第2話 王子が妃を選ぶ?
「まずは、今日は異世界コンセプトカフェ、『リトルガーデン』の面接に来てくれてありがとう。皆さんの前にある、お菓子、飲み物は全て、異世界をイメージして作られたもの。SNSに載せたりしてもらえると嬉しいな」
「!!」
佐久間さんが壁に絵を投影していた。
カフェの様子と、転移前の世界と似たような衣装を着た女の子たちが映っている。
「投影の魔法を詠唱なしに・・・」
「そうね。絵を壁に映す魔法は、攻撃魔法や防御魔法と違って、繊細な魔力が無きゃできない。かなりの実力があるのね」
「うむ。これが、この世界の男というものか」
「えぇ。魔王リカリナ、ちょっと静かにして、彼の声が聞こえないじゃない」
魔王リカリナと声を潜めて話す。
「この異世界コンセプトカフェ『リトルガーデン』について話すよ。このカフェは秋葉原から徒歩10分という好立地であり、現在3店舗を想定している。広々とした店内のほか、株式会社ラボリラと共同で・・・・」
「・・・かっこいいのだ」
魔王リカリナが食い入るように佐久間さんを見つめている。
男の人って声が低いのね。
説明はぶいちゅーばー? だとか、ぶいあーる? だとかよくわからない単語が出てきて、あまり理解できなかった。けど、ワクワクするのよね。
「かっこいいのだぞ。あの高度な魔法を使いながら、淡々と説明して、余裕の笑みまで浮かべるなんて」
「もう、うるさいってば」
前のめりになった魔王リカリナを座らせる。
「仕方ないのだ。男の人の声というものを聴くのは初めてじゃないか」
「そうだけど・・・魔王リカリナの声で彼の声が聞こえないの」
「ねぇ、2人とも、話の内容、聞いてる? 待遇とか重要じゃない?」
彩夏が声をかけてくる。
「なんだ? 今、男を見ることを堪能してるのだぞ」
「そうなの、私たち忙しいの。男という知識を得てるの」
「あ、そう・・・」
本当に、存在していたなんて。まだ、信じられないわ。
「えーっと、その男のいない世界の魔王と勇者って設定だけど・・・本当に女だけ? 例えば魔族は男がいるんじゃないの? モンスターは?」
「モンスターは両生類なのだ」
「あ・・・そう・・・・」
魔王リカリナがジト目で言うと、彩夏が引いていった。
キン
お告げが、頭の中に浮かぶ。
「なるほど。今、女神の加護でわかったことがあるの」
「ほぉ」
「彼がこのカフェの支配者で、王様みたいなもの。つまり王子ということらしいわ」
「王子!?」
「王子!? ごほっごほっ」
彩夏が紅茶を噴き出していた。
周りの子3人くらいがこちらを見ると、彩夏が愛想笑いしながら手を振っていた。
「ここから、イケメンにちやほやされるルートもありえるってことか」
「そうよ」
「・・・女神の加護って何?」
「あぁ、そう。私、女神の加護を受けた勇者なの。戦闘のときは、ほんの少し先を読み、白き力を与えられる。今は、単純に啓示を受けた」
「啓示って・・・確かに、佐久間さんはコンカフェの支配人だし、でも、うーん・・・王子って設定は無理があるような」
彩夏がテーブルを拭きながら、唸っていた。
「では、これから個別面接に移ります。皆様、あまり緊張しないように、リラックスして受けてくださいね」
メイド服の女性がにこやかに言う。
いつの間にか佐久間さんがいなくなっていた。
「こちらへどうぞ」
一番手前の席に座っていた子たちから別室に通しているようだった。
剣士の子が、武器も持たずに出て行った。
戦闘能力を確かめる面接ではないってことかしら。
私たちの世界のカフェの面接は、お客様の身を守るために、最低限の戦闘能力は必要だったけど。
はっ、これはもしかして・・・。
「勇者ティナ・・・・」
魔王リカリナが自分のツインテールを伸ばしながら、顔をこわばらせている。
「め、め、面接って、もしかして」
「ただの、カフェの面接じゃないみたいね。さっきの投影魔法を見せたのは、自分の力を誇示してたのね」
ごくりと息をのむ。
「これから、結婚相手を決める・・・ここは王子の妃候補が集められたんだわ。女神の加護・・・」
