EITOエンジェル総子の憂鬱(仮)3

クライングフリーマン

EITOエンジェル総子の憂鬱(仮)3

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。

 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。夏目警視正と、警察学校同期。

 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。

 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。

 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。通信担当。

 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。

 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。資材担当。

 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー普段は、動物園勤務。

 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。

 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。

 指原ヘレン ・・・ EITO大阪支部メンバー。

 芦屋一美(ひとみ)警部・・・三つ子の芦屋三姉妹長女。大阪府警からの出向。阿倍野区夕陽丘署出身。花菱元刑事と同期。

 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。

 南部寅次郎・・・南部興信所所長。

 幸田所員・・・南部興信所所員。総子のことを「お嬢」と呼ぶ。

 花菱綾人・・・元大阪阿倍野署の刑事。南部興信所所員。

 横山鞭撻警部補・・・大阪府警の刑事。

 愛川いずみ・・・新。通信担当。


 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =


 「ノリちゃん。ウチのことほっといて死ぬんか?あんたがウチに大阪弁おしえたんやないか。お陰で大阪弁抜けへんようになったやないか。責任取ってや。責任取らんと死ぬ気か?あんたに出きるんか?責任感強いあんたに。なあ。またお好み焼き食おうや。」

 24時間前。午前9時。南部のアパート。

 「総子。おい。どないしたんや。総子。」南部は、総子の額に手を当てた。高熱だ。

 午前10時。名波病院。

 診察室から出てくる総子。「風邪やて。腹巻きして寝ろ、って言われたわ。」

 「良かったな、総子。」と、南部は総子の頭を撫でた。

 総子は注射をうたれ、点滴処置が始まった。

 待合室ロビーで、南部は幸田所員に電話した。「タダの風邪ですか?お腹出して寝てたんかな?」「ああ。先生にもそう言われたらしい。腹巻きせえ、って。」「お大事に。所長も休んで下さい。お嬢の看病をせんといかんやろうし。大前さんには、僕から電話しときますわ。仕事は僕と花ヤンでなんとかしますから。」「ああ。頼むで。」

 正午。EITO大阪支部。

 「コマンダー。総子ちゃん、いや、コンダクターの呼び名のことですけど。」と真知子が弁当を食べながら言った。「何や。かっこええやろ?」「みんな呼びにくいって言うてますけど。」「ほな、何て呼んだらええ?」「チーフっていうのはどうかって意見が多いんですけど。」「チーフか。ええんちゃう?」「ええっ!ええんですか?」「ええんですかって、皆で多数決出したようなもんやろ?俺は民主主義やで、真知子。」

 「コマンダーって、ええ人なんですね。」「今頃かい!遅いぞ、気イ付くのが。俺はなあ、民主主義やけど、えこひいきはするぞ。総子は一番可愛い。そやから、総子が喜ぶんやったら、コンダクターでなくてもええ。」

 「ふうん。えこひいきはするのかあ。」「不服か?」「そんなことはないですよ。」

 「今日、1時からな。大阪府警から通信担当の事務員が来る。真知子もバイト辞めてるし、EITOエンジェルに集中しい。」

 「ありがとうございます。」と、真知子は弁当を放り出して、大前の首に飛びついた。

 「こらこら、弁当が散らかるやないか。」と、大前は苦笑した。

 そこへ、横山がやって来た。「あ。えらいもん、見てもうた。」

 「総子に言わんといて、横ヤン。あいつは嫉妬深いからな。」笑う大前にピコピコハンマーが打ち下ろされた。

 「あほ!ウチはあんたの何やねん。愛人か?ウチは亭主持ちや。貞淑な妻や。」総子は怒鳴った。

 「風邪引いて休むって聞いたぞ。」「注射打って、薬飲んだらもう回復や。スーパーヒロインは休む暇ないねん。」「スーパーのヒロイン、でしたか。」総子は、また ピコピコハンマーで叩いた。

