第13話

「はー…。自分で受けたとはいえお前さんの料理を三日も食えないとなるとなぁ。あの料理が俺にも再現できれば…」

「作り手としては嬉しい言葉ですけど、アーテルさんはもうちょっと家事ができるようになった方がいいと思いますよ?」


ブルーノが帰ってからシルクに夕飯の準備をしてもらっている間にそう呟く。最初は慣れない環境で戸惑っていたのに一か月もすれば慣れた手つきで準備をしていた。


「まぁこれでもブルーノとかのおかげで生きていけてたからな」

「だからブルーノさんは食べ物を持ってきくださったのですね…」


ブルーノの持ってきた果物やパンを見てそう言う。


「それどころかお前が今持ってる調理器具もブルーノが持ってきたやつだな」

「ブルーノさんって飼育員か何かの仕事をやってるんですか?」

「ははっ。言えてるな」

「笑いごとで済まされるようなことなんですかねぇ」


それも言えてるねと笑う。まぁ確かにこのままじゃまずいのはわかっている。というかこの仕事を始めてからずっとわかっている。わかっているのに改善されていないということはつまりそういうことなのだ。察してほしい。


しかし、今はシルクがいるので昔みたいなことはできないだろう。「家事をしてくれる代わりに家に置く」という契約ではあるが、今のとこ確実にダメ男以外のなんでもない。さすがに年下の少女に養われるのはまずい。


「…今度から家事を手伝わさてもらっても?」

「私がここに置かせてもらっている理由なのですが…。大丈夫ですよ、別に家事をするのは好きですから」

「いやでもなぁ…」


シルクは家事の才能とダメ男を作る才能があるのだろう。ここで変わらないとほんとにダメ男になってしまう。


「…なにか不満があるならすぐに改善しますよ?」

「全くないし仮にあったとしても確実に俺よりはマシだから大丈夫。ただ単にこのままじゃダメ男になるって思っただけだよ」

「改善しようと思うのはいいことですね。じゃあ今日の夕飯のお皿洗いは任せましたよ?」

「3枚ぐらいは許容範囲でお願いね」

「一気に不安になりました」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ほんとに割るとは思ってませんでしたよ…」

「ごめんなさいほんとにごめんなさい」


割れてしまった皿の破片をシルクに手伝ってもらいながら拾う。


「…まぁわざとやったわけじゃないでしょうし許してあげましょう」

「ありがとうございます女神様」


どうやら俺が迎え入れたのは少女ではなくて女神様だったらしい。


「今度代わりのお皿を買いに行きましょうか。講義って泊りがけなんですよね?それが終わった次の日あたりに行きましょう」

「そうだな。そうしてくれると助かるよ」


ブルーノには2泊3日で講義をしてもらいたいと言われていた。次の日と指定したのは疲れを考慮してなのだろう。やっぱり女神様じゃないか。


「今更だけど勝手に決めちゃってごめん。契約期間内なら1人にしないって言ったのに」


思い出すのは1ヶ月ほど前。医者の仕事を再開したばかりのころにそう約束したのに破ってしまうことになった。


「…覚えてたんですね。てっきり覚えてるのは私だけだと思ってましたよ」


シルクは一瞬だけ驚いた顔をみせ、その後苦笑した。


「確かに私も構わないとは言いましたけど、内心はちょっと悲しかったですよ」


忘れちゃったのかなって、と耳をしゅんとさせながら言う。


「でもまぁ…アーテルさんにも事情だったり関係だったりあるでしょうし…。その代わりお皿を買うだけじゃなくて美味しいものとかも買ってもらいますからね」

「任せろ。確かパンケーキ好きだったよな?10枚がいい?20枚?」

「1枚で十分です」


真顔で返されてしまう。少し傷ついた。


しかしどうやら俺はシルクを傷つけてしまったらしい。帰ってきたらめいっぱい贅沢させてあげようと思った。

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