第11話 最推しVtuberめいみゅうへの思い

「ふぅ、ごちそうさまでした」

「ごちそうさま。こんな美味しいごはん食べたのは久しぶりだよ」

「はぁ・・・」

 雄太はあまり料理をしないらしい。

 普段はお湯を注ぐだけで食べれるカップラーメンだと言っていた。


「勇者ティナ、お前魔法なしで料理、作れるのだな」

「もちろんよ。料理は手間ひまかけて作ると美味しいって聞いてるもの」

「ふん、人間の考えだな」


「あー、魔族はあまり料理にうるさい設定は無かったか。ま、プレイヤーが来たら、プレイヤーが料理を教えるみたいな、流れも想定してたんだけどね」

「リリースできたらの話でしょ」

「はははは、会社倒産しちゃったらどうしようもないよなー」

 軽い感じで笑う。


 ミネストローネと、余った食材で作ったマリネ、安く売ってた肉、ご飯。

 作りすぎちゃったかなって思ったけど、雄太と魔王リカリナでほとんど食べてしまった。


「Vtuberめいみゅうの配信が始まるんだけど、見る?」

「うーん、私お皿洗いあるし」

「私はお腹いっぱいで眠いのだ」


「コンカフェの『リトルガーデン』は自分のVtuberアバターを使うらしいから、参考になると思うよ」

「・・・・・・・・・・」

 ピクっと反応した。


「『リトルガーデン』のツイッター動画で、バズったし2人とも人気者だけど、Vtuberアバターでもっと知名度上がれば、2人の好みの男の人が来る可能性もあるよ」

「!!!!」

 さすが私たちの作者だけあって、心の隙をしっかり突いてくる。


「み、見ておこうかしら」

「私も少しだけ見ておくぞ。少しだけな」

「そうか。じゃあ、準備してくるよ。あとで部屋に来て」

「うん」

「ふわぁーい」

 魔王リカリナがあくびをしながら、手を挙げた。



『みんな、めいみゅうの配信に来てくれて、ありがとう』

 めいみゅうの声はおっとりしていて、眠くなるような声だった。


 『リトルガーデン』のタブレットよりも大きな画面に、めいみゅうが映されていた。声は、両脇のスピーカーから聞こえてくる。

 右に流れている文章が、コメント欄らしい。


「ほぉ、これが全部魔法じゃないのはすごいな」

「ここに表示されているのが、ファンの言葉なのね」

「はぁ・・・・」

 雄太がめいみゅうを見て、俯いて噛みしめていた。


「めちゃくちゃ可愛いなー今日も、推しが可愛い」

『わわ、いきなりスパチャもこんなにありがとう。あとで読んでくね。今日はめいみゅうのお悩み相談木曜日ーだから、お悩みも募集してるよ』


 めいみゅうが画面の中から手を振って、ふわっと笑っていた。

 癒し系って感じね。


「ん? スパチャってなんだ?」

「投げ銭だよ。お金を投げたら、彼女がスパチャを読んでくれるんだ」


 カタカタカタタ カタカタカタカタカタ


 雄太が目の前の板のようなもの(キーボード?)を指で叩いていく。

 金額が表示されていた。


「ちょっと!」

「待て」

 魔王リカリナと同時に、雄太の手を止めた。


「今、スパチャっていうのをやろうとしたんじゃないの?」

「ん? もちろんそうだよ。めいみゅうにコメント読んでもらいたいし、『リトルガーデン』に行ったこととか報告しないと」

「でも、無職でしょ?」

「そうだ。お前、働いてないのだぞ。食費はどうなる?」

「どうにかなるさ。推しへのスパチャは、必要経費だから!」


 タンッ


「あっ」

 静止を振り切って、ボタンをクリックした。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「仕方ないんだって。推しに応援してもらえるだけで、明日から頑張ろうって思えるんだから」

「でも、仕事してないのだぞ」

「ゲーム会社にいた頃、血反吐吐くほど残業したからね。貯金はあるよ」


『あー雄太さん、今日も来てくれてたんですね』

 めいみゅうが目をぱちぱちさせながら、嬉しそうにする。


「えっ、こんなにファンがいるのに、雄太の名前を覚えてるのか」

「魔王リカリナ、しーっ」

 魔王リカリナを黙らせる。


 雄太が穴が開きそうなほど、画面を見つめていた。


『えーっと、あ! 秋葉原のコンカフェ『リトルガーデン』に行ったんですね。うわぁーいいなー。私は、そっちの世界には行けないから無理なのですけど、めいにゃにゃんが行ったってことは、私が行ったことと同じですね』


