第4話 Fanatical attachment――狂愛――

 セリアの操る鎖付きの鉄球が勢いよく飛び回る。だが、マリーは猛攻を軽やかに巨大なギロチンの刃に繋げた鎖で巧みに操りいなし続ける。


「ふふふふ、愉しいですわね。お姉さま」


 その狂気のような中でもマリーは笑いながらいなし続けている。いや、何度かは鉄球を受けているはずなのに、気にすることなく,出鱈目にギロチンの刃を振り回す。


「はぁ……お姉さまからの久々に痛みを受けられてとってもとっても嬉しいですわ」

「黙りなさいマリー。お仕置きが足りないのかしら」


 鎖をマリーの胴に巻き付けると、そのまま勢いよく壁に叩きつけると厚い壁をぶち抜き、観客席に叩きつける。


「はぁ、気持ちよくて昇天ッてしまいそうでしたわ。お姉さまのお仕置きとっても懐かしいですわ。今でもはじめては覚えてますわ。八歳の時に、掃除用具の片づけをわすれた時にワタシに箒の柄を入れていただいたこと……、そのまま用具入れに3日間も入れていただきました。それを思い出して慰めていましたら、両指を折ってもいただきましたね。10歳の時にワタシの目が綺麗と言って右目を抉ってくださいました。汚物の中に45回沈められたのも覚えています」

「黙りなさい」


 冷たい声で短く言い放つ。


「いえ、黙りません。お姉さまとの蜜月はラタシの宝物ですもの。覚えてますか、嵐の夜に、ワタシの腕に長い釘を打ち込んで燭台にしたことを、あれはとっても綺麗でしたわよね」


 うっとりと恍惚な笑みを浮かべ自らの体を抱きしめる。


「けど、お姉さまはワタシを捨てました。初潮を迎えたあの日……あなたはワタシを捨てました」


 声のトーンが冷たくなる。


「毎日、毎日、鞭で皮膚が裂け、肉まで裂けるまで鞭を振るってくれたのに……その日から何もしてくれなくなり、直ぐに未開拓地の教会へと送られました。そこでは最悪でした。なにせ、修道院とは名ばかりで娼婦のような扱いを受ける少年少女の世話や、魔物に襲われ満身創痍の状態で、まともな治療も受けられない開拓民の壊死した手足を斬り落とす日々。地獄のような日々でしたけど、そこで多くを学べました。そして気づきました。お姉さまから痛みけど、ワタシはお姉さまに愛をお返ししてなかったと……」


 自分の鎖を振り回し、遠心力でギロチンの刃は大きく、勢いよく回転を始める。


「さぁ、ワタシの痛みを受け取ってくださいませ!」


 高速で飛来する刃を横跳びで避けると地面を突き刺さるも勢いそのままに抉り土煙をあげる。

 その体勢のまま、セリアは神へ祈り、その力を行使する。


「『神の加護を宿す 聖なる稜線りょうせん

激烈な光辺りに散り 敵を破滅へと導く

腕を掲げ 神の援護を乞う 

前方に拳を固く握りしめ 運命を手中に収める

天高く輝く 聖なる円環えんかん

聖霊の加護を全身に 究極の力を我が手に

この手に刻む 神聖なる紋章もんしょう

敵を破壊する力を その身に宿しし

光輝く力よ 我が手に宿りしは

神の意志と契りともにし、敵を討ち滅ぼせ!』

フォース・エクスプロージョン!」


 閃光の奔流が炸裂し、あたりいったいを吹き飛ばし、瓦礫が宙を舞い、砂ぼこりが立ち込める。


 ヂャラリ――という音にセリアは反応して、横に避けながら、音を頼りに鉄球を振るい、ガシャン! という音が鳴る。


「残念。お姉さま、そちらではありませんわ」

「なっ」


 土煙が少し晴れると、ギロチンの刃が地面に突き刺さっており、刃に鉄球が激突していた。

 マリーは刃ではなく鎖を掴んだまま、跳んできたのである。

 そして、驚くセリアの腕に鎖を巻きつけると、渾身の右フックを叩き込んだ。


「お姉さま。お姉さま。ワタシの痛みをたくさん受けてくださいまし」


 満面の笑みを浮かべながらマリーは、吹き飛びそうになったセリアを引き寄せ殴打を繰り返す。

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