第3話 Destruction――断罪の破壊神――

 破壊神『フルゥウス』と名乗る金髪の少女は、感覚を確かめるように手を見つめながら握ってみたり体を軽く動かした。


「破壊神を名乗るなど神々への不敬。万死に値すると神も申されました」


 鉄球を振るう聖女セリアは、全力で鉄球を叩きつけた。

 だが、大岩も砕く鉄球を少女は片手で受け止め、指に力を籠めると綿にでもめり込むように凹んだ。


「これが人の体か……ふむ、本来の力の万分の一しか出せぬが人相手ならば充分であろう」


 尊大。圧倒的な存在感。一挙手一投足どころか呼吸音からもそれは伝わる。


「さてと、吾、使徒を嬲者なぶりものにした罰をあたえねばな。貴様ら楽に破壊されると思わぬ方が良いぞ」


 手を頭上にかざし「イクイップメント武装」と短く唱えたフルゥウスの手には体躯よりも倍近い長さが不気味な大鎌が握られていた。


「神器『アポカリプス・グリム無慈悲な黙死録』」


 くるくるとバトントワリングのように回して見せる。


「隙あり! 『サウザンドスラッシュ』」


 白銀の聖騎士アレックスが秘剣を放つ。


「ただ、剣を振るうだけに随分な名前だな」


 大鎌で軽く弾き剣の軌道を変えるとそのまま左腕を斬りつける。アレックスは慌てて飛び退きなんとかかすり傷で済む。

 その様子を観察しながら、鎌を振るい感触を確認する。


「ふむ、斬り落とすつもりだったのが、やはり現世うつしよにまだ慣れていないか……」


 そう呟くさまを確認しながら迦慧照の下に、全員が集まり相談を始める。


「シャルロットどうなってるんだ。ボクはこんなの聞いてないぞ」


 恐怖で幼児退行して先ほどまでの芝居がかった口調ではなく素の口調がでている迦慧照。


「申し訳ありません。わたくしも想定外の出来事でした……まさか、彼女のジョブが『召喚士』たとは……」

「しかし、神殿の鑑定では彼女のジョブは『霊媒師』だったはず」

「僕たち転移者にはジョブが二種類与えられているんだ……最初のジョブは神殿でもわかるそうだけど、二番目のジョブは神の目でもわからないと説明された」

「今はそれよりも、アレとどう戦うかだ…シャルロットさっきの黒い腕の魔法はまだ使えるか?」

「あと一回ならいけるわ。ただ、さっきとは違って最大威力で発揮するには、わたくしでも最低でも60を数える時間が必要になるわ」

「では、その間はわたしとセリアで時間を稼ごう」

「承知しました。アレックス。カエデさまは最後にトドメをお願いします。カエデさまのジョブ『勇者』は敵が強大な存在なほど力を発揮すると言われています」

「わ、わかった。僕も力を溜めて最後の一撃は僕が、いやわたしがやろう」


 作戦会議を終えて全員で戦闘態勢をとる。


「作戦は決まったか? 吾のほうも準備を終えたところだ。せっかくの宿主の力を使わないのはもったいないのでな。それでは呼び声に答えよ『召喚』」


 そして、空中に浮かぶ3つの魔法陣。どのような化け物が現れるかと固唾を飲んだが現れたのは三人の人影。一人は目を包帯で覆った修道女、一人は猫背で緑色のフードを被った痩せこけた枯れ枝のような男、一人は右腕がない筋骨隆々の大男が現れた。


「お久しぶりです。セリアお姉さま」


 目を包帯で覆った修道女は見えていない筈なのにセリアに声をかける。


「そうね。マリー」


 名前で呼び合う親しい間柄ではあった。


「ケキョケキョ…や、ヤァ……シャルロット。ぼ、ぼクから、ぬ、盗んだ魔法は、や、役にたってるかな」


 にたりと不気味な満面な笑みをシャルロットへと向ける。


「えぇ、ゼフィレル・ブラッドフィールド。あなたの研究だけは役に立っているわね」


 歯ぎしりをしながら睨みつける。


「よぉ、久しぶりだな色男」


 巨漢は親し気に語り掛ける。


「レヴァン、君とまた再開するとはね」


 端正なアレックスの顔が憎々し気に歪む。


「ふふふ。もたけなわだからね。君らにと縁ある人物を招いてみたがどうかね?」


 楽し気に笑いながら、大鎌を振り回す。


「『召喚魔法』では人を召喚することはできなかったはず……」


 シャルロットのつぶやきに


「その法則は破壊した。吾は神ぞ」


 不遜に事もなげに答えながら


「さぁ、破壊劇の幕開けとまいろうか?」


 戦いの二幕が上がる。

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