 「アットホームな仕事場やなあ。」と、横山は笑った。

 「あのー、ちょっと早かったですかあ?」と、一人の女性が入って来た。

 「ああ。今、言うてたとこですわ。皆、大阪府警からの出向で、今日から働いて貰う、愛川いずみさんや。真知子。お前の後釜や。2,3日は隣で引き継ぎやな。」

 大前の紹介に、真知子が挨拶した。「宇野真知子です。よろしゅうに。」

 総子は大前を、再びピコピコハンマーで叩いた。「こら、私を先に紹介せんかい!」

 「南部総子です。EITO大阪支部の行動隊長をやらせて貰ってます。あ。コンダクターです。」

 「総子。チーフでええ。みんなチーフがええって言ってるって、愛人の真知子から報告受けたさかい。」と、大前が横から言った。

 「チーフの総子です。この調子のええ男は、これでも警察の管理官で、大阪支部のコマンダーです。」

 いずみは、ゲラゲラ笑い出した。「横山さんの言う通り、アットホームな職場ですね。」

 電話をとっていた、真知子が表情を変えて、大前に報告をした。

 「コマンダー。環状線で事件です。紀州路快速ですわ。高齢者の男性が、ダイナマイト持ってるとか。今、一美さんと二美さんが向かっているそうです。」

 「今、どの辺や。」「弁天町と西九条の間です。」

 「よし、総子・・・。」「皆まで言うな。コマンダーの電動アシスト自転車で西九条駅まで行くわ。」

 2人の会話に割り込んで、さっと決断した総子は、EITOエンジェルの姿に着替えてきた。

 EITO大阪支部は、西九条駅から2キロの、元工場街にある。電動アシスト自転車なら駅まで5分もあれば行ける。

 総子は、大前からキーを受け取ると、飛び出した。

 横山は、「ほな、わしは府警に帰りますわ。愛川さん、頑張ってな。」と、横山刑事は慌てて帰って行った。横山は、いずみを連れて来ただけだった。正式な指令がないと、EITOの協力体制に入れない。

 午後1時。大阪環状線西九条駅。

 総子は、息せき切って、駅に入った。

 待ち構えていた駅員が言った。

 「EITOのEITOエンジェル隊長さんですね。かっこいいなあ。あ。失礼。先ほど、同じEITOエンジェルさんが、運転席側から車両に入るので、と伝言されました。」

 「了解しました。警察からも協力要請があると思います。連携して解決しましょう。」

 駅員は、鉄道マンらしい敬礼をして、総子を見送った。

 総子が列車に辿り着くと、芦屋二美が待機していた。

 「乗客は、両側の車両に待避したわ。運転手さんに、臨時の通信機を渡したわ。この片割れよ、チーフ。」と、二美は総子に通信機を渡した。

2人は、あっと言う間に、件の車両に辿り着くと、車掌が懸命に、爆弾高齢者を説得している。

 「そやから、言うてるやないか。たまたまこんなん入っていただけなんや、って。」

 何か事情があると見た総子は、「連絡したって。危害を加える人じゃ無いって。」と、二美に通信機を渡した。

 総子は、少し離れた席に、その男を連れて行き。怯えている、もう一方の男を二美と車掌に任せた。

 15分、男と話していた総子は、EITOの通信機ガラケーを取り出した。このガラケーは、総子と従姉の伝子の叔父が残したシステムを組み込んだ、傍受困難な通信の出来るガラケーだ。

 総子は、かいつまんで大前に話し、この列車のドアの施錠だけ運転席から解放して貰い、迎えに来たオスプレイに二美が連れ出すという作戦を伝えた。すぐに、大前が オスプレイを手配するだろう。

 その男だけを連れ出すのは、乗客が皆、ダイナマイトで立てこもった犯人という。間違った認識を持っているからである。

 7分後。オスプレイが紀州路快速の列車の上空にやって来た。総子は、臨時の通信機で運転手に合図をし、二美は、降りて来たロープに、その男を抱いて空に消えた。

 総子は、見えなくなってから、怯えていた男を運転席側から連れ出し、迎えに来た、警察官姿の一美と共に、駅に戻った。

 総子達が戻って来てから15分後、運転は再開され、駅長が各方面に連絡をした。

 1時間後、大阪府警本部長が大前と共に記者会見を行った。

 「勘違いですやん。ようあるでしょ。葬式行って靴間違えて履いて帰ったとか。白井義男さんは、鞄間違えたんですわ。たまたま、優先席のことで道端徹さんと揉めてた最中に、鞄のチャックが開いて、道端さんが驚いて大声出して、他の乗客が騒ぎ出したんですわ。ダイナマイトで立てこもりとはチャイますやん。第一、ライターも所持してないのに、火イ点く訳ないがな。」

 大前に続いて、本部長が言った。「EITO大阪支部と大阪府警の絶妙なコンビネーションで、早期に真相が判明しました。尚、間違われた白井さんの荷物は、目下捜索中であります。」

