第6話 Karmic Retribution ――天唾――
黒い腕に掴まれるどころか全身を覆い隠されてしまったフルゥウス。
「やったわ!」
シャルロットの口から思わずそんな声があがる。
だが、黒い腕は霧散して消え去ると、そこには無傷のフルゥウスが静かに立っていた。
「これが君の切り札なら非常に残念だ」
「な、なんで」
魔力を使い過ぎたのか、はたまた気が抜けてしまったのか、それとも絶望したのか、それら全てなのかはわからないが、膝から崩れ落ち倒れそうになるが、杖を支えに膝立ちになる。
「ボ、ボくが解説、し、しよう、しゃ、シャルロット」
今まで存在感がなかった枯れ枝のような男――ゼフィレル――が薄ら笑いを浮かべる。
「なんなのよゼフィレル!」
「お、落ち着きたまえよ。しゅ、淑女が,こ、声を、あ、荒げるなんてらしくないじゃないか、か、か」
びくびくしながら背中を丸めながら、シャルロットの顔色をうかがう。
「き、君は、昔から、呪文を唱えるのは、う、上手かった『歌姫の魔術師』な、なんて呼ばれるくらいだからね」
「それが何なのよ!」
「き、きみ、真言の勉強を、し、してなかっただろう……だ、だ、だから意味を知らずに『アームド・オブ・カオス』を使った。使ってしまった。あの呪文を約すると『闇夜に揺らめく星々よ、目眩くばかりの力を私に与えよ。厄災の腕よ、敵を襲い、破壊の火を放て。
破壊神よ、我らに力を与えよ。不滅の魂よ、力を示せ。私たちは深淵に立ち、破滅をもたらす者たちである。厄災の腕、全てを破壊せよ』だよ。き、君は破壊神を破壊神の力を使って倒そうとしたのさ」
「そ、そんな……バカな……」
ショックのあまりあとずさりして杖も落とす。
「お、落ち込んでいるところ申し訳ないけど……『
短く呪文を唱えると、シャルロットの背後に現れたような黒い扉が現れる。
「そ、そんな……あんたは、まともに長い呪文は唱えられないのに……その短い呪文でなんで『アームド・オブ・カオス』を発動できるのよ」
「フフフフフフフフハハハハハハハハハハハハ」
突如として高笑いをする。
「き、気になりますよね。気になりますよね。これこそが、ボくが、心血を注いで完成した『魔法の圧縮』です。短い呪文で開放することで、あらかじめ圧縮した魔法を発動できるのですよ。も、もちろん欠点はまだありますが、で、でも、この魔法ならボくは、魔法をきちんと使用できるのです」
自慢するような自信に満ちた饒舌で話し始める。そして、発動した『アームド・オブ・カオス』により黒い扉が開き、無数の手が伸びシャルロットの四肢を掴むと,マキに起きたように、炭化し崩れ落ちていく。
「あぁっ、あぁっ、ぁぁああぁぁぁぁあああアアアア、わ、わた、わたくしの手足がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
黒い腕は役目を終えたかのように、消え去る。
「シャルロットさん!」
助けに入ろうとセリアが駆け寄ろうとするが、目の前にギロチンの刃が落ちてくる。
「おのれ、この『ワイドスラッシュ』」
金髪の剣士のアレックスが剣を横薙ぎに払いマリーへと放つが、その一撃は、レヴァンが大斧で悠々と受け止める。
「ぬるいねぇ。そんな一撃じゃ、無理だぜ。さてと、マリーだっけ? 主殿がお呼びだ」
「……わかっております」
退きながらフルゥウスの下へと集う。
「あ、主殿、か、彼女を回収しても?」
「かまわぬ」
「ありがとうございます『
見えない腕に掴まれた、シャルロットが引き寄せる。
「は、放しなさい。い、今なら許してあげるわよ」
じたばたとしながら暴れるも手足がない状態では何もできない。
「くそっ、シャルロットを人質にする気か」
何とか立ち上がった、勇者、
「ふむ、流石は『勇者』というべきなのか、まぁ、ここで倒してもいいのだが……」
そういいながら背後から飛んできた矢を見ることなく大鎌で斬り落とす。しかし、それが合図だったのか上空からも雨の如く無数の矢が降り注ぐ。
それに対してフルゥウスは手をかざすし『
「皆、引け! ここからは我が国の騎士団が引き受ける」
白銀の甲冑を身に纏った少女が凛々しく剣を抜き突きだしていた。
「レジーナ姫!」
カエデたちが、甲冑の少女に駆け寄る。
「カエデ、遅くなって申し訳ない。想定外のことだったので護衛にきていた鋼壁騎士団を配置するのに時間がかかってしまった。鋼壁騎士団長『レイセク・マアランガ』」
その呼び声に背後に控えていた黒鉄の騎士が甲を脱ぎ一歩前に進み出て膝をつき頭をたれる。
「御前に」
「貴殿に
「誉れある大役。謹んでお請けい下ます。ですが」
一拍を置き笑みを浮かべる。
「倒してしまっても構わないでしょうか?」
[ふっ、いいよる。任せたぞ」
「ハッ、鋼壁騎士団これより邪神討伐の命が下された、いくぞ」
その掛け声に呼応するように、包囲陣を敷いていた騎士たちが姿を見せる。
「では、こちらは退くぞ」
「しかし、シャルロットが」
「……あれも我が国の宮廷魔術師ならば覚悟はできていよう」
残念そうにしながらもカエデたちを引き連れ場をさるように誘導する。レジーナ姫。
「わかった。騎士団の方々、ここは任せました。我々は退きますが、できれば再会を」
そのカエデの声に呼応するかのように騎士たちからは気合がほとばしる。
「いつか、あいつらを倒すぞ」
仲間たちにそう声をかける。
「あぁ」
「ですわね」
セリアとアレックス短く答えてレジーナに案内され駆け出した。
そして、それを見送るレヴァンは
「良かったのですかい?」
「あぁ、構わないよ。天命値が高い状態だと倒すと面倒なことになるからね。それに勇者を倒すには条件があるのだよ」
フルゥウスはそう言いながら矢の雨が終わるのを待ち続け、やがて矢が尽きると騎士たちが吶喊してくる。
「では、蹂躙を開始しよう」
「「「御意」」」
おおよそ200人程度との騎士たちへの蹂躙劇というな名の喜劇が開始された。
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