第3話 失恋と新たな出会い

 アステリア王国には本がたくさんあった。

 小説家が多く、知識深い王国だった。

 異世界を舞台とした数えきれないくらいの本を読んできた。


 男というものが存在して、モンスター倒しまくって無双するもの。

 少女が王子たちから一斉に求婚されるもの。

 学校で、クラスメイトに女の子が人気の男の子に恋するもの。


 私たちが考えられないような世界を、小説家は思いつく。

 アステリア王国の小説家たちの話を聞いていると、異世界は自分に合っているような気がした。

 私も剣を置いて、戦闘のない、平和な世界に行きたいなって、ずっと思っていた。



 でも、今、ものすごく元の世界に戻りたくなってる。

 味わったことのない緊張で、呼吸が止まりそう。


「えっと、2人で面接。ここまで仕上げてくるのは、すごいね。魔王勇者とのコンビ。秋葉原の異世界コンセプトカフェにぴったりだよね」

「ぁ、ありがとう・・・ございます」

「・・・・・・」

「そっちの子は、親御さんはいいって?」

「・・・・・・・」

「えっと・・・緊張してるみたいで。大丈夫です、魔王リ、えっと、リカリナとは古くからの仲なので・・・年齢も、私よりも年上で・・・」

「はははは、そっか。大丈夫。うちは大手企業も入ってるし、新しいコンカフェを目指してるんだ。CMとかも、大々的に打ってるからね」

 佐久間さんは笑うと、顎の肉がタプタプして、素敵だった。


「・・・・・」

「ほら、リカリナ・・・」

「・・・・・あ・・・・ぅ・・・」

 魔王リカリナが俯いたままぼそぼそとしか話さないから、個別面接にならなくて、セットで私も呼ばれてしまった。


 私だって男の人とどう話していいかわからないのに。

 そもそも、魔王と勇者がセットって何のことなの?


 私たち、ついさっきまで死闘を繰り広げてたんだけど。


 でも、かっこいいからいいんだけど。これが、恋ね。


「とにかく、君たちは合格だ。ぜひ・・・」

「!!」


 ぽしゅうううううううううう


 魔王リカリナが魔法力を暴発させそうになったのを、手を握って抑え込む。


「ん? 今、煙のような何かが見えたような」

「仕込みですよ。この2人は、異世界を崩さないんです。さっき、控室でもちょっとしたバトルみたいなパフォーマンスをしようとしていたみたいで」

 ドアに立っていたメイドがニコニコしながら言う。

「素晴らしい。是非、うちで・・・」

「え? ほ、本当ですか!? 本当に・・・」


 私たちが佐久間さんの妃に!?


「じゃあ、この2人を合格者として案内してくれるかな。うちは、説明にも合った通り、寮も完備しているからね。好きに使うといい」

「寮? 寮・・・って、集団で済む場所よね。ねぇ、魔王リカリナ」

「はわぁ・・・・・・」

 魔王リカリナが口を開けたまま、ほんわかしていた。


 魔王城に閉じこもっていた魔王リカリナには、衝撃的するみたいね。

 という、私も、これからどうしたらいいのかわからないんだけど。

 妃が住む場所、と考えればいいのかしら?



 ズズ・・・


 魔王リカリナを引きずる。

 嬉しさのあまり、惚けていた。


「やっと、私にもピンク色のときめきライフが」

「恋ってこうゆうことなのね」

「あぁ、楽しいな」

 初めて、魔王リカリナと意見が一致した気がする。


「本当に面白い子たちね。自分たちで異世界の設定まで練ってくる子なんて初めて見た。私、ミコっていうの。寮のことでわからないことがあったら教えてね。荷物とか取りに行くかな? 部屋は空いてるからすぐ入れるけど」

「えっと・・・」

「佐久間さん、ちょっと適当だけど、ちゃんと人を見抜く力があるから大丈夫」

 通された場所は、小さなソファーがあって、真っ暗なガラスが一枚あった。


「今、他の合格者と一緒に手続、待遇、今後の予定を説明するから、ここで待ってて。タブレットで雑誌を見ていてもいいし、アバター作成してもいいし、あ、スマホの充電器もそこにあるから・・・」