「そんなわけないじゃない!」
彩夏がすごい勢いでつっこんできた。
「演技・・・なのはわかるけど・・・マジか。じゃあ、私もそのストーリーにのるわ」
「さっきから、お前、何を言ってるのだ?」
魔王リカリナが一つチョコレートを口の中に放り込んでいた。
「王子・・・は置いておいて、2人とも、ちょっとだけメイクしよ。元がめちゃくちゃ可愛いけど、やっぱりこうゆう場所はメイクするのが礼儀だから」
「そうなの?」
「メイク? なんの呪術だ?」
「可愛くなるだけ。さっき、インスタでフォロワーが1万人いるって言ったけど、私、メイク動画がバズったの。少しだけいいかな?」
後ろに置いてあった派手な袋の中から、花模様の小さな袋を出した。
中に化粧道具がたくさんある。
「化粧はしたことある?」
「そうね。普段はしなかったけど、女神は美に煩かったから、祭儀のときはしていたわ」
「私は、んなもの見たことないぞ」
魔王リカリナがアイシャドウの粉を見て、目をぱちぱちさせていた。
― 15分後 ―
「わぁ、二人ともマジで目立つわ。ガチで異世界から来たみたい。ほら・・・」
「あ、ありがとう・・・」
鏡で自分の顔を映される。正直、あまり違いはわからなかった。瞼がほんのり青くなったくらいかな。
周囲の視線を感じる。
この世界では、こうゆうメイクをするとウケがいいのね。
「お前、私らはライバルなのだぞ。王子が妃を私にしても文句はないのか?」
「まぁ、面接に受かるのって1人じゃないし」
「1人じゃない!?」
魔王リカリナの唇が艶々している。
「魔王リカリナ、王子の妃が1人とは限らない。ここにいる全員が、妃になる可能性だってあるのよ。そうゆう異世界ハーレム系の本を読んだことがあるわ」
「うぅっ・・・なるほど」
そう。女神の加護を受けた勇者だけど、こうゆう面接は初めてなのよね。
妃を決める。
私が、佐久間さんの奥さんに・・・。
落ち着くのよ。確かに佐久間さんはかっこいいわ。世界で一番かっこいいのかもしれない。でも、本ではときめきとか、きゅんするとか、妃になる前にイベントがあったと思うの。恋することなく、いきなり結婚? 結婚って何?
頬を押さえた。
「だ・・・大丈夫? なんかふらふらしてるけど」
「だ、大丈夫よ。ちょっと、緊張しているだけだから」
「はは、その容姿で面接落ちるわけないって。あ、はーい。じゃあ、頑張ってね」
彩夏が呼ばれて、メイドと一緒に別室に行ってしまった。
「・・・・・吐きそうだぞ。こんな緊張感は味わったことがない。もし、妃に選ばれなかったら、この世界でのルートを大きく外してしまうのか? 王子に愛されるルートは・・」
魔王リカリナが青白い顔で、口を押えていた。
「私も、最終決戦の時よりも緊張してるわ」
「勇者ティナ、ここで一度戦闘をして、緊張を和らげないか?」
指をいじいじしながら、小さな魔法陣を描いていた。
闇の力がくすぶっているのがわかる。
私だって、戦闘して冷静になりたい。王子が面接で要求することって何なのかしら。
こめかみを押さえて、目を閉じる。
本はたくさん読んでいたじゃない。
思い出すのよ・・・。女神の加護を受けるとき、勇者はどんなときも柔軟に対応できる知識も必要だって言われたんだから。
「どうした? 詠唱の準備か?」
「魔王リカリナ、異世界で、暴力ヒロインは嫌われるらしいわよ。最近の街のトレンド小説は、ヒロインは従順系だったもの」
「そんな・・・!!」
「ここで、戦闘したら終わりよ」
今までで一番、ダメージを受けたような表情をしていた。
「わ・・・・・私は、今からとても従順な魔王なのだぞ」
「私だって従順な勇者なんだから」
魔王リカリナがすぐに魔法を消す。
「私もこうゆうの初めてだから。でも、私、勇者だもの。きっと大丈夫」
手櫛で髪をとかしながら、メイドに呼ばれるのを待っていた。
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