から出てきたって言われても、信じるくらい。



 スッ・・・


 魔王リカリナが、音を立てずに私の横に来る。


「どうする? 勇者、捕えるか?」

「ここでは駄目よ。みんなが見てる」

「だな。ここは、慎重に行くぞ」


 魔王リカリナがそっと箒を置く。私も布巾を畳んで、テーブルの端に置いた。

 人差し指に魔力を溜めながら、めいみゅうを見つめる。


「実は、私、株式会社ラボリラ専属のVtuberで、ここの開発メンバーにはメンテとか、いろいろお世話になってるんです」

 スパチャで雄太の名前を呼んでいた、あの声だった。


「彼女がアバターの動かし方とか、いろいろ教えてくれるから」

「はい! 『リトルガーデン』の皆様のためなら喜んで。特に!!!」


 ササッ


「勇者ティナちゃんファンなんです。よろしくお願いします!」

「・・・・えぇ・・・ありがとう」

 目の前に、雄太の推しがいるわ。

 これって、最大のチャンスじゃないかしら。


 雄太の度重なるスパチャ癖が治るかもしれない。

 だって・・・。



 ぐいっ


「もう19時半! ごめんなさい。今日、勇者ティナちゃん先約あるので失礼します」

「あっ!」

 彩夏が深々と頭を下げながら、私を引っ張っていた。


「楽しんできてね」

「お疲れ」

 絵里奈さんたちが手を振る。


「ありがとうございます! お先失礼します」

「し・・・・失礼します」


 あぁ・・・みんなが離れていく。

 あれほど、探して探して探して捕まえようと思っためいみゅうがー。



「ふむ、なのだ」

 魔王リカリナがこちらを見て、任せろと頷いていた。

 全く信頼できないけど、どうしようもないわ。


「あーあと数分で推しに会えるなんて、どうしよう。ファンサたくさんもらっちゃったら。私、同担拒否ではないんだけど、ティナちゃん可愛いから、できれば別のメンバー好きになってほしいな。でもでも、どうしてもっていうなら、2人で好きになるってもの全然ありで・・・」

 興奮気味に話す彩夏に引きずられながら、部屋を出て行った。 

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