第18話
「シルク、次の人呼んできてくれるか?」
「わかりました」
時期は9月半ば。季節の変わり目ということもあり患者の数は多かった。
「よし、さっきの人で最後だな。休憩にしようか」
「そうですね。…最近は人が多くて中々休憩もできませんね」
シルクは苦笑いをしながら言う。
「ほんとにな。まぁ後しばらくもすれば落ち着いてくるだろうからそれまでの辛抱だな」
「そうですね。がんばりましょう」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へっくしょん!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「くしゃみしただけだよ…。まぁちょっと風邪気味ではあるな」
午後の診察を終わらせ、夕食も食べ終えてゆっくりしていた時のこと。患者の風邪がうつってしまったのか少し風邪気味になってしまったようだ。
「今日はすぐに休んだ方がいいですよ」
「そうだな、そうさせてもらうよ」
心配そうな顔をしているシルクに言われてしまったのでおとなしくそれに従い、少しだるい体を持ち上げて寝室に向かう。が、机の上に置いてある書類仕事をみてしまったので残念ながらすぐに寝ることは出来ず、結局いつもより寝る時間は遅くなってしまった。
「熱出てるなこりゃ…」
おかげさまで熱もでてしまった。この状態で診察でもしたら患者にも迷惑がかかるので流石に休まなければならないだろう。そのことを伝えるためにもふらふらとした足並みでリビングへと歩く。
「シルクー…いるかー…」
「随分声がかれてますけど…って大丈夫ですか!?ふらふらですけど!」
リビングから慌てた様子でシルクがでてくる。
「すまん風邪が悪化した。病院が休みになるっていう貼り紙はっといてくれるか?」
「わかりました、まだ朝食作ってなかったので先に言ってくれてありがとうございます。じゃあすぐ寝ちゃいましょう。悪化したら大変ですし」
「そうさせてもらうよ」
またもやふらふらとした足並みで寝室へ向かい、ベットに潜り込むとすぐに寝てしまった。
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外から聞こえる怒鳴り声で目が覚めてしまった。この家は診察室や入院のための部屋もあって結構大きいはずだがそれでも聞こえてくるというのはどういうことなのだろうか。
「ですから!アーテルさんは風邪で診察できないんです!」
「知らねぇよ!じゃあお前が診ろや!」
「わ、私は医者じゃないんで無理なんです!」
「じゃあなんでここにいんだよ!役目もねぇのに寄生してんのか!?」
「ッ…」
シルクが相手している男をドアの隙間からみてため息が出る。こういうタイプは今までにも何回かいたがまさか当人以外にも当たり散らすとは。
「シルク、いいよ。診察をしよう」
「アーテルさん!」
「いいから」
「なんだよ。できるなら早くやれっての」
男はやはり悪態をつく
「あぁそうだ、患者さん1つお伝えしたいことが」
「なんだよ」
「俺に対しての暴言は別にどうでもいいですがこの娘に関してはやめていただきたい。次からは診察拒否ですからね」
アーテルは男を睨み付ける。
「ちっ悪かったっての」
「俺じゃなくてこの娘に謝ってほしいのですがね」
結局あの男は謝ることもなく捨て台詞に「二度とこねぇ」とだけ呟いて帰った。
「こっちこそお断りだっての。…大丈夫だったか?」
「…怖かったです」
騒々しい男が去った静かな部屋でシルクは呟く。シルクは少し涙目で、耳もしゅんとしてしまっていた。
「次今回みたいなことがあったらすぐに俺を呼ぶんだぞ?」
「はい…」
少し迷った後、シルクの頭に手を置く。
「頑張ったな」
そう伝えると途端にシルクは泣き出してしまった。その姿を見ると自分が風邪であることなんてどうでもよくなってしまった。
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