第20話

少しずつ肌寒くなってくる早朝、アーテルは郵便受けを確認する。といっても基本はカラなのだが稀にブルーノなどからの仕事の手紙が入っている。あとは見たくもない税金関連だろうか。


そういう訳でなるべく郵便受けを見るようにしている。さて今回の中身は何かなと郵便受けを覗いてみると。


「?誰からだこれ」


ブルーノからの手紙で使われる封筒でもなく、かといって役所からの手紙の袋でもなかった。


眺めながら家へと戻る。裏側を見てみると麦が描かれた封蝋があった。


「手紙ですか?珍しいですね。誰からです?」


シルクがキッチンから現れ、興味を持ったのか問いかけてくる。


「封蠟があるけどどこのデザインかわからないんだよなぁ。シルクはわかるか?」


シルクに問いかけながら麦がデザインされた封蠟を見せる。


「うーん。残念ながら私はここら辺のことはあまり知らないので…」


以前シルクの出身地を調べてみたが、場所はこの町の隣の小さな町だった。なので知らないのも当然と言えばそうだろう。


「とりあえず中身みてみようか」

「そうですね。そうしちゃいましょうか」


手紙の内容は要約すると、「息子が病気になり、専属の医者は風邪だというが1週間しても治らない。その間の衣食住はすべてこちらが持つので治るまで診てほしい」という内容だった。そして最後には「ブラウン・ディニタース」と名前が記されていた。


「ディニタース卿!?」

「お知合いですか?」

「知合いではないけどこの町の領主…だな」

「えぇ!?」


ブラウン・ディニタース。この町の領主で経済や保全に力を入れる領主の鏡のような存在でこの町が大きく栄えた理由でもある人物だ。さらにこの文を見る限り父親としてもできた人物なのだろう。


「そんなお方が…その…失礼に聞こえたら申し訳ありませんがなぜアーテルさんに診察の依頼を?」

「うーん…なんでだろうなぁ」


資産のある、しかも栄えている町の領主がただの町医者に依頼するにはそれなりに理由があるのだろう。


「…またしばらく帰ってこなくなっちゃいますね?」


シルクは平気そうに、しかし彼女特有の耳はしゅんと下がっていた。


「あーそれなんだけど…もしシルクが大丈夫なら一緒についてきてくれないか?」

「え、いいんですか!?」

「逆に大丈夫なのか?その…耳かとか」


シルクの耳をみて言う。


「まだ堂々とは見せれないですけど、それでも以前よりはだいぶマシになりましたから」


確かに最近は知り合いの前だと見せるようになってきた。


「じゃあそれなら気兼ねなく頼めるな」

「はい、ご一緒させてもらいます!」


シルクについてきてもらったのにはちゃんと理由がある。まず一つは前回のように泣かせないこと、二つ目は礼儀作法。これは以前シルクが母親から教わっていると言っていたからだ。そして最後に領主にシルクを知ってもらうため。


(ここを離れるときに少しでもいい場所に行けるようにしてやらないとな)


そのための決意と、寂しさと心の痛みを持ってついてきてもらうようにした。

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