 だが、事件はまだ終っていなかった。

 午後3時半。

 南部と総子は、白井義男を連れて、白井のアパートに帰ってきた。

 一緒に来た幸田が、この部屋にあるPCを見付け、画面を見た。

 「所長。これですわ。」幸田が指さした画面には、こんな文章が書かれていた。

 《ご注文のだいなまいとは、玄関ドアに置きました。リヴァイアサンバージョン2》

 「成程。お孫さんは、その郵便物を開けてびっくり、ダイナマイト。白井さんが見付けた時は、開封しただけの状態だったんですね。」

 「はい。私は何とか始末しようと持ち出したのものの、どうしたらいいか分からなかった。気が付くと、ハルカスにいた。それで、京都の海に捨てようと思った。私の出身は天橋立付近です。それで、天王寺から電車に乗った。紀州路快速は京都いかへんのに。それで、弁天町で乗り換えて、と思っていたら、優先座席で大きな声で、私と同じくらいの高齢者が怒鳴っていた。近くに寄ると、優先座席の席はワシが座る、って言ってる。若者が意地張って譲らんのかと思ったら、高齢者やった。その座席には、お腹が少し膨らんでいる女性が苦しそうな顔をして座っている。妊婦やから堪忍したったら、って言ったら、列車が揺れて止まった。」

 「所長。そのちょっと前に、JR神戸線の方で踏み切りの立ち入りがあって、環状線内も一時止まったんですわ。」と、花菱が言った。

 「で、その時に、ダイナマイトが飛び出た。」と、南部が言った。

 「あのチャック、そう言えば壊れてたわ。」と総子が呟いた。

 テレビのリモコンを拾った幸田が、「所長。お孫さんは、一旦戻ってますね。車内をスマホで撮影したアホがTVに売ったらしくて、白井さんが一時テレビに映ったのを見たのと違いますかね。」と、言った。

 「それで、どこに行ったんやろ?所長、広域手配して貰いますか?」と、花菱は言った。

 「ああ。そうしてくれ。」と、考えながら、南部は応えた。

 白井義男の孫、紀子は、その夜、帰って来なかった。だが、総子は諦めなかった。とっくに気づいていたのだ。彼女が幼なじみであることを。

 翌日。午前8時50分。白井のアパート近く。

 昨日午後4時からの交替張り込みは功を奏した。

 白井紀子は、自分の部屋に戻ろうとしたが、非常階段を上り始めた。

 彼女が、背の低いフェンスを乗り越えようとした時、総子は近寄って、言った。

 「のりちゃん。のりちゃんやろ?何してるん?まさか飛び降りへんよね?」

 「え?」「ウチや。江角ふさこ。一緒に誓ったよね。何があっても乗り越えようって。また、イジメにおうたん?ウチがいてるやんか。ウチが庇ってあげるやんか。取り敢えず、こっち来て。」

 「ウチはもう終わりやねん。ふさちゃんとの約束破る。ウチはイジメに負けたんや。負け犬やから、変なもん注文してしもた。お爺ちゃんは、ほかしに行ったんや。ウチを庇って。ウチが悪いんや。イジメに負けた、私は弱虫や。ごめん。ごめんなさい。あの世で待ってるわ。」

 「そんなこと言わんといて。あんたはウチの恩人や。ウチが東京弁しゃべって、イジメにおうてる時、助けてくれたんは、ノリちゃん。あんたや。」紀子は、総子の方を見た。

 「ノリちゃん。ウチのことほっといて死ぬんか?あんたがウチに大阪弁おしえたんやないか。お陰で大阪弁抜けへんようになったやないか。責任取ってや。責任取らんと死ぬ気か?あんたに出来るんか?責任感強いあんたに。なあ。またお好み焼き食おうや。」

 紀子は、踵を返し、空中にダイブした。1メートル下で、二美が紀子をキャッチした。

 先ほどから、オスプレイから降りて来ているロープに体を巻き付け、待ち受けていたのだ。二美は、口に咥えていた、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛のような、特殊な音波を出す、EITOが開発した笛で、主に緊急連絡に使用する。

 オスプレイは、ゆっくりと、二人を地面に降ろした。

 EITOエンジェルスのメンバーが、素顔で近寄って来た。

 大前は言った。「ようこそ。イジメの絶対無い、EITO大阪支部へ。白井紀子隊員。」

 総子は、紀子を抱きしめ、しばし泣いていた。

 ―完―


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