第5話 The Fury's Advocate――憤怒の復讐者――

 銀色の甲冑を身に纏う聖騎士アレックスの振るう剣と魔法陣から姿を現し、アレックスからレヴァンと呼ばれた男の左腕で振るう大斧が何度も激突していた。


「くっ……相変わらずの馬鹿力ですね」

「てめぇが右腕を斬り落としてくれたからよぉ。左手を重点的に鍛えられたぜありがとうよっ!」


 力強く振られた大斧をアレックスは剣で受け止めるが、5歩ほど後退させられる。


「なまってるんじゃねぇか?」

「黙れ! 『サウザンドスラッシュ』」


 剣線が奔り、レヴァンへと迫るが――


「やっぱり、なまってるぜ! アレックス! 『テラブレイク崩壊撃』」


 大斧を一閃! 剣を弾き、アレックスは無様に地面を転がり、剣には亀裂が入る。


「き、貴様! 我が家の家宝である聖剣『シルブレイド』に傷をつけるとは、許さん!」

「剣だけじゃ済ませねぇよ! オラッ!」


 レヴァンは、アレックスの足を掴むと、力任せに頭上まで振り上げて地面に叩きつける。


「ヌォォォォ――――ガハッ」


 無様な声を上げながら地面に叩きつけられる。


「まだまだァァァァアアア!」


 さらに何度も何度も叩きつけること数度。髪を掴んで引き起こす。


「てめぇ、こんなに弱かったか? 俺を取り巻きを使って襲撃して! 右腕を斬り落として置いて、なんだこの体たらくは!」

「ゴフッ」


 レヴァンの頭突きが炸裂し鼻が折れ鼻血がもれる。


「人の事を平民、平民といいながらよぉぉぉぉ! 腕を斬り落として高笑いしてたやつがよぉぉぉぉなに簡単にへばってんだよ!」


 長い髪を掴んだまま振り回し、激しい応酬を繰り返すセリアとマリーの間へと投げ飛ばす。


 ブチブチ――――


 嫌な音とともに二人の間に投げ飛ばされるアレックス。

 それに対してマリーは――激怒する。


「お姉さまとの、愛の語らいに割り込むなんて……お姉さまとワタシを遮る男は死ぬ」


 ギロチンの刃がアレックスへと迫る。


「『神の加護を宿す 聖なる帳

 我が手に力を宿し、不可視の障壁を創造し

 脅威から彼を守るために盾とならん』

 プロテクション!」


 ガガガガ――


 ギロチンの刃が、見えない障壁とぶつかり火花が散る。


「す、すまない。助かった」


 土煙が立ち込め中、アレックスはよろめきながら立ち上がり、軽く礼を述べる。


「アレックスさん、……」

「うん? あぁ、これくらいかすり傷……と言いたいが、傷を治してもらえるかレディー?」

「えっ、えぇ……『神が与えし聖なる治癒の力、癒えぬ傷に薬を、消えゆく命に希望を。神の慈悲により、救済を与えん』ヒール」


 聖句を紡ぐと、アレックスの頭頂部を除いて、傷が癒される。


「よくもヨクモ、あねエさまカら癒シを受けるなんて………――殺す、ころス、コロす、死ネ、シね、シネ死ね!!!!!!」


 鎖付きギロチンを振り回し、回転はギロチンの重量から生み出される遠心力で加速していく。


「暴風だねこりゃぁ。おっかないおっかないっと」

「くっ……レヴァン」


 斧を構えたレヴァンがゆっくりと斧を構える。


「ところで、いいのかい? お前らの使徒様はだいぶ押されてるぜ?」


 そういって自身の背後を顎で指すと、そこでは


「黒の聖剣『シュバルツヴリィッツ』、白の聖剣『ヴァイスデイン』から繰り成す連撃その名も【白黒式・双雷閃はっこくしき・そうらいせん】」


 白の聖剣から繰り出される剣は閃光のように鋭く斬り刻み、黒の聖剣から繰り出される剣は大気を切り裂く力強い剛剣は全てを両断する。

 そう、そのはずなのだが、その攻撃はフルゥウスの大鎌の神器『アポカリプス・グリム』で軽くいなし、その刃が毛先ほども届くことはなかった。


「同郷でありながら、なんとも容赦のないことだな」

「だまれ、お前はただのイベントだ。僕が……いや、私が勇者として、この物語の主人公の前に立ちはだかる最初ボス! 勝確のイベントなのだよ!」


 迦慧照かえでが腰だめに双剣をクロスすると激しくスパークを起こす。


 「ライトニング――」


 両手を左右に広げ


 「バースト――」


 全力で踏み込み一足で最大速度まで加速する。


「ブリンガアァァァァァァァァァ!!!」


 激しい剣の乱舞。確殺の一撃といっていいほどであるが、フルゥウスは悠然と攻撃を捌くどころか柄で、足を払いそのまま殴り飛ばし、迦慧照はシャルロットの足元まで転がる。


「く、くそ」

「使徒さま、準備ができました。アームド・オブ・カオスの呪文がいけます」

「すまない。シャルロット、君ならできると信じている」


 迦慧照ルビを入力…の言葉に励まされたのかシャルロットの気合が高まる。


「はい、お任せを」


 杖を構える歌うように高らかに詠唱を始める。


「くらいなさい『अन्धकाररात्रौ स्फुरन्ति तारा, मम चकाचौंधं शक्तिं प्रयच्छतु। आपदस्य बाहुः शत्रुं आक्रम्य विनाशस्य अग्निं मुक्तं कुरु!』」


 最初に使った時よりも禍々しく大きな黒い門がシャルロットの背後へと顕現する。


「『विनाशस्य देव, अस्मान् बलं देहि! अमरः आत्मा, स्वस्य बलं दर्शयतु। वयं प्रलयकारिणः अगाधस्थाः। आपदा बाहु, सर्वं नाशय!』アームド・オブ・カオス」


 巨大で禍々しい無数の腕がフルゥウスへと迫る。


「おや、その呪文は……」

「さすがの破壊神でもこの呪文は恐ろしいみたいね」


 微動だにしないフルゥウスを腕が捉えるのであった。

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