「!!」

 たった今、女神の啓示で、とんでもない情報が頭に入ってきた。 


「・・・・・・」

 首を振る。

 嘘よ。


 だって、今、確かに私は佐久間さんの妃として認められた。

 でも、ここでルート選択を間違えたら、大変なことになるわ。

 ちゃんと確認しないと。


「ふわぁ・・・・」

 魔王リカリナは使い物にならないし。

 向こうの世界では史上最強最悪の魔王だったのに、ここではぐうたらな猫みたい。


「あの・・・・」

「どうしたの?」

「もしかして、佐久間さんとミコさんは結婚されてますか?」


 ゴゴ・・・


「!?」

「え?」

 ミコがぽっと赤くなった。


「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 魔王リカリナの力が暴走しそうになった。


「っ・・・」

 素早く、詠唱なしに、魔王リカリナの周りにシールドを張り、シールドに対するステルス魔法を同時に付与する。

 私の力は魔王リカリナを倒すために与えられたもの。


 この程度の抑え込みは、問題ないわ。


「よ、よくわかったね? 去年の冬に結婚したばかりで、SNSにも上げてなかったし、どうして・・・?」

「女神の加護でわかったの」

「女神の加護・・・? もしかして占いとか? そんなことまでできるなんて、本当、すごい。私が2人のファンになっちゃいそう」

「はは・・・ありがとうございます」

「この部屋で待ってて。実は応募数に対して、合格者はものすごく少ないの。他の合格者の子は、席外してるみたいだけど、すぐに戻ってくると思うから」

 ミコがものすごい生命の危機が訪れてるとは知らずに、楽しそうに話す。


 魔王リカリナの力は、異世界に来ても全く衰えない。

 気を抜いたら、この建物ごと吹っ飛ばしそうな力だった。


「あ、呼び出しが来ちゃった。ごめんね。また話そうね。じゃあ・・・・」

 ミコが長い髪をなびかせて、部屋から出て行った。



「うぅ・・・ひどいのだぞ。騙されたのだ」

 部屋で2人きりになった途端に、魔王リカリナが喚きだした。

「私たちが勘違いしただけよ」

「私の、私の、ゆるゆる異世界ライフを送る夢が・・・」

「魔王リカリナ、失恋したから暴れるなんて、魔王らしくないわ」

「自分だって、佐久間さん素敵とか思ってたくせに」

「っ・・・・」

 思ってたけど。ものすごく思ってたけど・・・。


「壊してやるのだ。全部全部、壊して・・・・」

「待って、魔王リカリナ。私たち、本、たくさん読んできたでしょ?」

「読んできたから、こうやって望んだ異世界ライフじゃないことが分かったんじゃないか。あの部屋に佐久間さん以外の男はいなかったのだ。そうゆう世界に来てしまったのだ!」

 涙声で言う。


「本の世界はもっといろんな世界があった。まだ、魔王リカリナと私が望む世界じゃないとは限らないんじゃない? これから、あっと驚くような出会いがあったり・・・」

「そんなわけないのだ。もう、信じないのだ。終わりだ。もう、何もかも腹立つのだ。ぶっ壊してやる!」

 まずいわ。力が強すぎて・・・。


 パリンッ


「!!」

 魔王リカリナの魔力に押されて、シールドが弾けた。


「魔王リカリナっ」

「この世界に、魔王の力を思い知ら・・・・」


 バタンッ


「失礼します。僕、アバター開発者の窪塚っていいます。Vtuberアバターのつくり方ってもう聞きましたか?」

 細くて青白い、眼鏡をかけた男の人が入ってくる。


 すうぅ


 魔王リカリナが溜めていた魔力をふわっとさせた。


「あれ? どうかしましたか?」

「・・・・・」

 俯いて、首を振る。

 何もなかったように、袖を伸ばして座りなおした。


「いえ・・・・」

「そっか。じゃあ、もうちょっと合格者集まってからのほうがいいのかな? 本当、このコンカフェの面接って狭き門で、なかなか合格者出ないんですよね。だから、通ったってマジですごいです。本当、2人ともゲームの中から出てきたみたいですね」

「・・・・・・・・・」


「実店舗が中心ですけど、ゆくゆくは皆さんにアバターを使って全世界配信をしていただきたいんです。ここで作るアバターは、どこでもお店の雰囲気を体感できるよう・・・」

 さっきまでの緊迫感はなくなって、また、魔王リカリナがもじもじしていた。


 窪塚さんも本当に本当にかっこよく見える。

 佐久間さんにも劣らないくらいかっこいい・・・ごつごつした手、伸びきったもみあげ、太い眉、全てが魅力的だった。

 魔王リカリナも私と同じこと思ってるのね。

 顔が赤くなって、急にしおらしくなった。


 というか、私たち、女ばかりの中にいたから、男に耐性が無い。

 男がいる、って感覚が、なんか、もう・・・。


 たぶん、全員、かっこよく見えてしまうんだと思う。

 気を付けなきゃ。


「とか、一気に話してもわかりませんよね。とりあえず、皆さんを待っている間に、アバターがどうゆうものかだけ説明しちゃいましょうか」

「は、はい。お願いします」

「えっと・・・」

 ぼりぼりと頭を掻きながら言う。

 べたっとした髪と、白いフケもチャームポイントでかわいらしく見えた。

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