第15話
「まさか2時間も延長して講義を続けるとは…教育熱心過ぎないか?センセー」
「向こうの勉強への意欲がすごすぎて質問が終わらなかったんだよ。すまんな、送りの時間を遅らせてもらっちゃって」
講義の最終日、最後の日というのもあって参加者側からの質問が多かった。一つ一つ答えていたらいつの間にか2時間もたってしまっていた。
「まぁそれについては構わないよ。むしろこっちの方が申し訳ないね、2時間も対応してもらっちゃって」
「いいことじゃないか、医者として素晴らしいことだろ」
「それはそうだけど…。元々センセーには早く帰ってもらおうと思ってたんだ」
「俺真面目に働いてたと思うんだけど」
確かにブルーノには散々飼育してもらったので愛想をつかされてもおかしくはないが
「いや、そこは問題ないよ。だってシルクちゃんが待ってるんだろ?じゃあ早く返さなきゃじゃないか」
「…何度も言うけどお前が考えてるような関係じゃないからな」
ブルーノは何故かアーテルとシルクのことを新婚か何かだと考えている。確かに言われてみればそう見えなくもないかもしれないが、ブルーノの場合何度も否定してこれなのだから訳が違う。
「いやなんと言うかな…。俺にはできなかったものを見てるような感じで、うらやましい気持ちもありながらそれ以上に幸せになってほしいんだよ」
ブルーノには昔、婚約者がいた。しかし、数年前に病によって逝去してしまった。そして、アーテルが救えなかった者の一人でもあった。
「すまなかったな、婚約者さんのこと」
「嫌味に聞こえたな、すまないそういうつもりはなかった。それと何度も言うけどあれは仕方なかったことだよ」
ブルーノには何度も謝り、その度に許してもらっている。しかし、それで済むようなものでもなかった。
「ところで帰ったらどういちゃつくかは決めたのかい?」
さっきまでの申し訳なさが消えてしまった。
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「ただいまー、やっと帰れたー」
ブルーノに送ってもらい、ようやく家に着くことができた。家の扉を開けて一息つきながら言う。
普段ならここでシルクが迎えに来てくれるが今日は珍しく来ない。外から見たときは明かりがついていたのでいることは確実だ。
寝てしまったのかなと考えながら入ってきた扉をしめる。すると後ろから足音とともに何かが遠慮がちにしがみついてくる。この家に今いるのはシルクしかいないのでしがみついてきたのはシルクなのだろう。それでも予想外のことなので驚いて立ち止まっていると、嗚咽が聞こえて来る。
「ど、どうした…?留守の間になんかあったのか?」
「…帰ってこないかと思いました」
シルクは嗚咽交じりに言う。確かに2時間元の帰宅時間より遅れているので心配させてしまったのだろう。
「心配させて悪かった、ごめん。夕飯はできてるか?お腹すいたよ」
「…2時間前まで温かかったごはんなら」
「暑い夏にぴったりだね」
アーテルとシルクは久々に談笑しながら夕食を共にした。
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遅いなと思い始めてすでに1時間。合計すると2時間も言われていた時間より遅かった。
何かあったのではないかと心配していると玄関の方で音がした。アーテルだと思う半面違った時、もう会えないんじゃないかと考えてしまうと動けなかった。それでも玄関へと向かった。どうしても、どうしても会いたかったから。
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