「動かしてる奴は、世界にいるんだろう? 中の人が直接行けばいいだろうが」

「しーってば」

 魔王リカリナの口をふさぐ。


『ありがとうございます。あ、ぬこぬんさんもスパチャありがとうございます。ゲームのレベル上げですか? 私もなかなかできないんですよね。でも、レベル上げ自体は・・・』


 めいみゅうが別の人のスパチャを読み上げていた。

 投げ銭ってこうゆう感じなのね。

 『リトルガーデン』のVtuber企画が本格的に始動したら、私、ちゃんとできるかな。


「めいみゅうに認知されてる。幸せだ。今日もいい夢見れる」

 雄太が両手を広げて、その場に寝転んだ。


「どうして、お前の名前を知ってるんだ?」

「そんなに金額貢いだの?」

「失礼な。めいみゅうは、金額だけじゃない。俺、めいみゅうのデビュー当時からのファン、めいにゃにゃんだから、覚えてくれてるんだよ」


「めいにゃにゃん?」

「めいみゅうのファンの名前だよ」


『そうなんです。私、ゲームが大好きで、あ、サブチャンネルでゲームも配信してるのでよろしくお願いします。ポーズですか? こんな感じはどうでしょう? こう?』

 めいみゅうがいろんなポーズをしていた。



「そんなにこいつが好きなら、連れてきてやろうか?」

「え?」

「魔王の力を使えば、なんてことない。人さらいの魔法は、よく魔王城で使っていたからな」

 魔王リカリナが立ち上がって、体を伸ばす。


「これ以上、金を使われたら飯が不安だ」

「え・・・・・」

「雄太、お前がいるとできないから、少し出てくるぞ」

「待って待って!!!」

 雄太が魔王リカリナの手首を引っ張った。


「違うんだ。俺はめいみゅうと直接的な関わりを持ちたいとかじゃないんだ!」

「中の人が好きってわけじゃないってことか?」

「そうじゃないって」

「じゃあなんだ?」


「・・・・・あの、スパチャ投げてる俺は演じてるんだ」

 画面のコメント欄を見つめながら言う。


「ちゃんと仕事もしていて、ゲームに詳しくて、推しを思いやれる男を演じてるんだよ。だから、会いたいとかじゃない」

「ふうん」

 魔王リカリナが、その場に座った。


「そ、それに、犯罪だ。人をさらってくるなんて」

「そんなの魔法ひとつで、なんとでも上手くできるのだ。お前さえいない場所に行けば、私は自在に魔法が使えるのだからな」


「魔王リカリナ、そうやって、人間のいる場所から人が消えたりしてたのね?」

「まぁな。人間の文化には興味があったのだ。ま、さらった者たちは記憶をちらっと捜査して、魔族として働かせていたぞ」

「なんてことを・・・」

「魔族に染まれば、人間のころの記憶など忘れている」

 魔王リカリナが軽い口調で言う。


 一緒に転移してきたとはいえ、やっぱり魔王リカリナは敵なのね。


「・・・・」

 簡単に許してはいけない。

 私は、女神の加護を受けた勇者なんだから・・・。



「あ、そういえばさ」

「?」

「ティナちゃんって、女神の加護を受けた勇者だよね? 女神って会ったことある?」

「な・・・ないわ。女神は私に加護を与えてくださるだけだもの」

「そうだったんだー、じゃあ・・・」

 突然、雄太が立ち上がって、カーテンに手をかける。


 シャーッ



「あ」

 銀髪の髪の長い少女が、窓枠にこじんまりと座っていた。

 この雰囲気・・・まさか・・・・。


「勇者に加護を与えた、女神ルナちゃん」

「ルナなの。雄太がいるから、魔法解けちゃったの」


「え!?」

 思わず大きな声が出て、口に手を当てる。


「なんか、いつ出ていいのかわからなくて、待ってたの」

 ほんわかしながら、絨毯に足をつけた。

 魔王リカリナの横に、ぺたんと座る。


「女神か」

「初めまして、魔王リカリナ」

「3人で話してて。俺、めいみゅうとのルーレットゲームに参加するから」

 雄太が慌てて、めいみゅうのモニターの前に座っていた。


「話しててって・・・そんな、いきなり」

「勇者ティナ、よろしくなの。最近、加護の力上手く発揮できなくてごめんなの」

「え・・・はい・・・」

 魔王リカリナが、肘をついて寝転んでいる。


 ルナが青い瞳をきらきらさせながら、こちらを見つめてきた。

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