第16話

「よし、じゃあ行こうか」

「そうですね、行きましょう」


講義から帰ってきた次の日。約束していた割ってしまった皿の買い直しと美味しいものを食べに行く、それと昨日遅れたことへの謝礼のために出かけることにした。


「それにしても、ちゃんと約束のこと覚えてくれてたんですね。嬉しいです」

「この約束を忘れたら積み上げてきた信頼と食事に使う皿が永遠に帰ってこないからなぁ」

「前者まではまだ許せたんですが後半は余計です」

「ごめんなさい」


さっきまでニコニコとしていたのに、そっぽを向いてしまったシルクと足並みを揃えて歩く。それでもすぐに微笑んでくれている所からまだ失望はされてないらしい。何か面白かったわけでもないがお互いに微笑みあう。一緒に暮らしている相手と2日会わなかったせいか、無意識のうちに寂しがっていたのかもしれない。珍しいわけでもないお出かけにアーテルは喜んでいた。それはもちろんシルクにも言えることだった。


「今日はどういった順で回るんですか?」

「そうだな…皿はまぁ最後に買うとしようか、荷物にもなるし。お昼の時間もまだだし最初は市街地とか回らないか?」

「いいですね。そうしましょうか」


今日の予定を大まかに決め、市街地へと足を向ける。


「今日はいつにも増して人が多いな」

「ほんとですね。お祭りとかがあるわけでもないのに」


家から少し歩き、市街地へ着く。普段から賑わってはいるが今日はいつにも増して人が多かった。


「はぐれないようにな」

「子供扱いしないでくださいよ」


俺からしたら子供だよと付け加えれば今度こそ機嫌を損ねると判断し付け加えなかった。


賑わう市街地を歩いていると、シルクの足が止まる。視線の先にはアクセサリーを取り扱っている露店があった。


「あ…すみません。行きましょうか」


足が止まっていたのに気付いたのか急いで歩くのを再開する。


「いいよ。見たいんだろ?どこに行くかも決めてないし見ていこう」

「いいんですか?ありがとうございます」


シルクは嬉しかったのかフードの中で耳を動かす。


「わぁ…!」


シルクは並べられたアクセサリー類を見て目を輝かせる。年頃の少女なりに興味はあるのだろう。


「何か気に入ったものがあったら言ってくれ。買うよ」

「い、いや…そこまでは…」

「昨日の謝礼として買わせてくれよ」


苦笑しながら伝える。シルクもこくりと頷いた後にアクセサリーを選び始める。


「じゃあ…これをお願いします」


シルクが選んだのは青い宝石のようなのがついたペンダントだった。購入を済ませた後にシルクに渡す。


「付けてもいいですか?」

「そのために買ったんだからね」


シルクはペンダントを付け始める。


「似合ってますか?」

「とても似合っておいでですよお嬢様」


シルクは頬を赤くしながら年相応の少女らしく笑った。

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